第15話 サークルに入りたいの宣言①
「あ、きたきた。おーい、ホイミ、クドウ! こっち!」
ほとんどの講義が終了し、学校全体が昼休憩となり、賑わい始めた食堂。
先に来ていた僕達を探してフラフラしているホイミとクドウを見つけた僕は合図を送る。
その合図に気づき、ホイミとクドウはこちらに来て席に座った。
「なんか遅かったね。待ちきれなくてもう頼んじゃった」
来ると思っていた時間よりもかなり遅れてきたホイミとクドウ。
僕とレンはそんな二人が待ちきれずに既に学食を頼んでいた。
今日はトンカツ定食! 美味そうだ。
「まーな。今日はやたら授業が長引いてな」
「二人ともこの時間は何取ってたっけ」
「……日本歴史学。今日のテーマは、昔日本にあったとされる一夫多妻制度について」
「一夫多妻制度について話すと思ったんだが、今日は、今の婚姻制度について教授がやたら熱く語っててな。『現在はダメですからね! 一人までですから』とかなんとか。何かあったのか?」
「まぁ、そのうち知る事になるよ」
ホイミとクドウは、まだ週刊BUN秋を見てないからあの記事の内容は知らないようだ。
まぁ人の噂は急激に広がるからな、いずれ知るだろう。
それよりまさか川崎教授の一件が他の講義にも干渉していようとは。
「あれ、席は四つか? ナギの嫁が来るんじゃないのか? もう捨てられたか? もしくは夜逃げされたか?」
「来ないよ。今日は学部の子達と食べるって」
こらえろ。ホイミの冗談を聞き流すんだ。
彼にはそのうち天罰が降るのだから。
まさかトクダネを通じて、裏でホイミのゴシップネタが回っているとは知るまい。そのうち公の目に晒される事になるんだから、今のうちぐらい優しくしておこう。
ちなみに先ほどの詩葉の連絡は、僕がどこにいるのかという内容のものだった。
食堂と伝えたのち、意を決して『良かったら一緒に昼ご飯どう?』と聞いたが、残念ながら断られた。
「本当はこっち来たいけど、学部の子達とも仲良くなりたいだとか」
「ほぇー 詩葉ちゃんは、人付き合い良さそうだな。そこら辺上手くやってそう」
自分の事じゃないので、自慢にならないが詩葉はかなり社交的で人付き合いが上手い。
すぐにでも友人を作るし、詩葉を嫌いという人は、滅多にいないほどだ。
まぁそれでも人間なので、詩葉を気に食わないという人はいるから完全無欠とは言わないが。
「……レンはさっきから何読んでる?」
「ん? あぁこれか。さっきトクダネが売ってた雑誌でな。サークルで作ったらしいが、意外に中身が面白くてな」
僕達の会話を他所に、レンは食事を口に運びながらペラペラと雑誌を捲っている。
実は少し気になっていたようで、トクダネの雑誌を買っていたのだ。
「何が書いてたりするの?」
「内容はかなり豊富だな。『楽単はこれを取れ、俺はこうして卒業した』、『独占インタビュー、学生課受付の日々の苦悩』、『篠崎学部長のお勧め夜の店』だとかだな」
川崎教授のゴシップネタだけじゃなく、結構色々なトピックがあるんだなぁ。
それにしても篠崎学部長は何をお勧めしてるんだ。あの人確か、もう還暦超えてるだろ。それなのに通ってるって言うのか?
