第6話  冒険者と言えば、やっぱり宴!

「ふわぁ……ここは……?」


 目が覚めるとそこは知らない光景だった。

 そんなボケたことを考えていると、頭の方向から声が聞こえて来た。


「愛斗さん、目が覚めましたか?」


 声を掛けられて愛斗はようやく頭がぼんやりしていたのが冴えてきた。

 そして跳ねるように飛び起きると、声のした方を振り向いた。

 そこには、リックとマリー、ゴンツはいつの間にか帰ってしまっていたようで姿が無かったが、二人は目を覚ました愛斗を心配していた。


「はい、起きました! えっと、どれぐらい寝てましたか……?」


 長時間二人を拘束してしまっていたらそれは申し訳ないと思って少し控えめに聞いてみると、実際にはそこまで時間が経っていないようで、数分程度気を失っていた程度のものだったらしい。


「ひとまず、身体は大丈夫そうですので、結果を教えておきますね。基準としては十段階で表しているのですが、身体能力については1なら子供程度、2なら力仕事をしているわけではない成人女性程度、3なら同じく成人男性程度です。6以上になってくると、力ならば素手で岩を砕き、速さなら目にも止まらぬ速さ、持久力なら全力で動き続けても半日程度は余裕で過ごせるようなレベルです。魔力量、魔門については、平均は4程度、魔門については8ならば最高峰の魔法を使用することが出来ます。それでは、結果はこちらにまとめてあるので、是非ご覧になってみてください」


 目を覚ましてすぐに説明をされたが、自分のことだからと何とか理解できるよう頑張り、そしてリックから一枚の紙を渡された。


 結果は……


 力…4

 速さ…5

 持久力…4

 魔力量…5

 魔門…測定不可


 となっていた。


「えっと……基準がしっかりとは分からないんですけど、普通の人よりは強いぐらい? ぐらいですかね? それと、魔門の測定不可って何でですか?」


 結果を見ても、しっかりとは自分の能力を判断できなかったので、とりあえず目の前にいる二人に聞いてみることにした。

 すると、そういった説明事項などは全てリックが教えてくれるのか、すぐに教えてくれた。


「まず、身体能力については一般の、戦いを生業にするものよりは強いと言えるでしょう。しかし、そこまで強いわけでもないので、一般人よりは強いけど、もっと強い人はいくらでもいる、といったところでしょうか。速さに関しては5となっていますが、力や持久力もあと少しで5になるようなレベルではありますので、そこまで数字が違う、とは思わない方がいいです。そして、魔力量に関しては平均とほとんど同じ程度です。毛が生えた程度には勝るかな、といったところですね。最後に魔門についてですが……これに関しては、今の基準では測定できませんでした。あまりにも大きすぎたのです。詳しく測定しようとしても、魔門が大きすぎて、最大威力で魔法を放つと愛斗さん自身の魔力を全て吐き出してしまうことになって、それ以上に大きいのか、もしくはそこが限界なのかを判断できず、測定は不可能だという事になりました。現在の魔門最大と言われる記録をおそらく塗り替えることになるでしょうので、10は超えている、と考えていただいて結構です。……ただ、これは注意して欲しいのですが、愛斗さん、貴方は魔門が極大です。なので、おそらく適正次第ではどのような魔法でも使えるようになるでしょう。しかし、魔力量自体が多くないので、極大魔法を使ってしまうと、その後は動くことで精いっぱいといったことになると思います。なので、ここぞといった時以外はあまりに高威力な魔法は使わないようにした方がいいと思われます。それと、どの程度魔力を込めるのか、といったことを自由に出来るようになるまでは、魔法はあまり使わないことが賢明です。……貴方にも周りにも甚大な被害が出かねませんので」


 リックに自分の結果について教えてもらいながら、愛斗は少し残念に思っていた。

 チートは無理だとフローリア様に言われてはいたものの、やはり期待はしてしまうのだ、それに魔門が極大と言われて興奮しかけていたが……結果は、魔門がデカくても魔力量が少ないせいでそれほど強くはないということだった。

 一度期待を持ってしまっただけあって、その落差から愛斗は落ち込みかけていた。


(……まあ、他の勇者たちとは戦わずに過ごせばいっか)


