第48話 彼女が出来ない男達の良いところを見つけるの宣言1


 GWもとうの昔に終わり、雨が日常化した6月下旬頃。

 気持ちが暗くなるほどの大雨で外に出かけることも出来ないため、トクダネ、ホイミ、レン、僕の4人はいつものようにアパートにいた。

 ホイミ達は談笑、僕は溜め込んだアニメの解放とそれぞれ別々に過ごしていたそんな時、トクダネの不意に漏れた一言に僕以外が反応した。


「世の中不公平やな」

「なんだ、トクダネ。急に世界規模の不満ぶちまけるとかなんか嫌なことでもあったか?」

「こりゃアレじゃねえか? エロ広告の閉じるボタン上手く押せずにエロサイトに飛ばされたとか」

「そんなんで毎回キレてたらワイ、ストレス過多で今頃死んでるで? それにワイはちゃんと金払って動画見てるから突然現れるエロ広告とは無縁や」


 トクダネがエロ動画の有料会員という事は置いといて、人が溜め込んでいたアニメを視聴中の時に下ネタはやめてもらいたいな。

 せっかく、至福の時間を過ごしてるのに。


 ちなみに今見てるのは、異世界転生モノだ。チートスキルをもらって無双する系の。ありきたりだが、これはこれで面白い。


「そいじゃ、どうしたんだよ」

「いやそれやそれ。ナギが今見とるアニメ。なんや流行りの異世界転生していつの間にかハーレムになってウハウハする系。アイツらなんも努力してないのに、急にすんごい能力もらっては周りに美女を群がらせるってずるいなーおもて」

「なんだよ、アニメのキャラに嫉妬してるのか?」

「何言ってる、アニメのキャラどころやない。ワイは世界中のリア充に嫉妬しとるで?」


 そりゃ生きにくい人生だな。そこら中に敵がウヨウヨいるじゃないか。


「つーか考えてみ? 画面の向こうのコイツらとは違い、私立とはいえ東海地方のそこそこの大学に入った努力家のワイ達の隣には、なんで女の子いないん? いるのはなんとも言えへん孤独感と侮蔑の視線や」

「侮蔑の視線はトクダネにしかないんじゃ?」


 孤独感はともかく、侮蔑の視線が増えるのにはトクダネ自身に問題があるようにも思える。

 やたらめったらに下ネタ吐くし、大学内のスキャンダルを追うマスコミをしてるんだから。


「ふむぅ、トクダネの不満はーー分からんでもない」

「うむ。共感はできるな」


 そう言って、絶賛彼女のいないレンとホイミはもはや首が千切れるのでは、と思うくらい首を縦に振っている。


「それにこういうアニメで一番腹立つんは、こんだけ沢山女の子おんのに誰一人として手をつけてないヤツが多いところや。女子陣も可哀想やで、多分いつでも主人公と事を致せるようそれなりに用意してるはずなんやけどな」

「そうだよなー ちゃんとVIO脱毛とかして準備してるとしたら努力が報われなさすぎて泣けてくるぜ」

「逆にそこまで来て手を出さないのは失礼だよな。思わせぶりな態度とって。この調子じゃ女性陣は毎晩枕を涙で濡らしてる」

「三人とも何にマジレスしてんの?」


 アニメの登場人物達がVIO脱毛してるのかとか、余計な妄想はやめてもらいたいな、ちょっと考えちゃうじゃないか。


 それに、気分が暗く落ち込ませる雨とモテない男達の私怨が混ざり合い、いつにも増して部屋の空気がどんよりする。

 もはや同じスペースにいたくないまであるな。一目散に自分の部屋に戻りたいが、テレビがあるのはリビングしかないから我慢するしかない。


「はろー」


 僕がモテない男達の恨み辛みをしばらく聞かされていたそんな時、この辛気臭い部屋をどうにかしてくれるアロマもとい詩葉が来てくれた。


「お、良いとこにきたな、詩葉はん。突然やがワイ、レン、ホイミの三人の中やったら誰と付き合う?」

「おかしいわね。選択肢の中に一つも正解が見当たらないんだけど」


 開始早々、トクダネの問いを一蹴する詩葉の凛々しさには惚れ惚れするな。

 しかし、そのせいでモテない男達が少し凹んでるのは詩葉も予想出来なかっただろう。


 何を隠そうしばらくモテるについて激論していた男達は、自分がいかにモテないかという聞きたくもない自虐を披露していたのち、少しばかりメンタルを衰弱させていたのだ。


 自業自得な気もするが。


「突然、そんな事聞いてどうしたのよ。また誰か振られたの?」

「いや、そう言う事じゃない。三人で話してたんだよ。俺達に彼女がいないのは、この理不尽な世の中が悪いのか、俺たちが悪いのかってな」

「極端な二択ね。なんかこれから世界滅ぼす悪役みたいなセリフ」


 驚くなかれ、そんな悪役が同時間、同じ場所に三人もいるんだから。


「ナギは何してるの?」

「溜まってた異世界アニメの視聴だよ。リア充を死ぬほど嫌ってる大学生三人の副音声付き」

「うるさいでしょ、音声切ったら?」

「それが出来たら始まる前からしてるよ」


 リモコンの調子が悪いのか、中々副音声が切れない。替え時かなぁ。


「それはどんなアニメなの?」

「現世で不遇な扱い受けてた人達が転生か転移して、異世界で好待遇になる話かな。めちゃくちゃ強くなって、沢山の女の子もすり寄ってくる」

「今のアイツらが望むピッタリな環境じゃない。そっちの世界に行くよう勧めたら?」

「彼らに今世は諦めて、死ねと?」


 詩葉、残念ながらこのアニメが今の彼らの事の発端だからむしろお勧め出来ないんだよ。

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