第18話 オークと愛斗、ついでにスライム
翌日、愛斗はついに一人で森の中に入っていた。
かれこれ朝に森に入ってから二時間ほど、その間ずっとオークを探し続けているのだが、未だに遭遇することは無く、見つけたのはゴブリンと、二足歩行の犬、それとイノシシや猿、熊といった獣ばかりだった。
今回は目的がオークだという事で、今のところは相手から見つかる前に逃げているので戦闘にはなってはいないのだが、ずっと気を張っているので流石に疲れていていた。
それに、そろそろ時間的にも昼に差し掛かろうというところだったので、一度空腹を満たそうと小川を探し始めた。
しかし、小川を見つけたところで、愛斗の脚は止まっていた。
なぜならそこにオークがいたのだ。しかし、
「……何やってるんだ?」
そこにいたオークは、手に持った大きな棍棒を何度も何度も、気持ちの悪い笑顔で地面に向かって叩きつけていたのだ。
とりあえず何をしているのか確認しようと目を凝らすと、オークの振り下ろされる棍棒の先には半透明な、ゼリー状の何かがいた。
「えっと、あれはスライム、だよな? オークがスライムをいじめてる、ってことでいいのか?」
オークは、ニヤニヤとした顔で、愛斗の存在にも気付いた様子は無く目の前のスライムを叩きつけたりして遊んでいた。
ひとまず、何故あんなことをしているのかは置いておいて、今ならこちらに気付かれていない状態なので奇襲が出来ると判断し、ゆっくりと音を立てないようにオークの背後から近づいて行った。
近付いてくるにつれてはっきりと見えて来たオークは、165センチの愛斗よりも頭一つ分程度大きく、足は短いが身体は分厚い肉に覆われていて、愛斗の力では一撃で絶命させられるかは自信が無かった。
なので、ひとまず一撃必殺は諦めて、その後の戦闘で有利になるよう足の腱を攻撃しようとしたその時だった。
「ピキィィィ!」
オークには気付かれていなかった愛斗だったが、スライムには気付かれてしまい、オークの正面から滑るような動きで愛斗の元へと転がり込んできてしまった。
それに伴い、オークもスライムの動きを追って、あと数歩で間合いというところまで近づいていた愛斗に気が付いてしまった。
愛斗とオークの目と目が合う。
時が止まったかのような感覚に襲われる。
「ブヒィィィ!」
「だぁぁぁ! ちくしょぉぉお!」
動いたのは同時だった。
オークが手に持っていた棍棒を振り上げると同時に、愛斗も叫びながら大きく後退すると、一瞬前まで愛斗のいた場所へとオークの持つ棍棒が振り下ろされた。
地面が十センチほど抉れているのを見て、身体にくらったらと恐ろしい気持ちになりながらも、愛斗は手に持っていた剣を構えると、オークの背面に回りこもうと走り出した。
オークはあまり動きが素早くないのかゆっくりと振り向こうとするが、身体を魔法で強化して動いている愛斗の方が早く背面に回り込むと、背中を剣で切り裂いた。
「浅い、か」
肉厚な身体だけあって、身体の内部までは刃が入らず、表面の皮を少し切り裂いただけに留まっていた。
しかも、血を流したことで怒ったのか棍棒を振り回しながら愛斗に向かって突進してきた。
愛斗はそれを横っ飛びして避けながら足元に転がっている小石をいくつか掴むと、愛斗へと振り向いたオークの顔に向けて投げつけた。
オークは反応しきれず、飛んできた小石が上手く目に当たったのか棍棒を持たない手で目を抑えて少し屈んだ。
愛斗はそれを見逃さず、一息に近付くと胸の中央辺りに向かって剣を垂直に持ち、勢いのまま突き刺した。
「ブガァァァア!?」
痛みに驚いたのか暴れるオークに、かなり深くまで突き刺さっていたのか、握っていた愛斗は振り回されそうになったので、手放すとオークから離れた。
目の痛みが治まったのかオークは顔から手を離すと、自分の胸に刺さっている剣を引き抜いた。
まだ動けるのか、と嫌な気持ちになりながらもオークを観察すると明らかにそれまでより動きが緩慢になっており、胸の傷からもドクドクと流れる血を見て、時間の問題だと判断した。
しかし、憎悪に満ちた顔でこちらを見てくるオークに、まだ油断は出来ないと思いながらすぐに動けるように構えた。
とはいえ、愛斗は自分の剣は今オークが持っているので丸腰なのに対して、オークはもともと持っていた棍棒と愛斗の剣をそれぞれの手に持っており、かなり厳しそうな状況だったので、逃げに徹するのだった。
それから数分後、ようやく力尽きたのか、前傾姿勢のままオークはグラァと倒れ始めた。
しかし、倒れる時に持っていた剣を下敷きにする状態で倒れてきたせいなのか、オークが倒れると同時にバキッという音が響いた。
「……えっ? ちょっと待って、今の音って……」
嫌な予感に背中を冷たい汗が落ちていくのを感じながら、愛斗はオークに近付くと、死んでいることを確認して下敷きになっている剣を引っこ抜いた。
すると、予想以上に軽い手ごたえで引き抜けたかと思うと、そこには刃が半分程度の場所で折れた、剣の成れの果てがそこにあるのだった。
「ああああ……嫌な予感はしてたけど、まじかぁ……」
折角の自分の武器が、こうも早く壊れてしまったことに悲しくなりながらも、町に帰るためにオークの解体を始めるのだった。
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