第49話 彼女が出来ない男達の良いところを見つけるの宣言2

○○○○○○



 凹んでいた男達だが、残念ながら妬みの声は続く。


「ーー世界がまだ俺達の魅力に気づいてないのでは?」

「それもあるな。じゃなきゃ、休日にこんな辺鄙へんぴなとこで三人の色男が待機してるはずがない」

「ほんと勿体ないで、世間の女性陣は! まだ真の男達を拝めてもないのに他の男に引っ付いとるんやから」

「世の女性! まだここに上等な品が売れ残ってるぞー!」


 恥ずかしげもなく世の女性達に訴えかける彼ら。

 その姿はさながら街頭演説してる政治家候補者ばりに必死に見えるが、少しばかり鬱陶しさも秘めていた。


「ね、あれなんとかならない? 可哀想が一周回ってウザくなってきたんだけど」

「かれこれ詩葉が来る前からずっとあんな感じだよ。現実から目を背けて」


 世の中のせいか、自分達のせいかという部分で議論していた彼らだったが、途中からまさか最終的な意見として自分達が悪いのではなく、世の中が悪いという意見に固まるとは。


「はぁ……アンタら良い加減にしなさいよ。うじうじ、うじうじと。みっともないったらありゃしない。自分に彼女がいないからって世間に責任を転嫁して」

「じゃ、詩葉はん。ワイと付き合ってや」

「アンタと付き合うくらいなら異世界で雑草に転生した方がまだマシ」

「どんだけワイに魅力ないん?」


 草になる方がマシとは。

 悲しきかな、詩葉はウソがつけない性格なのだ。


「というか。慰めとかじゃないけど、そう悲観しなくても良いでしょ。アンタ達がどれほどモテなくても一つぐらい良いところはあるわよ」

「ほな、ワイの良いとこ一個教えてや」


 そう真顔で詩葉に問いかけるトクダネ。そんな彼の問いに対し、詩葉は腕を組み、悩みの表情を出す。

 相当捻り出してるようだ。


「えっと……うーん、えーーと、そうね。……あ! ほらそうやって分からないとこをすぐ聞く素直さとか」

「必死に見つけたな。今まさに」

「そんなにもないもんかね」


 必死に捻り出した良いところが今さっき見つけた当たり障りのない内容だった事に全トクダネが涙した。


「良いところ、良いところな〜 考えるのむずいな」

「「うむむむむむ」」


 男達の悩む声が部屋中にこだまする。

 その雑音のせいで見ているアニメの内容が全く入ってこない。

 全く、良い加減にしてもらいたい。せっかくの休日で何も考える事なくアニメの視聴というご褒美を邪魔されるだなんて。


 いちいち絡むのもめんどくさいが……アニメのためだ、仕方ない。事態の収拾に努めるか。


 僕はリモコンでアニメを一時停止をして、悩む男達を見た。


「ほんと、良い加減にしてもらえませんかね。こちとらアニメに集中してるのに」

「なんだよ、ナギ。こっちは今必死に自分と向き合ってるのに」

「良いとこさえ見つければ、それを武器にこれからの自分の振る舞いを変えられる。女の子が寄ってくる可能性が増えるんだ。これはいわば、今後の俺達の生き方を考える必須の作業なんだよ。なぁ、トクダネ?」

「……ん? あ、すまん。今、詩葉はんの綺麗で真っ白な太ももについて考えとった」


 生き方を考えるね……この年でそんな深く考えることじゃない気もするけど。

 それと詩葉の生足を隠す毛布を急いで持ってこないと。


「つーか、何難しく考えてんだよ。良いところぐらいそんなのすぐ出てくるでしょ」

「ほぉー ならさっそくワイのを言ってみてや。聞いとったと思うけど、あの聡明な詩葉はんでも撃沈やったで?」

「ナギ、気をつけて。結構な難問よ」


 詩葉の言葉、一切悪気はないのかもしれないけど、凄く悪口に近いと思う……まぁいいや。


「んーとね。トクダネは、取材ばっかりしてるからかもしれないけど凄く聞き上手なんだよ。聞き上手ってさ、相手を理解したいと思う気持ちがないとなれないでしょ。

 だから思いやりがあるし、根は優しいと思うんだ。それに相手に気持ちよく話させるようにしてくれるのって、中々出来ないよね。これだけで十分トクダネの良さだと思うけど」

「「「お、おぉ……」」」


 僕がそう言うと、僕以外の四人が感嘆の声を漏らす。詩葉に至っては、目をパチパチとして驚愕の表情を出していた。

 まるで『その考えはなかった……』とでも言いたげだ。


「あ、じゃ俺! 次は俺!」

「ホイミは……そうだね。前も言ったかも知れないけど。とても気遣いができる人なんだよ。人があまりやりたがらない事を率先してやったりしてさ、それこそBBQの準備の時にみんなそれは知ったよね?

 それに人にちゃんと気遣いができるってのは、その人をちゃんと見てるから出来ること。そこも褒められるところだよね」

「「「お、おぉ……」」」


 再び漏れる感嘆の声。

 いちいちそんな反応されるとこっちが恥ずかしくなるな。まるで凄い事したみたいな印象を与えられるが、そんな大した事言ってない気がするんだけど。


「じゃあ最後、俺!!」

「レンは料理上手……ってのは、ありきたりだから別の観点で言うと、いい意味で人懐っこいかな。誰に対しても横柄なしに同じ目線で接してるから誰とでも仲良くなれる。

 それに、同じ目線で立ってるからこそ相談しやすくて、ちゃんと飾らずにはっきりと答えてくれる。それって凄いよね」

「「「お、おぉ……」」」


 こうして僕はなんだかんだ悩んでいた野郎三人組の良いとこってやつを言い切った。

 全く、こんな事に時間をかけてるとは、何を迷う事があるのか。


「あかん。ワイが女の子やったら今のナギに対して濡れてる」

「こ、この感情はなんだろな」

「ナギって、素でこういうことさらっと言うからな。やめられない、とまらない」


 人をかっぱえびせんみたいに言わないでもらいたい。しかし褒められるのも悪くはないな。


 男性陣からの感想が飛び交う中、詩葉は腰に手を当て、大きな胸を張りながら勝ち誇った顔を見せていた。


「むふー どうよどうよ。ウチのナギは」

「おい、詩葉。なんでお前が自慢げなんだよ。お前の手柄じゃないだろ」

「そうやで、詩葉はんなんか今回大した事してないんやからな」

「そうかしら。ナギのモノは私のモノ、私のモノは私のモノ。ナギの実績は私の実績だから私の手柄じゃない」

「近所の横暴なガキ大将かよ」


 僕の脳内に、空き地の土管に大袈裟に座るオレンジの少年が映し出されている。

 まぁ、アイツより断然詩葉の方がかわいいな。詩葉にパシられ、胸ぐら掴まれるなんて魅力的なプレイだし。

 青ダヌキのロボットに直ぐに助けを乞うなんてこともない。


「ついでにナギは私のモノ。私は…………ナ、ナギのモ、モノ……」

「う、詩葉……!」

「恥ずかしがるぐらいなら初めから言うなよ」


 少しばかり雨雲が晴れたような気がした。

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