「お、これなんか特に面白そうじゃねぇか。『学生イケメン美女番付〜新入生更新版〜』」
「へぇーそんなのやってんだ。ちょっと面白そうだな」
みんなにその記事が見えるようにと、レンは机に雑誌を広げた。
もちろん、イケメン番付のページは破り捨てて。
「ふーん、やっぱ俺らが知らないだけで、大学内には結構美女いんだな〜」
「うん。知らない人多いね」
中学や高校とは違って大学は学生数がとんでもない。
もしかしたら在学中に顔も合わせず、名前もロクに知らない人もいるかもしれない。
それにしても……ここに載ってる人、みんな可愛いなぁ。
「……色んな異名ついてる。"その乳房を見てしまったら最後もう既にこの子の虜に"『
「これもすげぇな。"日本男児よ! これが世界だ! ギリシャからの刺客に心を留学させられないように気をつけろ"『
「こんなんもあるのかよ。"ビッチと分かっていても抱きたい女。私の手にかかればヤクよりも興奮させてみせる"『
「……全部アーティスト名に
ここまでアーティスト名をもじっているのはいかがなものか。そのうち週刊BUN秋、訴えられそうだな。
「というか勝手にこんな異名付けていいのかな? 人によってはビッチと言われてるんだよ」
「米印で書いてあるぞ。これらの内容は全て本人様に了承をいただいております……って」
「じゃあいいのか」
凄いな、全部了承貰ってるなんて。
もはやビッチとまで言うのを許してる葉渡さんは何者なんだよ。
「そういや思ったが、この番付、詩葉載ってないんだな」
「な、なんですと!?」
僕は急いで雑誌を取り上げて、記事の内容をくまなく目に焼き付けた。
番付にはもちろん、今年僕らと同じく入った一年生の特集もあったり、記事が書かれているがレンの言う通り詩葉の情報が一切ないのだ。
「お、おかしい。記者の目は狂ったのか?」
あんな絶世の美女を載せないなんてBUN秋の記者どもは何してるんだ!
取材しすぎて視力落ちたとか?
そうだ、そうに違いない。
「単純にここに載ってるヤツらの方がかわいく見えたとか?」
「……詩葉の実力がともわなかった」
「ミンチにして豚の餌にするぞ? クソ野郎どもが」
全く、寝言も寝て言って欲しいものだ。
詩葉がこの女性達に並ばず劣らずなのは、ここにいる者なら誰もが分かっているのに。
むしろこの人らより断トツ可愛いだろ。
しかし、実に謎だ。当然取材されてもいいはずなのに。
詩葉ならなんか知ってるかな。一応、聞いとくか。
「まぁ落ち着け。詩葉は編入生だろ? だから単にこの番付を作っている最中にまだ大学にいなかっただけなんじゃないのか?」
「あぁなるほど」
レンの説が正しそうだ。
詩葉は編入生……だから調査時期にはこの大学に在学してないからこの記事には載っていない。あり得る話だ。
僕が納得していると、先ほど僕が聞いた『週刊BUN秋って知ってる?』という質問の返事が詩葉から来た。
その内容は……あぁなるほど。そういう事ね。
「あー レンのはちょっと違うみたい。詩葉に取材は来たらしいよ……でも」
僕は返事が来たスマホの内容を三人に見せた。
「勝手に写真撮ろうとしたから不審者と思って、反射でカメラ壊して鳩尾に一発入れちゃった……か」
「……的確にブツを破壊、それでいて対象を無力化。スパイに向いてるな」
さすが格闘家の娘。武術も心得ているとは。
なんだかんだで、これは記者が悪いのだろう。ウチの女神の了承を取らずに写真撮ろうとしたのだから。
まぁ、詩葉のあまりの可愛さに了承を待たずしてすぐにカメラに写した記者の気持ちは分かるかな。
綺麗な人への耐性ないと詩葉を初見で見たら誰もが正気でいれなくなるし。
「あぁ、ここに補足で取材陣のコメントが書いてあるな。『ーーまた取材陣の一人が不慮の事故によって、父親のカメラを粉砕。それが父親にバレて、一時的な勘当となりました。ご冥福をお祈りします』だってよ」
「それじゃ詩葉ちゃんも載る予定だったわけだ」
「あったりまえだろ? 詩葉を美女としない世界線があるわけないんだから」
そんなのあったら僕が壊してやる。
「ふーん。トクダネも面白い事してんだなぁ」
「そうだ、サークルといえば、ホイミとクドウはサークル入ってたよな」
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