第13話 アリスの二つ名
「おい、
「逃げろ、目を付けられたら終わりだ!」
「アリスちゃんは今日も可愛らしいわね……」
「……おい、ちょっと待てあいつ誰だ!? アリスちゃんと並んで歩いてやがるぞ!」
「そんな……!? 俺たちの姫が!」
……アリスと並んで町を歩いている間、何やら周りがやけに騒がしくなっていた。
どうやらアリスはこの町ではかなり有名人なようで、その隣にいる愛斗も一緒に注目されて少し気まずくなりながらアリスの行きつけだという店へと向かっていた。
町の人たちは、アリスを見て笑顔になっている人もいれば顔を引きつらせてどこかへ逃げていくもの、そしてまるでアイドルかのように見て隣の愛斗に殺意を飛ばしてくるものもいた。
地球にいた頃からここまで人から注目を浴びて過ごしてきたことが無かったため、どうしたらいいのか分からずに唯一頼れるアリスに助けを求めようと近付くと飛んでくる殺意が増え、かといって離れるのはこの状況の中で離れたらどうなるか分からないので出来ず、右往左往しているうちに、ようやくアリスが一件の店へと入って行った。
「あら、アリスちゃんいらっしゃい。今日は珍しく一人じゃないのね?」
「……弟子のアイト。……しばらくは一緒に行動すると思う」
「なるほどなるほど、分かったわ。後は任せておきなさい。……いつもの席でいいのよね?」
店員と思しき人と少し話すと、アリスは店の奥の個室へと歩き出した。
そして、一つの部屋の前で止まると仕切りになっている扉を開いて入って行った。
愛斗も続いて入ると、アリスが先ほどの店員に一言二言話すと、店員は扉を閉めて行った。
「……この店は全て個室になっているから、静かに食事をしたい時に来るといい」
愛斗も座って一息つくとアリスがそう言った。
店を教えてくれているのだと把握した愛斗はお礼を言いつつ、気になっていたことを聞くことにした。
「ところで、眠り姫ってなんですか? 道中、アリスさんを見てそういう人たちがいたんですけど」
道中、確かにアリスのことを見てそう口にする人々を見ていたので、実はずっと気になってはいたのだが、ここに来るまではそんな余裕もなく聞けなかった。
しかし、店内に入って落ち着くことが出来たので、聞いてみることにしたのだ。
「…………二つ名。……冒険者の中には通称として二つ名を持つことがある」
すると、とても嫌そうな顔をしながらも一応教えてくれた。
「へぇ! やっぱりアリスさんは凄いんですね! それで、なんで眠り姫なんですか?」
自分の師匠が二つ名を持つほどに凄い冒険者だという事に興奮して、愛斗は名前の由来を聞くと、先程以上に嫌な顔をして口を閉じてしまった。
「それはね、アリスちゃんの戦いがとても静かで、そして決着がとても速いから眠らせてるようにしか見えないから、そしてお姫様みたいに可愛いからよ」
「……何で言うの」
「どうせバレるんだし、いいじゃない。それとも自分の口から言いたかったかしら? 武勇伝みたいに」
扉を開いて話に参加してきた店員さんに渋い顔をしながらも言い返せずにアリスが黙ってしまうと、カラカラと笑いながら手に持っていた食事を机の上に置いた。
「お待たせ、こっちはアイトくんのね。……それと、眠らせ姫じゃないのはアリスちゃん自身がよく寝る子だからってのもあるのよ」
「……アンナ!?」
「ふふ、これ以上言うと怒られちゃいそうだし、私は退散するわね」
いうだけ言ってアンナと呼ばれた店員さんはさっさと出て行ってしまった。
残されたのは、呆気にとられた愛斗と、眠り姫について知られてしまって恥ずかしかったのか、少し顔を赤くして顔を背けているアリスだけだった。
「えっと、とりあえず食べましょうか?」
「……うん」
ひとまず、恥ずかしそうにしているのだからこれ以上触れないようにして、食事を食べることにした。
「美味しかったです!」
「……それなら良かった。……じゃあ、帰るよ」
食事を食べ終わってすぐ、アリスは店から出ようとしていた。
「え、代金とかっていいんですか?」
そう声を掛けたのだが、アリスは既に店から出てしまっていた。
「アリスちゃんはいいのよ。ここで出してる食材とかほとんどアリスちゃんに持って来てもらってるから、タダで食べてってもいいように契約してあるから」
呆然としていた愛斗に声を掛けてきたのは、アンナだった。
「アイトくんも、アリスちゃんと一緒の時は払わなくていいわよ。お金も無いでしょうしね」
「そうなんですか、分かりました。あ、ご飯美味しかったです! ありがとうございました!」
ひとまずは代金については気にしなくて良さそうだと安心した愛斗は、もうだいぶ歩いて行ってしまったアリスを追いかけるために、お礼を言うと走り出すのだった。
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