第24話 オタクの彼女紹介の宣言②


「それで? クドウは本当に彼女がいるのね……?」

「……何度もそう言ってるけど、何でみんな全然信じてくれないんだ?」


 クドウはそう言うと、少しばかり不満げな顔を見せていた。


「私、嫁にするならゲームのキャラしか勝たんってクドウが前言ってたの聞いたんだけど」

「僕は、いちご10○%の西○つかさを彼女にしたいって聞いた」

「昨日の講義で『なぜ二次元の女性はあんなにも魅力的なのか』っていう題名で発表してたよな」

「……そりゃ信じないか」


 信じてくれないというか、これまでのクドウの様子を見る限りじゃ、信じるに値しないだよな。


 リアルの女子が好きなんて素振り一切出してなかったし。


「まぁそんな事は置いといてさ、クドウの彼女はどんな子なの?」

「……どんな子か。難しい質問だな。特徴的と言えば、声が花澤香菜似とか」

「最高じゃないか」


 彼女の声が花澤香菜似?

 最高すぎてもはやクドウが羨ましいんだが。


 朝昼晩とあのキュートな声が隣で聞こえるなんて想像しただけで……あぁ、僕は。


「それで外見は? どの芸能人に似てるの?」

「……外見は、キテ○ツ大百科のブ○ゴリラ似」

「化け物じゃないか」


 声が花澤香菜で、容姿がブタゴ○ラ?

 あのガキ大将スタイルに可愛い声が付与されてるのを想像しただけで悪寒を感じる。


 なんというか組み合わせが悪すぎるというか、カレー屋なのに寿司が出てきたみたいな。


「……これは冗談。外見は普通だよ。誰似とかは明確に言えないけど」


 よかった、冗談で。

 本当にそうだったらどうしようかと思ってた。


「……あとしいて言うなら彼女もオタクだ」

「なるほどな。類は友を呼ぶというか。オタクはオタクとしか結ばれないわけか」

「大丈夫だからね、ナギ!? オタクも世間一般の人と付き合ったり結婚していいんだからね!? オタク同士じゃなくてもいいんだからね!?」

「う、うん……。詩葉なんでそんなに焦ってるの?」


 なぜだが知らないけど、詩葉が必死に何かを説得しようとしていた。

 なんなのだろうか……。


「しっかしな、あれほど二次元を愛してたクドウがまさか彼女を作ってたとは。どういう心境の変化だ?」

「……別に普通。二次元の女性じゃ、触れれないし、エッチ出来ないだろ」

「男の本能に忠実だね」


 まぁ、リアルと二次元の境目といったらそんなところだろうからな。

 人によってはそこの境目を見失って戻ってこれないところまで堕ちた人もいるが。


「じゃあ私から聞きたいんだけど……ズバリ、なんでその子と付き合ったの?」

「お、いいじゃねぇか。クドウからそんな事聞くのは面白そうだ。答えろよ、クドウ? その子のどこが好きなんだ?」


 ニヤニヤとホイミと詩葉はクドウを問いただしている。


 うーむ、これは実に恥ずかしくて答えにくい質問だが……やっぱり興味はある。

 あの、オタクのクドウがどう答えるのか、みんなすごく興味津々だ。


 すると、クドウは少しも恥ずかしがる様子なく平然と述べた。


「……俺が今まで出会った二次元のどのキャラよりも彼女が一番魅力的だったから」


「「ぐぅ……っ!!」」


 む、胸が苦しい。

 なんて威力だ。こんな甘いセリフをクドウから聞くことになるなんて、よ、予想外だった……!!


