第43話 対戦の宣言
「ナギ、もう飯だからゲームやめろよ?」
「うーーん。それは分かってるんだけど、手を止めれないんだよ」
GWの真っ只中、あいも変わらず俺達はどこかに出かけるわけでもなく部屋に篭っていた。
そして時刻は18時ごろ。人によっては、夕食には早い時間だと言われるかもしれないが、そこら辺はあまり考えずに俺は料理を準備する。
今日は和風ハンバーグ。我ながら上手く出来た自信がある。
しかしせっかくこの俺が豪華な食事を用意してやったというのに、この同居人は我関せずとひたすらTVに目を向け、コントローラーを動かしていた。
コイツはほんと小学生みたいなやつだな。目の前に温かい飯があるというのに、ゲームに集中して全く手をつけない。
まさか10代後半になってもこんなヤツが近くにいるとは。そんでそんなヤツと一緒に住んでる俺は一体。
そんなこんなで痺れを切らした俺はすぐさまリモコンを動かして、TVの電源をぶち切った。
「いい加減にしろ」
「はいはい、ごめんなさい。お母さん」
「朝8時からおんなじ場所でずーっとゲームしてる怠け者が俺の息子とかこちらから願い下げだ」
全国の少年少女、今だけだぞ? 何もしてなくても温かい飯が出てくるなんて。もっと親のありがたみを知ってくれ。
テレビの電源を切られたナギは、渋々ゲームのコントローラーを置いて席につこうとする。
「ほらほら、ナギ! 私の隣空いてるよー!」
「あ、うん、詩葉。今行く! お、今日はハンバーグか。美味しそ」
「……って、待てやコラ。なんでいつの間にか詩葉がいんだよ。お前いつ入ってきたんだ?」
さっきまでいなかったはずなのにコイツは音もなく参上した。
それだけじゃなくカップにお茶まで入れて優雅に席で待機してるなんて……動きが迅速すぎるな。
「今さっき。知り合いからお菓子もらったから二人にお裾分けしようと思ってこっちに来たの。ちなみにちゃんとノックしたわよ?
でも中から声はするのに返事がなかったからピッキングして入ったけど」
「はぁ……後半が犯罪ってなんでわかんねぇかな。近所の人に菓子折りもってくる常識はあるのに」
近々、部屋の扉の鍵を新調するか。
ピッキング出来ないように電子錠にして、不法侵入を塞がなきゃな。
「言っとくけど、お前には食わせんぞ?」
「お母さん、意地悪やめなよ。この機会に詩葉にあーんしてもらーーげふんげふん。ご飯ってのは、みんなで食べると美味しいんだからさ。もっと親切になろうよ」
「他所は他所。ウチはウチ。それとナギ、お前の心の声漏れてるから」
しかし実際のところ、詩葉は自分がこっちの飯を食べた時は律儀にお金を置いていく。それも多めに。
ではなぜ俺が渋るかというと、一種の仕返しだ。詩葉にはいつも虐められてるから。
「はぁ……まぁ、いいや。ここで抵抗しても詩葉は自分でやるだろうし、飯よそってくる」
「助かるわ。ていうか、ナギ。いまやってたの、ス○ブラ? ってやつよね」
「うん。詩葉知ってるの?」
「んー 名前だけ。有名なのは知ってるけど、残念ながら通ってこなかった道ね」
これは意外だ。
詩葉のやつ、あの天下のスマ○ラをやったことないとは。
ゲームに詳しくない俺でさえ、一度はやったことはあるのに。
「それじゃ後で一緒にやってみる? 面白いよ?」
○○○○○○
「ーーそれでねぇ、戦うキャラを選んで」
「え、ピ○チ姫も戦えるの? いつもなにかと守られるキャラなのに戦闘キャラへ昇格だなんて女上げたわね。やっと自己防衛に目覚めたのかしら」
俺が飯後に飲む用のコーヒーをキッチンで準備していると、ナギと詩葉はすぐにスマ○ラを始めていた。
こちらからはソファに座ってテレビに向かう二人の後ろ姿が見える。
隣り合わせになって、ナギが詩葉に教える形だが、その光景はさながら仲睦まじいカップルの背中のようだった。
むぅ……ほんと、見かけだけなら何処にでもいるただのカップルにしか見えないのに、なんだって未だに付き合ってないのやら。
「詩葉も初心者なんだ。ナギ、手加減しろよ?」
「わかってるって」
なんだかんだナギは超のつくゲーマー。一般プレイヤーよりも異常に強いのだ。それこそ俺なんて今まで一度も勝てたことはない。
だがいくら強いとはいえ今回の相手は一度もやったことのない格下。
少しは相手も楽しませないといけないから自然とナギは手加減をするだろう。
じゃないと初心者は楽しくないから。あくまで初心者がいる時はお互いに楽しむように心がけなきゃな。
しかもよりによって詩葉なんだからその扱いはもっと丁寧になるはずだ。ここで下手にボコボコにするようもんならーー
『GAME SET!!』
瞬殺。
目も眩むほどの速さでオーバオールのヒゲ男が、愛しの女性を崖から突き落とした。
しかも三度も。
その攻撃模様は全く容赦がないように見えた。
「……あ……あ……」
そしてヒゲ男の愛しの女性を操作する詩葉はうろたえていた。
それもそのはずだろう、隣の愛しの男性から初心者に対する優しさなど微塵も感じさせずに木っ端微塵にやられたのだから。
優しいナギだから少しは手加減してくれるでしょ……とか思ってたんだろうなぁ。
そんな予想を持ってた分、余計にショックがでかいみたいだ。
「おい、何やってんだ隣のマ○オ!! さっき言った通り手加減しろよ!!」
「誰がマ○オだよ。それに手加減って……したけど」
「それはそれで相手を逆に煽ってるみたいだからもうそれ以上何も言うな」
ナギはどうやら手加減してるつもりらしいが、側からみればそんな素振り一切見れない。
コイツの手加減の定義壊れてない?
