第47話 マッチングアプリの設定の宣言
「なぁなぁ、俺って芸能人で言ったら誰に似てる?」
GWも終盤の頃、ふとボーリングに行こうと思った僕らはアパートに集合していた。
すると突然、ホイミからそんな質問が飛ぶ。
「……藤原竜也」
「ほぉ、嬉しい言葉言ってくれるじゃねぇか、クドウ。でも自分で言うのもなんだが、あの人と俺、全然似てなくないか?」
「……これ、先日のホイミ」
百聞は一見にしかずということだろうか、クドウはスマホから一本の動画を流し始め、それをホイミと僕に見せた。
クドウが見せてくれた動画の最初には、パチンコ屋前の地面でうつ伏せになったホイミが映っている。
『ーーどぉしてだよぉぉーーーっっ!!』
しばらく見ていると、パチンコで負けたために半泣きになったホイミが他の客も引くくらい絶叫をしていた。
なるほど、たしかに藤原竜也だ。
「これってどちらかというと、藤原竜也じゃなくてカ○ジに似てるだろ」
しかし、クドウもこんな動画を撮影していたとは。他の人の目もあったというのに、メンタルがすごい。
「それよりホイミもどうして急にそんなこと聞くの?」
「いや今さ、マッチングアプリに登録しててな。その項目埋めようと思って」
「でも顔写真出るなら意味なくない?」
顔写真見れば芸能人の誰に似てるか判断つくことないかな。わざわざ似ている芸能人の欄なんて二度手間な気がする。
「いやそうなんだがな。記載項目にあるんだから書くしかないんだよ」
「マッチングアプリなぁ、俺も前やってたんだがな。あれどうにかならねぇかな、プロフィール写真にマスクの写真載せる風潮」
「いや、どうにもならんだろ。隠した方がより可愛く見えて、たくさんの男が釣れるだろうし」
「そのせいで出会い系にいる女、全員ざわちんに見えんだよ。出会うこっちの身にもなってほしいぜ」
以前レンがやってた時、画面を見たことあるがたしかにマスク女子が多い印象だった。
スワイプしてもスワイプしてもマスクメイクの上手い人ーーざわちんが出てくるからレンはとても嘆いていたなぁ。
「俺はそれよりも加工をもうちょっと弱めてほしいな」
「……最近の加工は進化しすぎて、もはや原型留めてないこと多い」
「全くだぜ。写真で見たらダレノガレなのに、実際会ってみたらトリンドルなんて事はあるからな」
「それどっちでも良いよね」
明美だろうが、玲奈だろうが両方すらっとしてて美人なんだからどっちが来てもデートできるだけ幸運だろ。
「……ホイミのアカウント見せて」
「いいぞ。ついでに作成途中のアカウントのどこがマイナスか教えてくれ」
「……やってるのがホイミの時点でマイナスだけど大丈夫?」
クドウもすごい素直だなぁ。
たとえそれは思っていても口に出さないのが優しさだろう。
「うわっ、最初の画像、上裸って。ホイミ正気?」
「あぁ、もちろん。昨年の夏は浪人のストレスでいい感じに
「……これはダメ。公衆で上裸見せていいのは格闘家かAV男優だけ」
その二つの職の人でも流石にマッチングアプリで裸は晒さないだろ。
このポイントは、マッチングアプリ詳しい人が説明してる”絶対やっちゃいけないこと”に入ってること間違いなしだ。
「お、この写真の犬、かわいいな」
「そうだろ。そうだろ。俺も気に入ってんだ」
「……実家で飼ってるの?」
「いや? プロフィールの写真に犬載せた方がいいらしいから。ネットで『可愛い犬』って、検索して出てきた画像載せた」
「ペット愛好家に殺されそうな発言だね」
下手したらこれと同じ写真が色んなアカウントにもありそうだな。それこそ拾ってきた画像なんだから大いにその可能性はある。
「マッチングアプリやってた身としては、やっぱその場で声かけた方が確実じゃないかと思うけどな。直接顔わかるし、メッセージとか面倒な作業しなくていいから」
「そりゃお前、顔と口うまいやつはその方が楽かもしれんが、レンや俺みたいな下賤な身分はマッチングアプリにすがるしかないだろ」
