第44話 再戦準備の宣言
時刻は22時を回り……なぜか俺は詩葉の部屋に来ていた。
詩葉とナギによる魔のゲームを終えて、ほとぼりが覚めた頃、ソファでうとうとしていると突如としてスマホが鳴り、詩葉に呼び出しをくらったのだ。
眠いから嫌だと始めは断ったが、『断ったらどうなると思う?』と優しい恐喝を受けたので、無抵抗のまま虚しくこの部屋に来たのだ。
本当に俺は……弱い。
部屋に入るやいなやテーブルには今さっき買ってきたのであろうSw○tch本体とソフトがレジ袋に入れられて置いてある。
「出かけてたのか?」
「えぇ、GE○が夜遅くまでやっててよかったわ。深夜までやってるなんて見上げた根性よね」
そう言って詩葉は、初めて買うゲーム本体をテレビに繋げようとあーだこーだ言いながら設置していた。
据え置きゲームをこれまで持ってこなかった人に特徴的なゲームの設定という初めての壁にちゃんとぶつかっているようだ。
そしてなんとか準備できたのかソファに座ってる俺の前に、詩葉は仁王立ちしながら口を開く。
「さて、それじゃ始めましょうか」
「いやいや何を?」
本当は詩葉が何をしたがっているのか既にある程度予想は出来ていた。
だが、信じたくないというかぜんぜん乗り気じゃないから分からないふりをする。
ここまでのものを見せたら絶対アレだよなー
「何言ってるの。今さっきまでナギと私で熱く話していたあの場にいた人間とは思えない発言ね」
「望んで聞いてたわけじゃないからな」
「まぁいいわ。アンタのことだから本当は分かってるでしょうけどーー改めて。これからやるのはね、ス○ブラでナギに勝つための特訓よ!」
ほら、やっぱり。
予想していたことが現実になった。
つーか、あの詩葉が意気揚々とゲームの準備してたら誰でも分かるよな。
「まだ日はまたがってないわ。よかった、これなら明日にでも再戦できる」
「おいおいっ! まさかとは思うが、今から特訓して明日にでもやろうとしてんのか? 無謀だろ」
「善は急げってやつよ。私にとって、ナギは好敵手と書いて好きな人と呼ぶ存在。
詩葉の思い立ったらすぐ行動はとても素晴らしい事だと思うが、世の中には限度もある。
それこそゲームオタクに素人が一日で勝てるようになるなんて無理あるんじゃ。
「それに私、ナギの意図を読めたの」
「というと?」
「あれは……『僕を負かしたら詩葉と付き合ってあげる』っていう遠回しのサインなのよ」
「は?」
「つまりは体育会系男子によくある『この試合に勝ったら付き合って』と同じ意味合いよ。ナギは私にこれをさせる機会を与えるためにわざわざこんな難解な壁を用意したのよ」
「いやそれはいささか拡大解釈がすぎんか」
つまりコイツはゲームで勝ったらナギと付き合えると本気で思ってるのか……?
妄想が凄いというか、アレなのか? 頭が良いと一般人が分からない予想を立てるのか?
「え、だってナギ。私とは隣り合う関係でいたいって言ってたじゃない。つまりはそう言うことでしょ?」
んー アイツが詩葉の考えてるような意味合いで言ったようには思えんが……。
「まさかナギが、私のナギに対する好意を試す真似をしてくるとはね。それに好意を示す場は私にとってあまり理解がないテレビゲームという場。一見、不利かと思うけど……否、これは好機」
詩葉は既にナギに勝つ気でいるのか、やる気満々だった。
人の好意とはここまで人の原動力となりうるのか……そんな事を最近、詩葉やナギを見て改めて理解させられた。
「相手は私が素人と
もはや、やる気を突き詰めすぎてこれから
……うむ。これは俺にとってもとても面倒くなりそうだな。早々に立ち去ろう。
「ん、レン。どこ行くの?」
「すまんが俺は眠たくてな。お前の特訓にはついていけない。だが勝利を願ってるぞー」
俺はそう言って出て行くため詩葉の部屋の扉を開けた。
すると詩葉は俺のそんな行動を見越していたのか、一つの提案を持ち出した。
「私の特訓に協力してくれたら、料理好きって言ってたおっぱい大きい学部の先輩紹介するわよ? それも前の年、ミスコン出てた人」
「ーーさて、将軍。あの牙城をどう攻め落としましょう。微力ながら尽力します」
「早い決断感謝するわ」
協力すれば、タダでボインな美人姉さんと一緒に料理出来る。
そんな最高の選択肢を選ばないやつがいるわけないよな。
「さ、始めましょ」
「しかし、よりにもよってなんで俺なんだ? 素直にナギに頼めば良いだろ」
「いやよ。ナギには秘密でやりたいの。それにどうせアンタ暇でしょ?」
「なんてこと言うんだ。俺にもちゃんと予定はあるんだぞ? 明日の昼食に向けた仕込みをだな」
「よかった、暇で。じゃ、とりあえず、試合に勝つためにもこのゲームを詳しく教えて?」
詩葉の頭の中には俺の人権など少しもないんだろうなぁ。
……コイツいつか絶対泣かしちゃる。
まぁ、それは置いといてだ。ボイン先輩のためにも特訓を進めねばな。
「いや、だったら俺よりも適任のやつがいる」
俺もこのゲームを知ってるといえば知ってるが、ガチでやるならそれに関した専門家を呼ぶに越した事ない。
