第12話 天使の状況の宣言②
「ちなみに、詩葉はどこの学部に編入したんだ?」
「外国語学部よ。そんでもって英米学科ね」
「ふむ。まぁ妥当だな。ウチらの大学じゃ、一番偏差値高いのはそこだし」
「偏差値とかはあんま考えてなかったけど……とにかく英語が使えるとこが良かったの」
そっか。詩葉とは別の学部になるのか。
まぁ、詩葉が自分の夢の為にその学部を選んでいるんだか異を唱えるのはおかしな話だろう。
もはや同じ大学というので、嬉しいかぎりなんだから。
「詩葉、今日は授業あるの?」
「うん。今日もぎっしり一日中授業が組まれてて……って、あぁ!! もうこんな時間!! 早く支度しないと、授業間に合わなくなっちゃう!!」
詩葉は僕らと随分話し込んでいたために、時間を忘れていたようだ。
テレビの時刻を見るや慌てて飛び上がり、玄関に向かった。
「朝食美味しかったわ! レン! じゃまた大学で!!」
「おうよ」
レンには忘れずにもう一度お礼を言うと、扉を開けて詩葉は振り向いて言った。
「またね、私の愛しい王子様」
そう言って、詩葉はすぐさま僕らの部屋を出ていったのだ。
はぁ……うぅ……また詩葉はホントに僕を狂わせるのが得意だな。
毎回、毎回、詩葉が帰るたびにあんな甘いセリフを言われるもんなら僕はそのうち野獣となって彼女を襲いかかってしまうだろう。
ーーいや、むしろそうしたい。切実に。
「全くすげぇよな、詩葉のやつ。たった一つの目的のために東大やめて、こっちに来るなんて、すげぇ行動力だよ。なぁ? 王子様」
「う、うん……。なんか責任感じちゃうよ」
もしかしたら僕のせいで、詩葉の将来の設計は大きく間違ったのかもしれない。目的地から大きく逸れたかもしれない。
そう考えると、身体全部が、押し潰されそうなほどの罪悪感に襲われる。
「じゃあせめて、東大やめてもよかったって思えるぐらい幸せにしてやらなきゃな」
「……うん。もちろんだよ」
○○○○○○
大学の授業を終えたとある放課後。
「ーーワッハッハ!!」
自分の部屋から出てきた途端、ご近所に迷惑がかかるのではと思うぐらいの大声が聞こえた。
声のする方を見ると、レンがソファで転げ回っていた。
「ん、何笑ってるの? レン」
「いや、ホイミのTwitt◯r見てみろよ。
レンに言われた通り、自分のスマホでTw◯tterを開き、見てみると確かにホイミは権蔵さんとのプリを投稿していた。
その画像達は、ひげ面のおっさん二人が恥ずかしそうに指でハートを作ったり、変顔してたり、目が異様に大きくなっていたりするなど、とても見れたものじゃなかった。
まさか僕のタイムラインに、こんな気色悪いものが並ぶなんて。
「本当だ。しかもリプ欄に権蔵さん本人が『仲の良い二人はずっ友だね』って返してる」
「ホイミも無念だな。権蔵さんからのお願いを断り切れず、渋々載せたんだろうよ」
まぁ、こんな画像をホイミが好きで載せたとは考えにくい。
だって、こんなの載せたらみんなにブロックか、フォロー外されるに決まってるから。
「なな、『羨ましい美男美女カップルですね』って、リプ返して良いかな」
「やめてあげなよ。ホイミも精神まいってるだろうし。あんましバカにしてたらホイミ不登校になっちゃう」
権蔵さんとプリを撮った事自体がただでさえ地獄だったのに、それに追い討ちをかけるようにネットに公開したんだ。
これ以上キズを抉るなんて酷な事だろう。
「お前がそう言うなら良いが、いいのか? お前はバカにされっぱなしなのに」
「え、なんの話?」
「いや詩葉が初めて来た日の帰り際、ホイミ言ってたぞ? 『今後毎日、ナギが美人とイチャイチャするのを見るくらいならチンパンジーの性交をずっと見てた方がまだマシ』って」
なるほど……ホイミがそんな事を……ね。
僕は、無言でスマホをTwi◯terを開き、慣れた手つきでスワイプをしていく。
うん……これでよし。送信……と。
「ん……? お前何送ったんだ?」
「『本当に目の保養です。Y◯uTubeでカップルチャンネルでも開いたらどうですか?』って送った」
「なるほど、公開処刑だな」
このぐらいの罰じゃまだ生ぬるい。僕を馬鹿にしたホイミは、とことん地獄の業火で焼き尽くそう。
「ん……? クドウがリプしてんな。『チャンネル名は"ホイぞうの毎日ヒゲ面チャンネル"なんてどうでしょう?』か。コイツ傷口に塩をぶち込みやがった」
「こりゃ本格的にホイミ引きこもるかもね」
「カップルチャンネルは、全部うぜーから全く見てないが、これは無性に見たくなるな」
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