第9話 今後の展望の宣言②


 詩葉が僕に惚れさせる宣言をしたのに、当の本人は惚れさせる相手からの好意には気づかない。

 言ってしまえば、惚れさせる宣言をする前からもう既に僕を惚れさせているんだぞ。

 とんでもなく宣言の無駄じゃないか。


 ラブコメならもうすでに完結の状態--両想いフィナーレなのに、なぜに僕らのラブコメは終わらないのか。両想いのはずなのに。


 こんな状況、変と言わずなんと言っていいやら。


「何が変だ? 確かに状況は複雑だが、結局お前は、長年片思いしていた相手からどう転んでもご寵愛を受けるんだからいいじゃないか」

「で、でもご寵愛を受けるっていったって」

「自分の好きなヤツが他のヤツに興味があると風の噂で聞いたから恋に焦る……とかなら分かるが、今のお前の状況で解決を急ぐ理由が分からん」


 自分自身焦ってるつもりはないが、レンやその横でうなづいているホイミとクドウを見るとどうやら僕からそんな様子が出ていたらしい。


 んむむ、だって仕方ないだろ……早く詩葉と付き合いたいんだもん。


「例えるなら--今のお前は、詩葉という珍しい魚を追い回す漁師じゃない。むしろお前は詩葉という名の名漁師に釣られる側の立場だ。しかも漁師に釣られるつもりで自分から網に向かってる雑魚じゃこと言ったところか」


 さらっと雑魚といった件はまた別の機会でケジメをつけようか。

 しかし今は見逃してあげよう。


「しかも自分から近づけば、すぐにでも恋愛が完成する。変どころか羨ましい限りじゃねぇか」

「こんな楽な恋愛ないよな。恋愛マンガや恋愛ドラマの主人公達がこの状況見たらあまりの悔しさで歯を余計に食いしばって血流してるぞ」

「……嫉妬で人が殺せたらどれだけ幸せか」


 確かに好きな人から自分に好意を持たれてるのはすごく嬉しくて羨ましい限りだと思うけど……。

 僕の場合状況が状況だからな。


「まぁ俺から言えるのはそう解決に焦るなって事だ。焦ってもいい事ない」

「そ、そうかなぁ」

「かえって状況悪くしたらそれはそれで嫌だろ?」


 現状の打破を急ぐせいで、もしかしたらレンの言う通り、かえって状況を悪くなるかもしれない。

 僕は知らないうちに状況を悪くするプロだからな。こうなる可能性は高い。


「詩葉は逃げねぇし、むしろお前は追いかけられる方だ。気長にじっくり待ってやろうぜ? そしたらいつか近いうちに詩葉もお前の好意に気づいて、めでたく付き合うことになるだろうよ。信じろ、お前の未来は明るい」


 そうだよ、あの頭の良い詩葉だ。

 これから一緒に生活していれば、そのうち僕の好意にいやでも察しがつくはずだ。だから下手に動かず、気づくまで僕が待ってあげればいいじゃないか。

 そうすれば、満を持して付き合うことができる。


「う、うん。ちょっと僕焦ってたみたい。レンの言う通り気長に待ってみるよ」


 レンの言う通り僕の未来は明るい!

 やっぱりよかった、レンに相談して。




「……レンよ。本心は? 素直にお前がナギの相談に答えるとは裏があるとしか思えん」

「……おいおい、酷い言いがかりだな。俺は元々優しいぞ? --だが、ホイミよ、今日は冴えてるな」

「……時間が解決するとは上手く言った」


 僕が将来の展望が明るいことに気づいて喜んでいる中、レン、ホイミ、クドウはテレビの前で何やらこそこそと話している。

 なんだろう、マリカ○について話しているのかな。


「……別段俺はナギに悪い事を言った覚えはないぜ? だがまぁ、ナギに先越されるのはムカつくから上手く言って、先延ばしにしたが」

「……なんて畜生ちくしょう野郎だ。だがその清々しいまでの悪童さには頭が下がります」

「……敵に回すと厄介だが、味方になるとこうも頼りになるとは」


 ホイミとクドウがレンに膝をつき、たたえる素振りをしてる。

 レースに負けた時の罰ゲームが執行されてるのかな?