 しかし、そもそもの愛斗の目的は力を見せつけることではない、女神フローリアと付き合う事なのだ。

 それならば、別にチートが出来なくてもいいか、と開き直るとそれほど落ち込まずにリックの説明を受け入れていた。

 それに、一度だけなら高威力の魔法を使えるだろうという事もあり、そこまで落ち込むことは無かった。



「さて、それでは愛斗さんが眠っている間に冒険者の証を準備しておきましたので、お受け取り下さい。こちらは、依頼を受注、完了手続きをする際に必要ですので、紛失、破損しないように気を付けてください。……それでは、これで貴方も冒険者です。明るい未来のために頑張って生きて下さい」


 リックから冒険者の証を受け取ると、ようやくこれで冒険者なんだ、と実感が湧いてきて、気付いたらガッツポーズをしていた。

 傍にいたマリーとリックに温かい目で見られて恥ずかしくなったので、すぐに腕は下ろしてしまったが、ドクドクと鼓動する心臓は未だ抑えられそうになかった。



「では、冒険者ギルドに戻りましょうか。今なら先輩の冒険者もたくさんいると思いますよ?」


 これで冒険者になったのだが、今日はもういつの間にか日も沈み始めているし、このまま宿を探さなければな、と思っていたところで、マリーがそう口を開いた。

 そこでようやく、冒険者ギルドの建物の中にたくさんいた、冒険者らしき人々を思い出した。

 そして、今度は別の意味で胸がドキドキし始めた。

 もしかしたら、さっきは無かったけれども冒険者ギルドでのお約束、が見れるかもしれないと思ってしまったのだ。

 そんなことで、前を歩くマリーとリックの後ろについて、冒険者ギルドへと歩いて行った。


 そしてついに、冒険者ギルドへと戻って来た愛斗は、ワクワクしながら扉に手をかけ、力を込めて扉を開いた。


 パパパン!


 いきなり冒険者ギルドの中の至る所で響き渡った花火のような魔法の光や音に愛斗は呆然としてしまった。


「……え?」


「「「「冒険者ギルドへようこそ、若き少年よ! 冒険者たるもの大志を抱け! そして今夜は宴だぁ!!」」」」


「……は?」


 中に入って待っていたのは、テンプレのような新人いびりやといったモノではなく、誰もが笑顔で愛斗を迎える歓迎モードだった。


「冒険者一日目、おめでとう愛斗。この世界で冒険者ってのは、夢を見ることが出来る仕事だが、その分危険も多い。だから、新しく冒険者となった相手に対して、最初の日にはそのギルドにいた全員で、全力で祝うのが通例なんだ。そして、宴になるまでがお約束だ」


 いつの間にかいなくなってたと思っていたゴンツは、冒険者ギルドへと戻って宴の準備をしていたらしく、そして既に飲んでいるのか顔が赤くなっていた。


「今日の主役がお通りだ! おら、道を開けろ!」


 そしてゴンツが大声を出すと、周りの冒険者たちも元気に叫んで愛斗の座る場所を開けてくれた。

 開いた席に座ると、その後はもうお祭り騒ぎとなった。


「よし、それじゃあこれが愛斗の分の酒だ!」


 ゴンツにそう言って差し出された酒を持ちながらも、愛斗は口を開いた。


「え、いやでも、俺まだ酒飲んだことないですよ? こっちの世界では何歳から飲んでもいいんですか?」


 地球では一応は未成年だったので、これまで飲んだことが無く、飲むのを躊躇していたが、すぐにゴンツに手に持たされた。


「特に酒を飲んじゃいけないなんてないから、子供でも飲んでいいが、慣習としては大体十五歳で仕事をするようになるから、そこで飲むようになる奴が多いな。お前さんはみたとこ既に超えてるだろ? だから、大丈夫だ!」


 そう言われては愛斗も覚悟を決めて飲むことに決めた。


 そしてそれから日が沈むまで、沈んでからもずっと冒険者ギルドの中ではワイワイガヤガヤと騒ぐ声が絶えることは無かった。



 ※未成年の飲酒を勧めるものではありません。

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