第17話 オーク狩り準備日

 ガンツとフローリアに慰められてから数日経った。

 愛斗は、それまで以上に真面目に、生きるために訓練に取り組んだ。

 意識が変わったおかげなのか、それとも何かが吹っ切れたのか、アリスから見てもかなりの変化を見せていた。

 もちろん、すぐに強くなった、というわけでは無いのだが、それでもそれまでのようにどこかがむしゃらというか、ただ突っ込んでいくだけでなく、冷静に相手を見極めた上で行動するようになっていた。


 実際、以前のようにゴブリンに急襲されることは無くなり、今もあの時よりも数の多い、十一体のゴブリンと対峙しながら、足を使って動き回ることで囲まれないように、そして同時に複数のゴブリンと戦わないように立ち回っていた。

 そして、隙が出来るとすぐに攻撃に移り、時間はかかっているものの傷を負うことなく既に半数のゴブリンを物言わぬ骸へと変えていた。


 それからしばらく後、最後の一体にとどめを刺したところで、離れて様子を伺っていたアリスはゆっくりと近づいてきた。

 動き回っていたことで乱れた息を整えながらも、他にいないか周囲を確認しながらアリスがこちらまで来るのを愛斗は待った。


「……うん、合格。……時間はかかったけど、無傷で倒しきれたのは良い。……終わってからも周囲の警戒もしっかりしてる。……ひとまず、角だけ取って燃やそうか」


 魔物の中にも食用になっているものもいるが、ゴブリンは臭みが強く、人間にとっては喰えたものでは無いのだが、雑食の獣や魔物は気にせず食べるので、そう言った獣たちをおびき寄せないためにも残った部位は燃やすなり埋めるなりすることがマナーとなっていた。

 角だけは魔道具の素材や触媒になるので回収して持っていくが、ゴブリンの他の素材は大した強度も無いので、その場で全て燃やすのだった。


「……じゃあ、今日はこれでおしまい、帰ろう」


「はい」



 町に帰って来て、ギルドで角を換金してもらい、別で受けていた薬草の採取依頼を達成報告を済ますと、今日は冒険者ギルドに併設された酒場で夕食を食べていた。


「……採取依頼もこなせるようになった、ゴブリンも倒せるようになったから、あとはⅮランクに上がれたら、この関係も終わりだね」


「あ、師弟制度ってそうなってるんですね。寂しくなるなぁ……」


「……別に、全くの他人になるわけじゃないし、何かあったら話位聞く。……それで、話を戻すけど、Ⅾランクに上がるには、ある程度様々な種類の依頼をこなせるようになって、Ⅾランクに相応しい実力があると示せたらなれる。……依頼に関しては、これまで十分やってきてるから、問題ない。……それで、実力に関しては一人でオークを倒せるようになれれば、つまりオークの討伐証明部位を提出したら認められる。……そう言う事で、明日はひとまず休みにして、明後日には一人でオーク狩りに行ってもらう。……出来たら卒業、頑張って」


「分かりました、頑張ります!」


 と、いう事で、冒険者になってから初めて、愛斗は一人で行動することになった。



 翌日、愛斗は町を歩いてオーク討伐に必要そうなものを見繕っていた。


「携帯食料と水、油、他には……」


 とりあえず自分で何が必要か考えて買ってみて、後でアリスに足りないものを聞きに行こうと考えながらあちこちの店を出入りしていた。


「兄ちゃん、何かお探しかい? 見たとこ冒険者だな、見たことない顔だし、新人さんかい?」


 すると、道具屋のカウンターにいたおじさんが声を掛けて来た。

 周囲に誰もいないことを確認した愛斗は、自分に話しかけられていると判断して、内を開いた。


「えっと、そうなんです。明日、オークを狩りに行くので、必要そうなものを考えていました」


「お! ってことはついにⅮランクに挑戦か! それなら、回復薬は準備した方がいいな、ほら!」


 そう言っておじさんが手渡してきたのは、瓶に入った緑色の液体と、タバコのようなものだった。


「えっと……回復薬?」


 瓶の方は何となく分かるが、見た目にはタバコにしか見えないそれを疑問に思っていると、おじさんが説明してくれた。


「こっちの瓶の方は、効果は強いんだが、聞いてくるのにちょいと時間がかかるんだよ。けど、こっちの奴は火をつけて煙を吸い込むと、液体の奴よりは効果が弱ぇが、すぐに傷が治るんだよ! まあ、液体でも速攻で効いてくるやつもあるんだが、魔法で作ってるから高いし、今はこっちでいいと思うぞ。ただ、これ、シガーっつうんだが、勢い良く吸うとむせるから、戦闘中に使うなら気ぃ付けて使えよ?」


「なるほど……おじさん、ありがとうございます!」


「おう! まだまだこれからなんだから、頑張ってくれよ!」


 愛斗は、自分で選んでいたものに加えて、二種の回復薬を買うと、宿へと帰るのだった。



 宿に帰って、アリスからアドバイスをもらいながら明日の準備をすると、明日に備えて愛斗は眠りにつくのだった。

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