「……それにだ。先延ばしになればなるほど、詩葉はナギに絡んでくる。それ即ち俺達ともよく遊ぶ。するとどうだ? もしかしたら詩葉と遊んでいるうちに、詩葉から女の子の友人を紹介されるやもしれん」

「……美人の友人は美人戦法か。まさかさっきの行動にそこまでの戦略が練られていたとは、そんなお前にはもはや尊敬を超えておびえすら湧くぜ」

「……先生と呼ばせてくれ」

「……へっ、よせやい」


 なんだろう。三人とも今度は悪さしている悪代官のように『へへへ……』と不気味に笑っている。

 何話してるか聞こうかな。


「……それでだな、まだこの作戦には--」

「--ね、何喋ってるの?」

「--っとぉぉ!! な、何でもないぞ? 今喋ってたのはな……えーーっと、そうだ。次のマリ○ーで負けたやつの罰ゲームを考えてたんだ! な、そうだろ? ほ、ホイミ!!」


 僕に急に話しかけられたせいか、レンは凄く焦った様子だ。

 なぜにそこまでキョドっているのだろうか。さっきまで僕が消えていた訳ではなかろうに。


「あ、あぁ……!! 負けたやつは、え、えとその、……な、なんだっけ、クドウ!!」


 さて、罰ゲームか。

 そうなると僕も本気を出さないとな。久々に僕のゲームの腕がうなるぞ?

 これでもレースゲームは散々やってきたからな。


 そう言えば、罰ゲームの内容は何だろう。

 どうせ、今日のお菓子代奢りとか、昼の学食代奢りに違いない。

 大学生は本当に金がないからなーー


「……権蔵さんと二人でプリクラを撮ってくる」


 ーー絶対に負けられない戦いがここにある。


「そ、そっか……それは負けてられないね」


 クドウの言葉に空気が一段とピリつく。

 たかがゲームに負けた時の罰だと言うのに、みんな目の色が瞬時に変わったんだ。


 この場にいる誰もが、まるで人生をかけた大一番の勝負に臨むような顔つきへと変貌していく。


「……お、おい。なんだその罰ゲームは……!!」

「……し、仕方ないだろ。焦ってこうなったんだ。すんなりと飲み込め! つーか、こんなかじゃ、○リカーは俺が一番弱いんだ……!! どうすりゃいんだ!! クドウ責任とれ!!」

「……その言葉を初めて聞く相手は、婚姻前の女の子だと思ってたが……まさかホイミから聞くことになるなんて」


 再びコソコソと会話をしている僕以外の三人。

 見れば、何か言い合っている感じだ。おそらくお互いに牽制し合っているのだろう。


 こうしちゃいられない。僕も切り替えなきゃ。負ければ、あの権蔵さんとプリ……まさか地獄はこんなにも近くにあったなんて。


 ゲームのコントローラーを手に取り準備万端の僕だが、なかなか準備しない三人。


「何してるの? 早くやろうよ」

「あ……あぁそうだな」


 なんともやりきれない表情の三人だったが、結局、コントローラーを握った。

 つ、遂に始まるのか。人生をかけた本気の戦いが。


「頼むぜ? ヨ○シー。俺の命運は、お前の運転技術にかかってるんだ……!」

「……ゲームをやる前から指が震えるなんて初めて。これが恐怖か」

「な、なぁ、ナギ。マリ○ーに、GT-Rとかレクサスはないのか?」

「ホイミ……残念ながらNintend○の世界に日本車はないんだよ」


 そして、僕らはNintend○が主催するデスレースに身を投じる事になったのだ。

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