「……あ……あ……」
未だショックを乗り越えれない詩葉は口を開いたままテレビと睨めっこしていた。
こんなに壊れた詩葉、久々に見たな。
「おい、詩葉大丈夫か?」
「つ、次の試合やりましょ!! ねっ!」
なんとか持ち堪えた詩葉は、ナギに次の試合を促す。
○○○○○○
「あっ! ちょっと待っーー!」
『GAME SET!!』
次の試合も前の試合よりかはもっていたが普通に瞬殺だった。
しかも最後にいたっては、落下から復帰しようとしていた詩葉の頭をナギが上から思いっきりぶん殴って落下させるというなんともまぁ悲惨な最後を迎えた。
「……あ……あ……」
再び壊れる詩葉。
こりゃもう見てられないな。
「……おい、ナギ。次はマジで負けるつもりで手を抜けよ? 接待ってやつだ」
「……僕、わざと負けるとかそういうのあんまり得意じゃないんだけど」
「……いいからやれ。考えてみろ、詩葉は初めてこれをやるんだぞ。なのにとことんボコボコにして心折る真似なんかするな。それにここでハマらせたらこれからも一緒にプレイしてくれるだろ?」
「……な、なるほど、頑張ってみるよ!!」
俺の考えが通じたのかナギは了承の言葉と共にうなづき、ゲームに臨んだ。
○○○○○○
数分後……。
「あ! ダメ……っ!!」
『GAME SET!!』
ナギには俺の考えが全く通じてなかった。
いや、もう、なんていうか……いたたまれない。惚れてる相手にここまでフルボッコにされるとは……詩葉も散々だな。
「ごめん、詩葉!!」
「え?」
ナギにツッコもうとしたその矢先、うなだれている詩葉に向かって、突然ナギは彼女に平謝りしていた。
「実はさっき、レンにはわざと負けろって言われたんだけどさ。やっぱり僕にはそんな真似できなかったよ!!」
ナギは、さっき詩葉に聞こえないぐらい小さな声で話していた内容を突如として暴露していた。
というか、何を馬鹿正直に話してるんだお前は。こういうのはあんまし、表立てて言うことじゃなかろうに。
「詩葉とはさ、真剣に真正面からぶつかりたかったんだ。それこそ手加減とかなしで!!」
「ナギ……」
「え、なに。なんかスポ根入りそうなんだけど」
ナギが熱血スポ根ドラマの登場人物の言動を見せているが、全くと言ってその流れになった理由が分からない。
いかんな、雰囲気に飲まれないようにしないと。
「おい、ナギ何を……」
「レンの言った接待する関係なんて……僕は嫌だね。詩葉とは隣で競い合うそんな関係でいたいんだ」
もしかしてナギはあれかな。深夜テンション。
深夜にゲームとか麻雀やってる時に良くなるやつだ。
なんか睡魔で思考ゼロになったら変な言動したくなるんだよなー それで次の日になったら恥ずかしくなるというか。
まだ19時だってのに、コイツはお早い深夜テンションなんだろう。
「詩葉ならセンスもあるだろうからすぐに上達するはず。だから上がってきなよ。ここまで……」
「さも、強キャラポジションのやつみたいなセリフ言ってるけど、これゲームだよな? 聞いてるこっちが恥ずかしいんだけど」
まぁ、ゲームじゃなくても『ここまで上がってきなよ』とか真面目に言うやつけっこうイタいんだがな。
詩葉もこんな変なやつの小芝居を聞くなんて辛いだろうな。
「ふふふ……ナギにそこまで言われたらーーやるっきゃないわね!!」
「こっちものってきた!?」
さっきまでうなだれていた詩葉もなぜかこのテンションにのっていた。
深夜テンションとは伝染するものなのか。
「本当は、愛しのナギなら少しぐらい手加減して何回か勝たせてくれるかなって思ってたんだけど……やっぱり私が惚れた男。その辺の男とは違い、只者じゃなかったわね」
まぁ確かに只者じゃないよな。
一、二回しかやったことのない初心者をぶっ飛ばす大人げないただの変人だし。
「私勘違いしてたみたい。やたらボコボコにされるからナギに嫌われたんだなーって、思ってた。でもこれは一種の愛のムチだったのね」
「愛のムチにしては酷すぎないか? お前崖から何回落とされてると思ってる?」
下手したら心が潰れるぐらいまでとことんやられてる気がするが。
「いいわ、待っててナギ! すぐにそこに追いつくから」
「うん……待ってる」
そう言って、詩葉とナギはお互いにうなづき合ったのだった。
……次話、『再戦準備の宣言』に続く。
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