「ま、まさかクドウからそんなクサイ言葉を聞くなんて……」

「冗談で返してくると思ったらマジな答えって……。うっそ、私、あのクドウに嫉妬してるわ」

「あ〜ぁ、今すぐ地球消滅しねぇかな。もしくは俺以外の男子死滅すればいいのに」


 僕と詩葉は二人して胸を苦しめている中、ホイミはホイミでクドウの言葉を聞いた直後、遠くを見ながら人類絶滅を夢見ていた。


「……そもそも俺はみんなが思うほど、オタクに堕ちてないからね」

「じゃあ今すぐお前のオタク系の物全部燃やすって言ったら?」

「……ホイミを燃やす」

「即答かよ。少しはオレに対して躊躇いってのがないのか」


 こればっかりはホイミを擁護できない自分がいた。

 我々にとって神秘的なものに簡単に燃やすなんて物騒な言葉を使うなんて。とんでもないヤツだ。即、斬首刑だろう。


「いつから付き合ってたの?」

「……二週間前。そんなに前じゃない」

「二週間前? ちょっと待てよ。確かその頃、よく俺と二人で彼女がいる奴らの悪口言って自分達を励まし合ってたよな? お前どんな感情でいたんだよ」

「……無様なホイミを嘲笑ってた」

「コイツぶちのめしていい?」


 リア充の悪口言い、励まし合ってたって何してたんだコイツら。

 しかしクドウによって散々な目にあってるホイミには少しばかりは同情した。


「それにしても二週間前か。付き合ったならすぐに教えてくれてもよかったのに」

「……いつかは紹介しようと思ってたけど、タイミングなかったんだ。でも今しがたこの近くにいるらしくて、あっちもみんなに会ってみたいらしいから呼ぼうかなと」

「ぜひぜひ呼んでよ!!」


 またとない機会だ。クドウの彼女に会ってみたいし、この部屋に呼んでもらおう!!


 そしてクドウは彼女に連絡をしたのだった。



〇〇○○○



 それからしばらくして、クドウの彼女を待ちがてら僕らは待ち焦がれていたマックのデリバリーを堪能していた。


「はい、ナギ、あ〜ん!!」

「う、詩葉。みんなが見てる前じゃちょっと恥ずかしいよ」

「いいのいいの、はい、あ〜ん!」


 そう言って、詩葉は手に取ったフライドポテトを僕の口に運んでくれた。


「どお? おいしい?」

「うん!! 詩葉のおかげでめちゃくちゃ美味しくなったよ!!」

「けっ。”あ〜ん”したからってポテトの味なんて変わるかよ。マックのポテトの味はいつも通り、油ぎってて、血管詰まらせるぐらい塩分高めだってのに。しかも冷えてる」

「……確かに、しなしな」


 ホイミは僕らの様子を見ながらグチグチと文句をたらしながら恨めしそうにしていた。


 ホイミの機嫌が悪くなったのは、デリバリーの人がハゲの爺さんだった事が原因だ。

 女性と期待していたところから一転、奈落に落とされた気分なんだろう。


「ほら、もう一本、あ〜ん!」

「お、おいひぃ!!」

「そんなにナギの言う通りに味が変わるならな、いくらでも”あ〜ん”してやるよ。ほら、あ〜んだ、食え、クドウ」

「……男にあ〜んしてもらえなきゃいけないほど、俺は飢えてないし、ホイミからもらうくらいなら今すぐモ○バーガーに浮気する」


 無理やりクドウにポテトをねじ込もうとするホイミとそれを抵抗しているクドウ。

 二人して少しばかり暴れていた。


 全く、ホイミもピリピリしてないで落ち着きを取り戻さないと。


「嫉妬は見苦しいよ、ホイミ? ほら現に詩葉の愛情によってこんなにも美味しくなってる」

「もぅ、ナギったら」

「あ〜なんか血圧高くなった気がするんだけど、これってポテトの塩分のせいか?」

「……いや、ストレスでしょ」


 一刻も早くホイミには彼女を作ってもらわなきゃな。今日みたいな事が度々起こるようじゃ、扱いが大変になる。


「つーか第一に、何で詩葉がここで一緒に飯食ってんだ? これは俺らのデリバリーだろ?」

「別にいいじゃん。どうせポテト余る前提で多めに注文してたんだから」


 そして僕らがあーだ、こーだと話しているうちに、空気を一変させるチャイム音が鳴ったのだ。


『ピンポ〜ン』

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