……アイツに頼むか。
確か近々、ナギと一線交えるって言ってたもんな。だったら詩葉に教える指導者として不足はない。
俺はすぐに対象の人物に電話をかける。するとそいつは2コールほどで出た。
「あー俺だ。『…………』 うん、まぁそんなところだ。『………』実はちょっとした頼みがあってな。来てくれるか? 『…………』おう、じゃ待ってる。また連絡するな」
ありがたい事にすぐに来てくれるようだ。フットワークが軽い友人を持つと本当に助かるな。
「え、電話した人、こんな夜遅くに来てくれるの?」
「心配いらん。オタクという人種はこの時間帯からがゴールデンタイムだから」
○○○○○○
「……待たせたなぁ! 潜入ポイントに到着……」
「お、時間通りだな」
「なんだ、クドウか」
電話して20分ほど経ってから大塚明夫もといクドウが詩葉の部屋に入ってきた。
「すまんな、クドウ。わざわざ来てもらって」
「……いや大丈夫。今さっき起きたから」
長期休暇といえ、今頃起床とはコイツどんな生活を送ってるんだ。
これに慣れちまったらもう普通の生活に戻れなくなりそうだな。
「……それで、レンから連絡もらった限りでは、ここに大乱闘という場で暴れたい血の気の多いやつがいるって聞いたけど」
「私よ」
「……詩葉か」
「あらご不満?」
「……いや? いつかは全くのど素人を指導してみたいと思ってたところなんだ」
「それはちょうど良かったわ」
クドウに任せればなんとかなると思って呼んだが……良かった、ちゃんと俺以上にやってくれそうだな。
「……それでどんな気の迷いで、詩葉がゲームなんかをやりたいと?」
「実は大乱闘で勝たなきゃいけない理由ができたの。出来れば明日までに」
「……随分急な話だけど。いったい誰に?」
「ナギよ」
するとクドウは、詩葉の言葉にきまりの悪い顔を見せた。
「……こりゃ難解な仕事がきたな」
「やっぱムズイか?」
予想はしてたが、クドウの協力あってもど素人がゲーマーに勝つのはそう簡単にもいかないのだろう。
運ゲーならまだしもスマ○ラみたいにきっちりとゲームスキル、実力が出るものは特に。
「……難しいとかいうレベルじゃない。ど素人があのナギに一日で追いつくなんて、全集中の呼吸を習得してないのに鬼を殺しに行くのと同じくらい無謀」
「その例えよくわかんないけど、クドウの表情見てなんとなくキツいのを感じたわ」
「……まぁ、それでも出来る限りはやってみよう。詩葉はどうしても勝ちたいんだろ?」
「ーーうん! ありがと、クドウ!」
うむ、改めてコイツに頼んでよかったと思った。
夜遅くから長時間にわたり、上手くなるかも分からないど素人相手に教えるなんて、普通なら投げ出すのに。
詩葉の本気さに感化されたのだろうか。
早速特訓を始めようとするクドウは、自分が持ってきたSw○tchを詩葉が買って設置したものと付け替えた。
「あれ、こっちの使わないの?」
「……買ったばっかで申し訳ないが、全くの新品にはキャラ全員いないからな。データ移動しても良いが、今はただ時間が欲しい。俺のを使う」
「なるほど。『オーシャ○ズ11』で言うところの映画が始まる段階から仲間が既にいる状態ってことね」
「……その例え分からないけど、ワ○ピースで言うならフーシ○村の時点でもうフラ○キーがいる感じ」
「ますます分かんないんだけど」
「お前ら早くやれよ」
このままの調子じゃ、日が暮れてしまいそうだ。
「じゃ、やるわよ!!」
「……ははは、ちょっとちょっとお嬢さん? 笑わせないでくれ」
詩葉の持っていたコントローラーを見て、気合い十分にしていた詩葉を煽るようにクドウは笑う。
「もぅなによ、クドウ。いい加減やりましょうよ!」
「……詩葉。本気でそのコントローラーでやる気?」
「コントローラーこれで合ってるんじゃないかのか? 本体についてるやつだぞ」
「そうよ、何か問題ある? これあれば動くでしょ?」
「……詩葉の今の状態、周囲が銃火器使ってるのに、サバイバルナイフ一本で戦場に行こうしてるのと同じだよ」
「絶対絶命じゃねぇか」
するとクドウは自分のカバンから続々とコントローラーを取り出した。
なぜに人一人がコントローラーを複数個持ってるのか疑問だがそれにしてもクドウめ、用意周到だな。
クドウが出したコントローラーの中には昔懐かしのゲー○キューブのコントローラーがあった。
そういえば、ナギが使ってたやつもあるな。
「……マジなやつにはマジの武器を。これ鉄則」
「一種類のゲームするのにいったい何種類コントローラーあるのよ。そりゃゲーム会社も儲かるわ」
「クドウ達みたいな奴らが生きてれば、ゲーム会社もまだ安泰だな」
こういうゲーマーが金を落としてくれるから未だ日本のゲーム会社は進歩し続けてるのかもしれない。
「さて、もう何も準備はいらない?」
「……あぁ。あとは気合いだけ」
「よかった、既に十分すぎるほど持ってるから。じゃ、やるわよー!」
……次話、再戦の宣言に続く。
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