第50話 テスト勉強に悩まされる宣言1
梅雨も明けての7月中旬頃。本格的にはじまりかけた夏にもう嫌気が差してきた僕らは、大学の食堂に足を運んでいた。
座っているテーブルの上には、食べ物ではなく、山のように
なぜにこうしているのか……世の大学生なら分かると思うが、この時期は地獄の試験週間なのだ。
「あ、つ、い……」
隣の席に座るレンが嘆くようにそう言うやテーブルに突っ伏す。
確かにレンの言う通り、ここは室内のくせに妙に暑いな。とめどなく汗が背中を下につたっているし。
「ほら、レン。きばれよ。それと弱音吐くな。こっちまで暑くなる」
「……でもレンの言う通り。暑い。エアコン壊れてるんじゃないかと思うくらい」
「なんならあそこにいる用務員の爺さんもサウナにいるレベルで汗かいてるぞ」
そう言えば、食堂の中は生徒が全く見当たらない。みんなエアコンが機能していないことに気づいて早々に立ち去ったのだろうか。
大学の勉強場所のほとんどが埋まっている中でやっと空いてる場所を見つけたと思ったのに、これは失敗だったな。
「あーぁ、なんだって、俺だけテストがこんなあんだ?」
「そりゃお前、単位評価がテスト100%のしか選んでねぇからだろ。テストなし、レポート評価のみの講義を無難に選んでおけばよかったんだよ」
「だってよ、レポートだと基本的に出席点もあるから出席しなきゃいけないだろ? テスト評価100%だと出席点ないから俺の
レンの言う通りテスト評価100%の多くは出席点がない。つまりはいくら講義に来なくてもテストさえパスすれば単位が取れるのだ。
上手くやれば大学に一度も来なくても単位は取れるが……そんな事する人は中々いないだろう。
「俺はレンみたいになるのが嫌だからテストのやつは極力無くしたぞ? もっと俺みたいに頭使って、スマートに生きろよな」
「……ホイミ、レポートの講義を5回欠席した時、担当教授の部屋にわざわざ菓子折り持って、なんとか出席にしてもらえるように土下座しに行ってた」
「へぇー そりゃかなりスマートだな。それにちゃんと物理的に頭を使うとは」
「皮肉をどうも。今回で泥臭くいくのも大切って身に染みたぜ」
欠席を5回すると、その講義は強制的に落単となってしまう。ホイミも必死だったのだろう。
土壇場でリーチかかってたから。
近頃、ホイミのカバンにやたら高そうな菓子が入れられていたが……なるほどな賄賂とは。やっと合点がいった。
そのお菓子ちょっとちょうだいって言った事があるが『等価交換だ。この菓子と同価値のものを提供しろ』なんて、どこかの錬金術師みたいな事言ってたからめんどくさくなってやめた。
「ったく、場所変えようぜ、場所。こんな暑い場所じゃ集中できない」
「それもそうだね。近くのカフェかファミレスでも行こうか」
「……でも今の時期、どこもかしこも勉強中の学生がわんさかいると思う」
確かにこの時期は周辺の大学も総じてテストだからなぁ。予想以上に混んでるかもしれない。
「そういや、この近くであんま人が行かないファミレスをハヤシダに教えてもらったぞ」
「ファミレスなのに人が来ないの? なんかワケあり?」
「最近ちょっと炎上したらしくてな。炎上の内容は知らんが」
「……保健所にお世話になったか。バカッターでもしたか」
「おいおい、変なもん食ってこれ以上体壊すのは嫌だぞ? 勉強のストレスで既に体はボロボロだってのに」
「食い物に関係することじゃないのは確かだぞ。ハヤシダが行ったらしいが、今でも健康だし」
飲食店だから食べ物関係だろうとは思っちゃうのが普通だけど、そうじゃないならなんで炎上したんだろ。
「とりあえず行ってみようよ。他が空いてなさそうなんだし」
