第35話 予定の打ち合わせの宣言
とある休日の夕方。
僕、レン、ホイミ、クドウ、詩葉、ユノの6人は、アパートの部屋に集まっていた。
「ーーはい。それではこれよりきたるゴールデンなウィークの半ばに、開催予定の日帰りBBQの会議を始める」
らしくない畏まった言い方で話を始めたホイミは、僕たち学生には見慣れたはずのホワイトボードに次々とマジックペンで字を書いていく。
ホイミが説明したので改めて説明するまでもないが、今回僕たちが集まった理由は、GW中にする予定のBBQの打ち合わせのためだ。
そんなのL◯NEやらメールやらで連絡を取りあえば、良いじゃないかと思うだろうが、面と向かってやった方が早く終わるという事でこうしてやっている。
「ホイミったらホワイトボードまで準備してるなんてかなり用意周到だね」
「あーあれ、この部屋に前いた人が残してたヤツだね。埃かぶってのを見つけてホイミが出してきたんだ。これあれば、会議らしさが出るだろって」
「会議らしさって。私には体育教師が生徒に保健体育を教えてるようにしか見えない」
確かにガタイの良い男の人が目の前で板書のような事をしていると特にそう見える。まさか大学生にもなって、保健体育を受講することになろうとは。
「そこ、勝手な私語は厳禁だぞ。静かに」
「「「はい、先生」」」
詩葉の冗談に、思わず笑っていた僕とユノだったが、ホイミに怒られてしまった。
そして一通り書き終わったホイミは振り返って話を続ける。
「それではまず本企画の内容、日付と場所の確認だ」
ホイミの話と共にホワイトボードに書かれている内容を確認した。
日付は、みんなで予定を合わせたから大丈夫として。場所は、岐阜県のーー初めて聞く場所だなぁ。
すぐにスマホで調べてみるが、至って普通のキャンプ場のような場所だった。
「場所は結局ボクとかけるが前行った場所にしたんだ」
「あぁ。調査に調査を重ねた結果、候補の中では一番良いと結論づいてな」
「行く場所は、もともとクドウとユノが行ったことある場所なの?」
「うん、そーだよ。なんかかけるが泊まりがけでキャンプしたいってなって、行った場所がそこでさ。割と近いのに自然感じれる場所でね」
クドウがキャンプに?
生粋のインドア派だというのに、自ら死地に飛び込む真似するなんて信じられないな。
そんな事実に驚いたのは僕だけじゃないようで、詩葉とレンも仰天に近い表情を出していた。
「……みんなしてなんだその顔は?」
「いや、あのクドウがキャンプしたいとか言うんだ」
僕が言うのはなんだが、クドウのような生息地が部屋の民族には縁のない話と思っていた。しかもクドウ自らやろうだなんて。
「日の出るとこにわざわざ行くようなヤツとは思わなくて」
「クドウって、カーテン閉じた部屋にいるか暗闇じゃないとダメかと」
「……俺を吸血鬼かなんかと思ってる?」
もはやそれに近い存在とばかり思っていた。
だって、クドウの好きなものは全て室内で完結するものばかりだから。
「……ちょうどその時期、ゴールデ○カムイを見てて、ふと野生に帰りたいなと思ってやったんだ」
「感想は?」
「……二度とやるもんかと。何が楽しくて虫達とベッドインするんだ」
「今回は泊まりがけじゃなくてよかったね」
泊まりだったら嫌でも虫達と一夜を共にすることになるからね。
「……日帰りって聞いたから参加したんだよ。日帰りじゃなかったら自分で車運転して死に物狂いで帰ってやる」
「でも帰るにしてもクドウ免許ないよね」
「……ふっ、俺が死を恐れてるとでも?」
「いや普通に法律違反」
ドヤ顔をかましてくれたが、問題は運転技術ではなく、法律ということを忘れないでもらいたい。
「それでは続いて、メンバーの確認だ。ここにいるメンバーとトクダネ、ハヤシダを追加したメンバー構成となる。まぁ、本来なら男だけの集いとなるはずだったがな」
ホイミはそう言いながら目の前にいる詩葉とユノをジト目で見ている。
実はホイミの言う通り今回のBBQは、本当のところ男だけでやる予定だった。しかし、企画していたところ、詩葉とユノの存在も浮上し、どうせだったら誘おうという話から今に至るのだ。
ホイミはその案に最後まで抵抗していたが、結局のところ了承することになった。
