第30話 初めての二人きりの買い物宣言①
「え、え……っ?」
私がナギを買い物に誘うと、突如ナギは目を点にして何が起きたのか分からない表情になっていた。
そしてしばらくすると、理解が追いついてきたのか、少し口ごもりながら言葉を発した。
「あ、あのさ詩葉。もしかしてこれって、デーー」
「あ、安心して!! デートなんかじゃないから!! ただのお買い物よ、お買い物の付き添い!!」
ふ〜〜あっぶないわ。デートって肯定するのをなんとか防げた。デートってことにしたらナギに断られるリスクがあるかもだし。これで一安心。
しかし、私が買い物の付き添いというワードを強調すると、ナギは少し残念そうな顔を見せていた。
「もしかして、嫌……だった?」
「いやいやいやーーそんな事ないよ!! 僕行きたいです! 絶対に行きたいです!! 嫌なんて事あるかい!」
うぅ……良かった。断られてたら私どうなってたか。
多分、今日の深夜は枕を涙で濡らしてるもしくは、ブラックコーヒーガブガブ飲んでオールするところだったわ。
「じゃあ、ちょっと支度してくるね」
そう言って、ナギは出かける準備をするために自室に行ったのだった。
「ね、ねぇ……っ! 今の誘い良かったと思う!? 私何もマズってないよね!?」
「良かったかどうかは知らないが、なんでデートって事にしなかったんだ?」
「何言ってんのよ、デートって形式にしちゃったら断られるかもしれないじゃない。だからあくまでお買い物の付き添いって事にしたのよ。そしたら気軽に了承してくれるでしょ?」
「あー さいですか」
その甲斐あって今回は……ムフフ。ナギとお出かけ……ムフフフフ。
「……それにしても誘い方がメガネを選んでって、いささか強引というか、雑というか」
「それは私も思ったのよね。突然、案が出たから言っちゃったんだけど。しかもメガネのストックなんて腐るほどあるのに」
「……メガネをデートするための口実にするとは。これだからコンタクトの邪教徒共は礼儀がない」
「邪教徒って……。クドウ、またなんか変なアニメ見始めたの?」
日常ではあまり使わない新しい言葉が出てきたってことは、クドウはまた何か新しいアニメ見たのね。
そのアニメで出てきた難しそうな言葉をやたらめったらに使うんだから。
「って、こうしちゃいられないわ!? ど、どどうしよう。急に決まっちゃったから何にも準備してないわ!?」
「言うほど何か準備する必要あるか? その様子じゃメイクはしてんだろうし、服もまぁいいとして、他は特に」
「……いるとしたらメガネの購入欲ぐらい」
「違うわよ!! だ、だって久しぶりに二人でのお出かけよ!? 道中で話す時の話題やら買い物先のリサーチ、どのお色気テクを使えばいいのか、考えなきゃいけないじゃない!!」
ホントにマズいわ。何も準備してない!
な、何話そうかしら。大学の事? いやでもそんなありきたりな事じゃなくて、もっと二人だけの話題とか。
それにどこのメガネ店に行く? 近いとこ、遠いとこ?
わたし、今日何色の下着だったっけ。
「お色気なら個人的にはノーブラだったらなんだって良い」
「……甘いな。服からさりげなくブラ紐を見せる」
「ほほぉ、なるほど。クドウはマニアックだな」
「……ノーブラもいいけど、それは女性にある程度、場数を踏んでる感が出てしまうから良くないかと」
「くそぉっ!! この場にロクなアドバイザーがいないわ。これならYah○o!知恵袋に聞いた方がまだマシ!」
コイツらったら口から吐くのは全部下ネタじゃない。相談出来ると思った私がバカだったわ。
……でも、ブラ紐はちょっと出してみよっと。
って、そんな事どうでもいい!! あぁ……やばい。私かなり焦ってるわ。
「あ、あわわ。わ、私変な匂いとかしてないよね?」
ナギと一緒に出歩くんだからいい匂いじゃないと……。
臭かったら嫌われちゃう!!
「ん? なんか、カレーの匂いというか香辛料の匂いしないか?」
「え!? まさか昼ごはんのカレーの匂い染みついてた!?」
「あ、あぁいや、すまん。俺が作ってる『サグパニール』の匂いだったわ」
「紛らわしいのよっ!! というか、何の料理よ!? 聞いたことないんだけど!?」
さっきからレンがキッチンで何かを作ってるのは知ってたんだけど、名前を聞いてもピンと来ない。何作ってるのよ。
「……サグパニールは、インド北西部・パンジャブ州発祥のほうれん草とカッテージチーズを絡めたカレー。普通のに比べて辛さは控えめだよ」
「どうでもいい情報ありがと。クドウさん」
「……いえいえ」
どーでもいい情報をくれたお礼はそれでいいとして。
え、どうしよ。髪これでいいのかな。もっと巻いた方がいい?
服ももうちょっと女の子っぽい方が……。
「あーもぅどうしよ。アンタらとこんな風に絡んでる暇ないのに」
「つーか、詩葉お前何悩んでんだよ。お前らしくもない」
「し、仕方ないでしょ。ナギに変な風に思われたくないんだし。少しでも良く思われたいし」
久しぶりの二人きりなんだからそれなりに準備したい。
だって……ナギに嫌われたくないんだもん。
「その気持ちは分からんでもないが、変に着飾ってもすぐにボロは出るもんだ。それよりもいつも通りのお前のままでいいだろ」
「……うん。その方がナギも安心して絡めると思う」
「そ、そう……?」
「安心しろ。いつも通りのお前でも充分ナギを籠絡出来るぐらい魅力的だよ」
「……ナギにはもったいない美女」
「あ、ありがと」
きゅ、急に心変わりしたみたいに嬉しい事言ってくるからこの二人はよく分からない。さっきまで下ネタ吐いたり、私をいじったりしてたくせに。
でも、ナギと一緒にいるこの二人の言葉は、他人には出せない不思議な安心感があって、それを聞いて嬉しくなってる自分もいる。
私って相当単純よね。
「それに、ここだけの話。実はナギはカレーの匂いが凄く好きでな。それを嗅ぐだけで、興奮して服をーー」
「何してんの!! 今すぐ皿にサグパニール盛り付けて!! 出る前に全部食べるわ!!」
「そんな時間ねぇだろ」
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