第46話 再戦の決着の宣言
「……い、色仕掛けとは。なるほど、普段見せない詩葉の際どい姿をゲーム中に見せてナギのプレイを乱す作戦か」
「ご名答だ、クドウ」
「……勝つためにあそこまでするとは。さすが、詩葉! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!」
「まぁ、本当はこれでも充分なんだが、どうしても詩葉がこれも効果てきめんだからといって、絶対にやると言ってたプラスワンーー」
服を脱いだ詩葉は風を切る速度で目からコンタクトを取り、メガネをかけた。
はい、これにて完成。巨乳メガネ女子。
「……め、メガネ!? ……一眼レフ持ってこないと。いやそれよりも動画に残すためにGoProか? とりあえず目に焼き付けて……ふぁ……」
もはやクドウが昇天しかけていた。
ユノが普段メガネをかけていない分、メガネ女子を見ると、興奮するのだろう。
度を越えたメガネ好きにも困ったものだ。
さてさて、ターゲットのナギはいかに……?
「あ、それ……この前一緒に買ったやつだよね。に、似合ってるよ、詩葉?」
「えへへ……ありがと」
「それに……その、ふ、服も。かわいいね」
「あ、ありがと……そんなに気に入ったなら、もっと……み、みてもいいよ」
ん、なんだ? なぜか甘酸っぱい青春の匂いがするような。
それに少しばかりイライラしてきたぞ。
「これは誤算だな。まさかイチャついた姿を見ることになるとは」
「……隙あらばあの二人にメテオ食らわしたい」
しかしだ。
隣の詩葉がこんな格好してようものなら気になってゲームには集中できまい。
この勝負勝った! そしてボインの先輩は我が元に。
「さて、ナギ。早くゲームしな? 詩葉が気になって仕方ないと思うがな……くくく」
「くっ、詩葉がこんな格好したのもレンの入れ知恵か。とりあえず、この件については礼を言っておく。でもね、詩葉がそうくるなら僕もーー」
俺が勝ちを確信したその瞬間、ナギは突如コントローラーを置き、立ち上がった。
「ま、まさか……っ!?」
「……あの動き、もしや!!」
立ち上がったナギは有無も言わず上下の服を脱ぎ捨て、上は裸、下はパンイチというなんともまぁ汚らしい格好となった。
「な、ナギなんて格好してるのよ!?」
「ふふふ、これで五分」
そう言ってナギは持っていたズボンを俺に投げつけ、さっきまでの俺同様勝ちを確信した表情を見せていた。
「……なんてこった。ナギがパンイチとは。こんなの詩葉が興奮するに決まってる」
「フーーッ!! フーーッ!!」
「詩葉が今にも人に襲い掛かろうとする猛獣に見えるな。おい、詩葉! 集中しろ!」
「集中……集中して……裸のナギを見る」
「ダメだ、戻ってこい!!」
ナギの裸体を目にした詩葉は、必死に我慢しようと唇を噛み、目を血走らせながら我慢してた。
おいおい、持ってるコントローラーがメキメキと音を立ててるぞ。
「それにしてもえげつないほど絵面が汚いな。まさかほとんど下着姿の男女がピンク色のキャラを使ってゲームしてるのを見せられることになるとは」
「……これは刺激が強すぎて、幼い少年少女には見せられない」
事情を知らない人がこの部屋に入ってきたら何か勘違いされそうで怖いが、それよりも試合だ。
「おい、詩葉シャキッとしろ!」
「は……っ!? いけない、別のこと考えてたわ。今はただ試合に勝たないと……」
よし、どうやら正気に戻ったようだな。
試合前の戦いはどうやらナギの言う通り五分五分。
もうこっからは実力で勝敗が決まる。
「じゃあ勝負だよ!! 詩葉!!」
「えぇ来なさい!! ナギ!!」
試合のゴングが鳴った。
○○○○○○
「……ま、まさかここまで接戦になるなんて。お互いあと1ストック。遂に決まるぞ」
対戦が始まって遂に戦いはクライマックスにまで迫っていた。クドウの言う通り次に吹き飛んだやつが負け。これで決まってしまう。
こんな展開になるとは思わなかったが、一番驚いているのはナギだろう。
