第7話 宣言の説明の宣言③
「し、雫が僕の好きな人な訳ないだろ!?」
「いいえ。私は確信しているわ」
「と、と言うか。雫には付き合っている彼氏がいるし……」
そう、何を隠そう雫には彼氏がいた。これは友人間では周知の事実だと言える。
それこそ、僕が雫にやたらと恋愛の相談をしようとした理由もこの事実があってのこと。
恋多き女の雫は、色々と経験してそうだし、僕にとって有効的なアドバイスがもらえると思ったから。
ともかく彼氏がいる人を好きになんて……。
「えぇそうね。禁じられた片想い、だからナギはずっとしーちゃんには想いを伝えることができなかったのよね、分かるわ。伝えようとしたらしたで誰も幸せにはなれないから」
「違うって! 雫にはこれっぽちも微塵もそういう感情はないって!! それこそ僕が雫に好意を持っているなんてどこから--」
もちろん、僕は雫に告ったことも、ましてやそれに近い行動なんて一つもしてない。
誰かに雫の事が気になっているなんて言った覚えもないから詩葉がこう疑いなく確信持って言ってくるからすごく疑問なのだ。
まるで何か根拠があるような様子だし。
「ナギが”しーちゃん”と一緒に帰った回数……高校三年間では621日中、527回。中学三年間では611日中、499日」
「え……?」
「高校三年間と中学三年間の約八割をしーちゃんと一緒に帰ってるわよね? 挙句私は三割に満たない。他の女子はほぼほぼゼロ、これだけの情報でもしーちゃんを特別視していると思うけど?」
「で。でも登下校とかの回数だけじゃ……!」
「昼食時間はほぼ九割を共に--」
「回数……」
「毎日の学校での談笑時間、移動教室の移動時間、放課後の時間等もろもろ--」
「……だけじゃ……!」
「花見、夏祭り、プール、クリスマス、お正月など季節行事までも」
「……けじゃ……!」
「学校生活全てをトータルしてナギが一番時間を共にした異性は、しーちゃんただ一人よ!!」
「ぐわァァーーーッッ!!!」
完全な論拠を出された僕は、思わず某裁判ゲームの弁護士のように仰け反ってしまった。
う……うぅ……詩葉の言い分は簡単に否定できなくなってしまった。
確かに
好意とはいかなくても彼女に対して何か意識しているんだろうと思ってしまうだろう。
学生生活の殆どを共にした異性の事を、親しい友人としてだから何もないといくら言い聞かせてもまかり通らない気がする。
僕もそんな立場の男女を見たら嘘と十中八九思うもん。
詩葉がこんな勘違いをしたのも完全に僕のせいだ。自業自得というのだろう。
くそぉ……なんだかんだ雫とは、ありえない確率だと思うが中高六年間同じクラスだったのもあるし、つるんでいたメンバーの中に雫もいたから余計に一緒にいた時間が多く見えたんだろう。
というかよく考えたら、ずっといたなアイツ。
「まぁ、これはナギが異性愛者という前提をもとにした結論だから仮にナギが同性愛者であれば、私のライバルはナギと共にいた時間がダントツで一位のレンってことになるけど」
「大丈夫。僕にそっちの傾向はないから」
僕がレンと?