それにしても、ふむ。ホイミの最後の言い方はかなり嫌味のある言い方だ。
「あららボクたち歓迎されてないのかな?」
「心配いらないわ、ユノ。どうせホイミの個人的な意見だから。そうよね? ナギ」
「うん。二人が入ってくれたおかげで滲み出る男臭さが緩和されるよ」
これは本音だったりする。
もちろん、たまには男だけで何かするのも悪くはないと思うが、女性がいるにこしたことはない。
それだけで華々しさが違うからね。
「おいおい、俺達の熱い友情は肉をも焦がす勢いだろ?」
「弱火の間違いでは?」
その火力では十分な焦げ目すらつけられないだろう。
「どうせ、ホイミの事だから男だけが良いって言うのも、男だけの方がナンパしやすいとかいうことでしょ」
「まぁだろうな」
「……100%それ」
男だけなら何の気兼ねもなくナンパを実行できる。なんならホイミにとって、このBBQの当初の目的はそれだった気がする。
「ふっ、愚問だな。それ以外に何があると?」
ほらね、ホイミの考えている事が手に取るように分かる。
「そんなの私達に構わず勝手にやればいいのに。私達気にしないわよ?」
「うんうん。むしろ、見てみたい。ホイミに誘われる女の子の姿」
「いやいやいや女友達の前で見知らぬ女性をナンパとか、なんだ、その、例えるなら家族で見てたテレビで突然激しいラブシーンが流れるみたいになんか気まずいんだよ」
家族団欒の中、突如視界に入る、裸の男女のねちっこい……シーンか。
「うぅ……確かに想像するとアレだね」
「……なんとも言えない空気が流れる」
「すぐN◯Kの子供向け番組にチャンネル変えて、ホッコリしたいな」
確かにホイミの言う通り詩葉やユノに見られてのナンパは気恥ずかしいものがあるかも知れない。
◯◯◯◯◯◯
「運転は、ホイミだけでいいの?」
「まぁ順当にいくとそうだろ。俺の他に免許持ってるやついないだろ?」
「あ、ボク持ってるよー 実は高校在学中にとってて」
「え、それっていいの? 普通高校とかってそういうの厳しそうだけど」
僕の高校とかは、それこそ免許とったら一発停学だとか、指導とかで、全く取れるような環境じゃなかった。
それに取る暇もなかったのもあるが、ユノは取れたんだ、凄い。
「まぁバレた時はむっちゃ怒られたけど、取ってしまえばこっちのもんだから」
「ユノって、かなり神経が図太いわよね」
まぁ確かに何か問題を起こさない限りは免許を没収なんて出来ない。それこそユノの言う通り、取ってしまえば、誰にも文句を言えないと言う事だ。
「まぁ、そんなんだから私も運転できるよ? ホイミ、どうせお酒とか飲みたいだろうから行きはホイミ。帰りはボクが運転しようか?」
「おぉ、それは助かるが、いいのか?」
「うん! ボク割りかし運転好きだから」
ユノの提案に頬が緩むホイミ。
アル中の彼にとっては、とても魅力的な提案に聞こえた事だろう。
「実際、かけるとキャンプ行った時もボクが運転したんだよね」
「そうなの、クドウ?」
「……あぁ。だが、ユノが運転するのはお勧めしない」
「え、なんで?」
「……ユノの運転はF1レーサーも真っ青の速くて荒い運転だから」
「ちょっと、言い方。言い方。そんな事ないでしょ」
意外だなぁ。それこそユノは自分で運転好きって言ってたのに。
「……軽自動車でSUVと張り合ってるのを見せつけて、他になんて言えと? イニシ◯ルDの世界にもN-B◯Xで峠を全速力で下る人はいない」
「だってあっちの車、こっちが軽だからって、車間距離とか狭くしたりして煽ってきたんだよ? ボクの心のブレーキがかかるとでも?」
「……走行中、タイヤが擦れたせいで発生した摩擦の臭いが窓から車内を駆け巡ってた」
ユノの運転はまたの機会にしたほうがいいみたいだ。日帰りどころかまともに家にすら帰れなくなるのは困るから。
「まぁ、運転は追々話すとして、次は当日のスケジュールだな。BBQで焼く肉はもちろん、精肉店のにするから、朝早くーー」
それから僕達はBBQ当日についての打ち合わせを続けたのだった。
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