なんたって、つい昨日まで素人の動きを見せていたあのピ○チ姫が、前とは打って変わって殺戮ロボットのような動きで変態仮面を窮地に追い込んでいるのだから。
そして両者の集中がピークに達していたその時、事態が動いた。
「……っ!! そこよぉぉぉ!!!」
ナギのキャプテンが見せた一瞬の隙を見逃さなかった詩葉は雄叫び激しくボタンを押し、変態仮面を画面端に弾き飛ばした。
『Game Set!!』
「ば、ばかな……僕が負けた……?」
試合終了の合図と共に膝から崩れ落ちるナギ。
「やった……やったのね。わたし」
そして詩葉は自分の勝利を未だ実感できないのか床を見ているナギとは相反するように天を見上げている。
そして時間が経つにしたがって、その勝利の実感が湧いてきたのか胸の前で小さくガッツポーズを見せた。
さて、負けて落ち込んでるナギにはフォローがてら少しでも詩葉の頑張りを言っておこうか。
「いやーやられちまったなぁナギ。しかし詩葉はすげぇぞ? 昨日ナギに勝つために夜通しやり続けたんだからな。まさか本当に勝っちまうとは」
「え、じゃあ詩葉は一日も経たずにこのレベルに……?」
「おうよ。なんとかお前と良い勝負したかったらしくてな。……って、俺ばっか話ししても意味ないな。詩葉からなんか話あるみたいだぞ?」
後ろで何かを言いたそうにモジモジしている詩葉の邪魔をしまいとすぐに俺はクドウの隣に移動した。
「ナギ、私ねーーナギ?」
ナギの様子がおかしいのに気づいたのか、詩葉はナギの顔を覗き込む。
するとナギは若干というか、かなり頭がいっぱいいっぱいの顔、心に余裕がなさそうという顔を見せていた。
「あ、あーーそっか! 詩葉僕のレベルにすぐに追いつちゃったんだ!! すごいゲームセンスだよね! いや努力の賜物なのかな! と、とにかくすごいね!! それに比べて何年もやってる僕なんて!」
「ナギのやつ、無駄に言葉が多い。こりゃ、マズイような」
「……今のナギ、仕事で盛大に失敗して帰ってきた親父と同じ感じがする。自暴自棄というか、なんというか」
長年の付き合いだからよく分かる。
これは……やってしまったな。
「な、ナギ!? ねぇ、大丈夫?」
「いや大丈夫だよ! これただのゲームだし? 子供じゃないから負けたからって泣くとかそんなことあるわけないし? ただ……うぅ……ちょっとごめんーー!」
そう言いながらナギは涙目になりながらすぐにリビングから立ち去り、自室に走っていった。
「…………私、やらかした?」
「……あの様子だと、今日一日枕を涙で濡らしそうだね」
ナギがあぁなったのも今考えればわからんでもない。
才能とは突如として一般人の心を容易く壊すものとどこかで聞いたことがあるが、ここに来て実感することになるとは。
つまるところ、詩葉は強くなりすぎたのだ。
ゲーマーを自負しているナギにもそれなりのプライドはあったのだろう。
だが1日も経ってない練習時間で見せた詩葉の圧倒的なセンスを前に心が折れてしまったのだ。
それこそ俺も家庭科で料理を勉強しただけの小学生と料理対決して負けたら泣く。それと同じだろう。
「しかし災難だったな、詩葉。まさかナギと付き合うどころか、泣かせる事になるとは」
誰も予想できなかっただろう。この展開は。
まさかもうすぐ二十歳にもなるやつがゲームに負けて、好きな人の前でベソかくなんて。
「いえ? そうでもないわ。ナギの子供っぽいところ見れて満足」
「ポジティブだな、おい」
それこそコイツもショックを受けてるんじゃないかと思ったが、そうでもなさそうだった。
詩葉のやつも見る限りじゃ、平然としてそうで何よりだ。
「ところで、クドウ一戦どう? 私、無性にどうしようもできないこの悔しさを何かにぶつけたいんだけど」
「……ストレス発散で、次は俺を泣かす気?」
残念ながら彼女も落ち着いてはなかったようだ。
結局、次の日からナギはス○ブラではなくストⅤをやっていた。
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