それならまだ僕の全裸が全国放送に流れる方がマシだ。
「そ、それにしてもよくそんなデータ集めたね。僕の日々の動向とか行動履歴とか」
「えぇ……これらは全て私が作った『ナギノート』に集約されているわ。ナギに関する全ての情報がこの存在に入っている」
ナギノート? なんて恐ろしい存在なんだ。こと状況によっては人の名前を書いて殺せるノートよりも恐怖を感じる。
「これを作るにあたっていろんな人の協力があったわ? ナギのおばあちゃんでしょ? それに近所のママさん達。ナギの友達--密偵X」
「おばあちゃんまでも協力者だったの!? そういえば、やたら僕の行く場所を聞いてはあの年齢に似合わず、スマホをいじっていたような」
「えぇ……逐一L○NEしてくれたわ。今でもイ○スタ、Faceb○○k、TikT○kも繋がってるし、Netfl○xのアカウント共有もしてる」
「なんてハイテクな老婆なんだ」
後で、僕もN○tflixのアカウントに入れてもらえるように懇願しよう。
しかし……おばあちゃんやママさん方はまだしも一番の謎は密偵Xだよな。
僕の友達の中に密かに詩葉と繋がっていた人物がいるとは……そんな事を考えていたせいもあってか僕の頭の中では、ライア○ゲームのBGMがやたらと流れている。
誰だ……誰が裏切り者なんだ。
そろそろ、松田翔太が出てきて、この状況の必勝法を教えてもらいたいところだ。
「ちなみにただの好奇心だけど、そのナギノートには他にどんな情報が入ってるの?」
「例に出せば、ナギが16歳、2ヶ月の時に好きだったゲームでしょ? ナギが最初に買ったエロ本のタイトル名。履歴は消せるのに、ナギが自分のスマホで見るのは嫌だからっていう変な心理が働いて親のパソコンで見ていたエロ動画のタイトル集。歴史の参考書の中身だけくり抜いて隠しているエロゲーのタイトルとか?」
「うん。じゃあ早急に燃やそうか」
さてと……灯油とライターを準備しなきゃな。
最初は良かったが、後半は見過ごせない。
まさか僕のトップシークレットをそんな深くまで知っていたとは。誰が密告したんだ。
「……とにかくこれで分かったでしょ? ナギが私に興味がなくて他の人に好意があるって事を私が確信してること」
「……あ、わぁ……」
僕はその瞬間、詩葉の言葉にうんとか、違うとか素直には言えなかった。
だって、その内容がいくら勘違いであってもそれを反証する
いくら僕が違うって言っても、それは全て何の信頼性もない。詩葉が掴んだ情報を覆せることなんて出来ないと分かっていたから。
それに当事者でもある雫は既に日本を発っている。さらに言えば、雫はこの時代の高校生では珍しく携帯を持ち合わせていなかった。だから連絡する事も出来ない。
うぅ……雫がこの場にいてくれたらこの勘違いを解消してくれるだろうに。
そしてずっと僕が長年、雫に相談していた『詩葉を好きだった事』を伝えてくれるはずなのに。
「ナギがしーちゃんの事好きって、気づいた時はショックだったな〜 でもね、いくらナギが他の人の事が好きでも私は諦めきれなかった。だって、私はナギの事が本当に大好きだから」
「………詩葉……」
僕はなんて幸せ者なんだ。
それでいて僕はなんて阿呆なんだ。
僕がもっと早く詩葉にこの気持ちを伝えていればこんなことにはならなかったはずなんだ。
一瞬でも詩葉に悲しい気持ちを感じさせることはなかったはずなんだ。
「だから決めたの。ナギに他に好きな人がいても。未だ私以外の女の子を見ていても。今度は今までみたいにまどろっこしいことなしで、ちゃんと口と行動で私の好きをナギに伝えようって!」
詩葉はそう言って、笑顔を浮かべる。
そして僕を指差して言葉を続けた。
「だからこそあの宣言--私がナギを惚れさせる宣言だよ。私がナギを他の女の子に目が向かないくらいメロメロにしちゃうから!」
そう言った詩葉の声色は凄くハッキリとして生き生きとしたものだったのに、どこか恥ずかしがっている様子を醸し出していた。
それがなぜか僕にはより魅力的に思えて。
「……詩葉。僕……」
僕はそんな風に恥ずかしがっている彼女に本当の意思を伝えようと半歩前に出た。
だがその瞬間、突然僕の唇にこれまで味わったことのない柔らかい感触が。
「……んっ……」
口元に微かな体温を感じながら若干の吐息。
目を開けるとそこには、僕の好きな人兼僕を惚れさせたい人の可愛い顔があった。
キスを終え、僕が放心状態の中、彼女は耳と顔を若干赤くしながら言ったんだ。
「ナギ……今までは消極的だったけど、これからは積極的にいくんでよろしくっ!」
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