第5話 宣言の説明の宣言①
ーー時は戻り。詩葉の宣言の直後。
「……え……なんて……?」
突然宣言された詩葉の言葉の内容に僕の思考が止まる。
だらしなく口が空きっぱなしとなっているが、そんなの気にしてられないメンタルだった。
い、今なんて言った?
詩葉が……惚れさせる……?
……僕を?
目まぐるしく回る視界。頭が真っ白に。
そして……だんだんと目の前が真っ暗に。
「…………」
「……ナギ?」
「……ぶっふぁ……っ!! 危ない!! 気を失いかけてた!!」
いや〜危ない危ない。寸前のところで持ち堪えれてよかった。
あまりに信じられない言葉で呼吸を忘れてたぞ?
それよりも……まずは確認だ。
「あのー 詩葉さん? 僕の聞き違いかもしれないんで確認を取りたいんですが……今さっき僕に言ったこと……えと、その……惚れさせる……ってのは……?」
「ん? うん、マジよ。マジのマジ」
「ってなると……あの……惚れさせる……とはつまり詩葉は僕の事が、ばりすいとー?」
「なんで急に博多弁!?」
しまった。あまりに驚きすぎて、僕がちょー可愛いと思う方言ランキング一位の博多弁が出てしまった。
というか僕が戸惑うのも無理はないんじゃないだろうか。
あの高嶺の花の詩葉が何を隠そう、僕を惚れさせるなんて言ったんだ。何の冗談かと思ってしまう。
「ーーんもぅ! ナギったら疑わないでよ!! 好きに決まってる!! 大好き!! 私はこの世でナギの事が一番好き!!」
「う……ぉ……」
「全然伝わらないなら言ってあげる! 冗談言った時のナギの笑った顔が好き!! 電車やバスで率先して席を譲るナギの優しいとこが好き!! ちょっと癖毛でそれをいつも気にしてるナギの愛くるしいとこが好き!! 和菓子をこよなくーー」
「ちょっーーっっ!! それぐらいにして!! これ以上続けると僕死んじゃう!!」
このまま続けられると、大好きな詩葉からの嬉しい言葉の数々に耐えられず、僕はうれしょんならぬ、うれ死してしまう。
「えぇ……!? まだナギの好きなとこ25万個あるのに」
僕が止めた事で少し残念そうな顔を見せる詩葉。
25万個……嘘だろ? 広辞苑の言葉並みにあるじゃないか。
あのまま全部言われてたら僕はどうなってたんだ……?
「ーーふぅ〜〜っっ!! それにしてもやっと言えた。長年の胸のつっかえが取れた感じ!」
「あはは……それはよかった」
詩葉は長年凝り固まっていたものが解消出来たように清々しい様子だ。
ひとしきり伸びをし、今まさに体の自由を解放しているようだった。
あーよかったよかった。詩葉は言えたんだな。長年悩み、すごく言いたかった事を。
何だっけ、えーと、僕を惚れさせるだっけ。
……ん? 待てよ。
よくよく考えたらこれって。
「な、何ですとーー!??」
「ど、どうしたの、ナギ!?」
突然の僕の絶叫に、詩葉がビビってしまった。
これはいけない。詩葉をビビらせるつもりなんてなかったのに。
「あ、ごめん驚かせて。今一度自分の勘の悪さに気づいてしまって」
「そ、そうなの? 大丈夫?」
「うん。……はぁ……僕って馬鹿だな。十字架で磔になって自分を戒めたいレベル」
「そこまで悔い改めなくてもいいんじゃない!?」
なんてこった。全く気づかなかった。
詩葉は僕を惚れさせたい。
そんでもってその対象の僕は……詩葉が好きだ。
惚れさせたい相手が自分に惚れてるって……これはつまるところもう二人は両想いってやつだよな。
察しが悪い僕は今気づいたが、僕と詩葉は、どうやら好き同士のようだ。
ーーって、なにこの状況!? 改めて考えてみても簡単に処理できないんだけど!! もしかしてこれ夢!?
なんで、詩葉に告白する予定がこんな状況になってんだ!?
今でも冗談かと思ってしまう。
まさか、こんなに可愛くて、愛らしくて、キュートな詩葉と好き同士なんて。
おじいちゃん。
遂に僕にも運が回ってきたみたいだよ。
「それじゃあ、詩葉。付き合って初めてのデートはどこにする?」
水族館、いや動物園もいいな。
なんだったら映画館も。
「ん? ちょっとナギ。なんか話見えないんだけど?」
「え? だって、僕と詩葉は恋人同士になったんだよ? だからデートの企画を」
「ま、待って待って! 急に、え、なに? 私とナギが恋人ってどうしてそうなるのよ!!」
詩葉は僕の話が理解できていないようで慌てふためいている。
ふふ……戸惑ってる詩葉も可愛いな〜
それにしてもあの頭の良い詩葉が困惑なんて……あっ、そうだった。
「ごめんごめん、伝えてなかったね」
そうだ、詩葉には僕が詩葉の事を好きってのを伝えてないじゃないか。
なのに、いきなり恋人だよとか言うなんておかしな話だった。
彼女が戸惑うのも無理はない。
そして僕はさっきまで中々出せなかった一世一代のセリフを口に出したんだ。
「実はーー僕、詩葉の事が好きなんだ」
「は?」
僕がその言葉を言うと、詩葉はキョトンとしてぼんやりと口を開けている。
気抜けして、思考が止まったようにピクリともしない。
そんな詩葉を他所に僕は言葉を続けた。
「詩葉も僕が好き。僕も詩葉が好き。ほら好き同士だから恋人に」
「…………」
「……詩葉?」
しばらく黙り込んでいた詩葉が流石に心配になった僕は詩葉の顔を伺う。
すると詩葉は僕の顔を見るや、何かを悟ったように気を取り戻した。
そして目覚めの深呼吸を一つ。
「ふぅぅーーっっ。……なんだそう言うことね」
自分の中である程度自己完結出来たのか、詩葉はそう言葉を漏らすと、親が子に諭すように僕に向けて優しく声をかけた。
「いい? ナギ。いくら私を傷つけたくないからって、興味のない私に無理して"好き"だなんて言わなくていいのよ。ナギが優しいのは分かってるけど」
「へ?」
今、詩葉なんて言った?
僕が詩葉に興味が……ない?
「ちょっ、ちょっと待って。どういう事!?」
「言葉通りよ? 好きでもない相手に同情するような言葉はいいってーー」
「いやいや!! なんで僕が詩葉の事好きじゃないみたいになってるの!?」
「何を今更。ナギが私に興味がない事なんて、随分昔から知ってたわよ」
「は、はいぃぃーー!??」
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