「ちゃっかり、俺もそんな中に入ってんだな」
ちなみに僕といた時にレンがナンパに成功したところは見たことがない。
まぁ僕がいない時も同じような結果に思えるが。
「それこそ名古屋駅遊びに行った時、金時計前でナンパするやつ何人も見たぞ? 誰かと待ち合わせしてる女の子に声かけまくってて」
「そいつら成功してたか?」
「俺が見てるうちは成功してないな。その場にいる女の子を手当たり次第に『橋本環奈に似てません?』って言って切り込んでたけど」
「……千年に一人の美女がそんなたくさん名古屋にいたら大変」
いたとしたら今頃、名古屋駅は有名なスカウトスポットになってたことだろう。
まぁそんな事ありえないだろうけど。
これでも名古屋は日本三大ブスという不名誉な称号貰ってるから。
「ともかくだ。マッチングアプリを一人でやるのもなんだし、お前らもやらね?」
「……パス。もう既に出会ってる」
「ま、クドウはそうだろな。二人はどうだ?」
一人でやるのが寂しいのかホイミは僕とレンを誘う。
するとレンは少し悩んだ表情を見せて、口を開いた。
「ま、夏に向けて予定作らないといけないからなーーホイミにノった。もっかい出戻りする」
そう言って、レンは慣れた手つきでちょちょいとスマホを操作し、マッチングアプリをインストールし始めた。
様子を見る限りじゃレンは始めるみたいだけど、僕の心は既に決まっていた。
「ナギはどうする?」
「僕はいいや。僕には詩葉がいるし」
正直、やらない理由として、メッセージを返す作業すらめんどくさく感じちゃうからとかもあったりする。
なんならLI◯Eでさえもメッセージ返すの遅いし、こんなめんどくさがりじゃ女の子なんて上手く誘えないだろう。
「それに多分、他の人に出会っても惹かれないと思う」
「ナギって、そういう恥ずかしい事をよくもまぁ平気で言えるよなー ミジンコサイズくらいは尊敬心持ってる」
「……いい奴だ。エロ漫画、エロ動画で楽しんでる人のセリフとは思えない」
「最近やたらトイレとシャワーの時間が長いのは、良いオカズでも手に入ったからか?」
コイツらは素直に褒めるというのを知らないのだろうか。
それにトイレとシャワーの時間が長いのは……ほっとけ。
「でもよ、ナギと詩葉は付き合ってないんだし。別段ナギがやっても罪じゃないんだぜ?」
「それはどうだかな。今、詩葉に『もしナギが出会い系をやりたいって言ったらどうする?』って聞いたら予想外の返事きたぞ」
「え、何勝手に言ってんだよ」
全く、レンのやつ、許可もなくそんな事を詩葉に報告しないでもらいたい。
これじゃ僕にその気があるみたいじゃないか。
「『付き合ってないし、ナギがやりたいっていうならやっていいと思う。でもナギとマッチングした相手をキリングするかもしれない』って言ってる」
「……これは周辺女子の安全のためにもナギには大人しくしてもらったほうがいい」
「まさかナギとマッチした途端、殺人リスト入りとはな。やっぱ、ナギはやらなくていいぞ」
「だから元々やる気なんてないって」
しかし、詩葉も冗談が好きだなぁ。
可愛い上にお茶目とは。
「そいじゃ結局、やるのはモテない組のホイミと俺だけか」
「そうみたいだな。とりあえずレンはすぐに彼女出来るだろ。料理上手はモテるだろうし」
「いやいや、ホイミの方が早いだろ。最近の女子は、頼れる人が好みって聞くし、ホイミとかドストライクだろ」
「いやいやいや、そんな事ないぜ〜」
ホイミとレンがお互いの事を褒め合ってる。
なんだか異様な光景だ。寒気すらする。
「ま、お互い頑張ろうぜ? 」
「あぁそうだな。お互いフォローし合おう」
これはまた意外だな。二人が協力関係とは。てっきりお互い見下したり、
二人にはいい人が見つかることを心から祈っている。
「「……まぁ、モテないホイミ(レン)には絶対彼女なんて、できねぇだろうけど」」
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