第3話 仲間の紹介の宣言②
その大男は部屋に入ってくるや、何かとんでもない事に遭遇したかのように驚き、目を見開いている。
僕達3人はその男を心配するように駆け寄った。
「おいおい、どうしたどうした」
「ひ、人が、人がいる……!!」
息切れしながら興奮気味に言葉を並べているこの男。実は僕達の友人だったりする。
保市(ほいち)雅(みやび)。通称ホイミ。
あだ名はなんともまぁ、癒し系の名前だが、そんな名前とは相反するイカつい外見。
プロレスラーと見間違うほどの大きな体躯に、
余談だが、ホイミは一浪生で、僕らとは学年は一緒だが、歳は一つ高い。そのせいもあってか、少しだけ僕らよりも大人びていた。
とにかくホイミを知れば知るほど、癒し系が霞んでしまう。
「人がいる? そりゃそうだろ。別にこのアパートは俺とナギだけの貸切じゃねぇし、当然、他にも住人がいる」
「とりあえず落ち着きなよ、ホイミ。ほら座って」
「お、おぅ。すまねぇ」
事情を知るためにも僕はとりあえず、空いている椅子に興奮止まらぬホイミを誘導した。
するとホイミは、外のコンビニで買ってきたであろう缶ビールを慣れた手つきで数本、袋から出し、机に並べて、蓋を開ける。
「なんか”つまみ”みたいなのあるか?」
「食い物はないが、ナギの妄想話はある」
「なんだそれ、”つまみ”にしてはクソ不味そうだな」
「ぶっ飛ばすぞ、お前」
まぁ、とにかくこの三人が、いつも大学でつるんでいるメンバーである。
昔からの馴染みであるレンはともかく、大学が始まってから知り合い、たった三週間近くが経っただけなのに、クドウとホイミとここまで仲良くなれたのは驚きだった。
この二人とは波長が合うというかなんというか。とても居心地が良かったりするのだ。それはレンも同じなんだろう。
「ところで、ホイミは何焦ってたんだよ。らしくないな。いつもならどっしりと構えて落ち着いてんのに」
まさにレンの言う通りだった。
いつものホイミなら何が起きてもあまり驚かず、悠々たる姿を見せつけているのに、今回ばかりはまるで違った。
「いやぁスマン、スマン。なにせ、久しぶりに度肝を抜かれるくらいの美人に遭っちまったからな」
そう言って、ホイミはゴクリとビールを喉に流し込んだ。
待ちに待ったアルコールが体内に入って、嬉しかったのか、ホイミは『く〜〜っっ!!』という声が出て、満足そうな表情を浮かべる。
「美人? 誰の事だろ。2階に住んでる、梅子さん?」
「80過ぎても性欲満載のあのヨボヨボ婆さんか? あれを美人と間違うなんてホイミの目腐っちまってるじゃねぇか」
「……梅子さんの同居人の松子さんかもしれない。もしくは二人のどっちも」
「おい、勝手に俺のストライクゾーンをババアだらけにしてんじゃねぇよ。つーか、もうババアしか選択肢にねぇじゃねぇか」
梅子さんと松子さんはこのアパートの住人で201号室に住んでいる。
この二人、口では表しづらいが、とにかく……凄いのだ。色々と。
「でも、そのぐらいじゃない? このアパートに住んでる女性っていったら」
「……3階に住んで、自分を女子高生と言い切ってる
「筋肉増やすためにステロイド使いすぎてイカレたあのおっさんか。40過ぎてたら無理あるだろ。世も末だな」
ちなみに数日前に権蔵さんに会ったが、いきなり玄関前で『シル・◯・プレジデント』を流しながらTikT◯kを撮り出したのを見た時には、本当にいたたまれない気持ちになった。
鍛え上げられた肉体で、女子ものの制服を着ている髭面のおっさんがリズムに乗って、一心不乱に躍る様子は強烈な光景だったといえる。
権蔵さん、最初会った時は凄い良い人だったのに。凄く残念だ。
「いや俺ももういないと思ってたんだがな? ついさっきこの部屋の向かいに女子大生一人が引っ越して来たみたいだぞ。しかもえらく美人でな」
「「「え!? マジ!?」」」
これは意外だった。こんなボロアパートに好き好んで入ってくる女子大生がいるとは。
住んでる身が言えた事じゃないが、こんな貧相な場に、世の中の華やかさ代表『女子大生』が一人で住むのはなんとも場違いだと言わざるを得ない。
女の子が一人で暮らすならもっとセキュリティがしっかりしてるとことか、綺麗なところに住んだ方が良いとでさえ思ってしまう。
「あまりの可愛さに俺も我を失っちまった。はぁ……。まだあの可愛い顔がこの頭の中に鮮明に残ってるーー」
「……梅子のM字開脚」
「ーーうぉえぇぇぇぇ……っっ」
よほど綺麗なモノを見たのか、のほほんと表情を緩め、余韻を楽しんでいたホイミだが、クドウの一言に突然嗚咽が出た。
「ーーな、なんてもん想像させやがる、クドウ!!」
「……いや独り占めは良くないかなと」
どうやら女子大生との思い出をホイミが独占しているのをクドウは気に入らなかったらしい。
全く……そうは言ってもあんな事を言うなんて。かくいう僕も梅子さんの描写が出てきて、若干、気持ち悪く……うぷっ。
「それなら心配いらねぇよ。近所づきあいも兼ねてなのか、こっちの部屋に挨拶来るってさっき言ってたし」
『コン、コン……』
そうホイミが言った途端、軽いノックが扉の向こうから聞こえた。
どうやら噂の女子大生のようだ。
「ほら、言った通りだろ?」
ノックを聞くと、得意げにホイミはそう言った。
ふむ。わざわざ隣の部屋に挨拶に来るなんてなかなかにしっかりした人のようだ。
しかも姿は見えなくても先程のたった一度の小さなノックからも多少の気品が感じ取れるようだった。
だがしかし……それはむさ苦しい男達の合戦の新たな火種ともなったのだ。
「おい、テメェら!! 邪魔すんじゃねぇぞ? 今回は俺が狙いに行くから!! 絶対口説き落としちゃる!! ほんでもって大学始まって早々の、彼女を」
「……邪魔するな。それこそ、猿みたいに発情してるお前らはオカズを持ってトイレにgo to eatしてろ」
「おいおい、お前らこそ邪魔すんなよな!! 言っちまえば、先に会話したのはお前らの中じゃ俺だけなんだ。だから既にアドバンテージが」
「……松子の裸四つん這い」
「うぉえぇぇぇぇ……っっ」
僕以外の3人は、我こそは先にと自分以外を出し抜くために扉に駆け寄るが引っ張り合い、締め上げ、拘束というなんとも醜い争いが始まった。
「みんな何やってんだよ、全く」
お互いがお互いを扉に近づかせないようにしてるため中々玄関の扉は開かない。
その先に待ち人がいるというのに。
はぁ……仕方ない。
待たせるのも失礼なので仕方なく僕が扉を開けることになった。
「すみません、お待たせしてーー」
玄関の扉を開けた瞬間、僕は目を丸くした。
その扉の先に思ってもない人物がいたからだ。
「う……た、は……?」
「おはよ! ナギ!」
僕の天使がそこにはいた。
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