第19話 Ⅾランクになり、第一章も終わるます
「ただいま戻りました」
「……おかえり。……無事で良かった」
オークを倒した愛斗はそれから一時間程度が経過したところで町に帰りついていた。
愛斗を待っていてくれたのか、門の前にはアリスが立っていて、愛斗が帰ってきたのを見るといつもの無表情から少しふわっと表情を緩めた。
始めて見る表情に少しドキッとしながらも、愛斗とアリスは冒険者ギルドに向かおうとして、アリスが何かに気が付いたのか足を止めた。
「……そのスライムは、何?」
「やっぱり、気になりますよね……」
そう、アリスも気が付いたように、愛斗の背負っているオークの素材、その上には何故か、オークにいじめられていたスライムが乗っていたのだ。
オークを倒した後、すぐに解体作業に入ろうとした愛斗だったが、その直前にそれまでは少し離れたところでプルプルしていたスライムが近付いてきて、まるで犬のように愛斗の足にすり寄ってきていたのだ。
「……えっと、どうしたの? 君は別に倒そうと思っていないし、もうどこか行ってもいいんだよ?」
特にスライムまで討伐しようとは思っていなかったので、どこかへ行っていいと伝えたりしたのだが、スライムは愛斗を気に入ったのか、追い払おうとしても愛斗についてこようとしたので、諦めてひとまずアリスにどうしたらいいのか聞いてから判断しようと思い、町まで連れて来たのだ。
なので、アリスが門の前で待っていたのは実は好都合で、町に入る前に話を出来るのは、愛斗にとってもありがたかった。
「……一応、稀にだけど、魔物や獣に好かれて、一緒に行動する人もいなくはないから、ギルドでペット登録、スライムは魔物だから従魔登録すれば町中に連れて行くことは出来るけど……スライムは基本的に弱いから、戦いの役には立たないよ?」
「なるほど、戦うのは自分でやりますし、特に問題は無さそうですね。……それに、こいつ何でも食べるのか、オークの解体が終わった後の残骸を溶かしてくれたので、そう言う意味でなら助かりますし、ギルドで登録します」
「……君がそれでいいなら、別にいいけど」
アリスも愛斗のことを否定することなく、そのまま冒険者ギルドへと歩いて行くのだった。
「……はい、それではこちらがⅮランクの冒険者の証です。アイトさん、Ⅾランクおめでとうございます。これからも頑張ってくださいね」
ギルドでオークの素材を買い取ってもらい、その間にマリーが愛斗の冒険者の証を更新してくれて、ようやくⅮランクになることが出来た。
……ちなみに、スラミー、愛斗の連れて来たスライムの名前、を従魔登録する際に、門の前でアリスとしたようなやり取りをもう一度することになったが、それは割愛する。
とにかく、オーク素材の代金と、新しい冒険者の証を手に、ギルド併設の酒場で愛斗を待っていたアリスの元へと小走りで向かっていった。
「アリスさん、ついに、Ⅾランクです! ご指導、ありがとうございました!」
「……うん、これからも死なないように頑張って」
興奮で大きな声が出てしまったが、いつも通りのテンションでアリスなりに祝ってもらえて、愛斗も嬉しくなっていた。
席について、自分の食事を頼んで少し冷静になったところで、ようやくアリスの傍にある、布で覆われた何かに気が付いた。
「あれ、アリスさんさっきまでそんなもの持ってましたっけ? 新しい武器か何かですか?」
気が付いた以上、気になってしまったので、愛斗は聞いてみることにした。
すると、予想外の答えが返ってくることになるのだった。
「……新しい武器なのは正解、だけどこれは君の」
「……え? いや、でもそんなの悪いですよ! それに、今の武器……は壊れちゃいましたけど、オークの素材の代金ありますし、自分で買いますよ!」
「……そんなことしなくていい。……これは、師匠としての最後に渡す、卒業の証みたいなもの。……私もそうしてもらってきたし、私の師匠も皆貰ってる。……だから、気にしなくていい。……それに、私から見た感じでだけど、君が使いやすいように作ってもらったから、受け取ってもらわないと私も困る」
「……分かりました、それじゃあ、ありがたく受け取らせてもらいます。……開けてみてもいいですか?」
そうしてアリスから受け取ってみると、プレゼントを貰った子供のように開けて見たくてうずうずしてきてしまった。
アリスも焦らすつもりは無かったようで、愛斗に頷いて見せたので、覆っていた布をゆっくり剥がすと、そこには鞘に納められた一本の細身の剣が入っていた。
「……その剣の銘は、スズメバチ。……君は力があまりないから、出来るだけ軽く、そのうえで出来るだけ威力が出せるように、重心が切っ先に偏っているから、このサイズの剣にしてはそれなりに威力が出せるはず。……けど、軽い分弱いから、無理な力を掛けるとすぐに折れちゃうから、気を付けて」
「おお……カッコイイ……! ありがとうございます!」
「……うん、使い心地を確かめてから使うようにしてね」
そうして、嬉しいプレゼントも貰いながら、愛斗は新しい冒険者としての人生を歩き始めるのだった。
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