「……ユノも呼んでいい?」
「お? 試験勉強じゃなくて保健体育の勉強でもしよってか? 見せつけてくれるじゃねぇか」
「まさかクドウが
リア充にはとことん厳しいな、この二人。今にもクドウに噛みつきそうだ。
「……そう言う事じゃない。俺、第二言語フランス語を取ったから、ユノがいるとテスト勉強がすごく助かるだけ」
「ん? ユノとフランス語がどう繋がるの?」
「……知らなかった? ユノはフランスと日本のハーフ」
「え!? 初知りなんだけど」
なんだその興味が注がれる情報。
クドウとユノもこんな事隠しとくなんて野暮だな……ってまぁ、聞かれてもないのに言わないか。
「まぁ、でもあのスタイルといい、顔の偏差値からもうなづけるわなぁ」
「ここに来て、ハーフキャラか。くそっ、キャラが立って、今後の出番が増えるじゃねぇか」
ホイミがそう言いながら地団駄を踏んでいる。何に悔しがってるのやら。
「フランスとのハーフだからフランス語も得意ってわけか。だからクドウの勉強の助けにもなると」
「……そういう事。ちなみにユノ、実家じゃいつもフランス語で喋ってる」
「なんかカッコいいよね、そう言うの。僕達も家でやってみようか」
「日常的にお前の口から出るオタク用語が殆ど意味不明だからな。悪いがもう既にユノの家みたいになってるぞ」
「僕いつも外国語喋ってるつもりないんだけど」
人の趣味の話を外国語とみなすとは、なんてやつだ。
「つーか、レンは毎度僕の話を興味津々に聞いてるじゃないか」
「本当にそう思うか? お前がオタク話してる時、俺はいつもありきたりなセリフ言って会話を流してたろ。『へぇーすごいな』、『マジかー』、『おっと、鍋の様子を見なきゃな』とか」
「た、確かに……どれも聞いたことある気がする。最後のヤツとか特に」
なんなら昨日の会話中にも聞いたぞ。
僕がガ○ダムの話を始めたらすぐにそう言ってキッチンに逃げていったんだ。
「タコパの時に鍋の様子を見に行くって言って、疑われるかと思ったが……それでも気づかないお前には流石の俺でも引いた。タコパで鍋なんて使うわけねぇのに」
「それはしょうがないよね。多分僕もレンの話まともに聞いてないから」
「ぶん殴るぞお前」
レンのやつ僕が好きなもの話してる時、毎回理解してくれてたように黙ってうなづいてくれてたけど、あれ全部伝わってなかったんだ。
しかしユノの家族、日本に住んでて、家は他言語とかなんてお洒落なんだ。
「……ここだけの話。ユノのお母さんが美人すぎてあやうく惚れかけた」
「どうせならユノの家で勉強しようか!」
「この時代、異文化交流は必要だよな」
「ボンジュール? いや、ボンジュー? 発音をどうしたもんか」
みんな切り替えが早くて何よりだ。
それにしてもフランス人人妻かぁ……とんでもなくかわいいんだろうな。
「……みんな下心丸出しなところすまないけど、ユノのお父さん自衛隊に所属してて、"トラ殺し"の異名も持ってるくらい怖いよ」
「ぼ、僕、家では勉強出来ない病なんだよね!」
「おっと、鍋の様子を見なきゃな」
「な、なぁ知ってたか? トラといえば、阪神タイガースなんだぞ? タイガーズって呼ぶヤツいるけどアレ間違いな!?」
うん、これまた切り替えが早いや。
すぐにユノの家から別の話題に変わった。
それにしても詩葉の父さんは格闘家、ユノの父さんは自衛隊所属って、僕の身近な女子の父親はどうしてこうも戦闘力高い人が多いんだ。
そのうち戦闘民族を親に持つ女の子とか出てきそうだな。孫って苗字の。
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