第21話 オーガは強いです、鬼なので(本当に)

 アリスとの訓練の際、愛斗は魔法を使うことが下手だと判明していた。

 それは魔法を使えないというわけでは無いのだが、出力の調整があまりにも不安定で、ゼロか百ならば安定して使えるのだが、愛斗の場合、百の威力で魔法を使うと魔力がすっからかんになってしまうので、出来ることなら魔法を使いたくなかった。

 ちなみに、しばらく時間をかけることで半分程度に出力を抑えたりは出来るのだが、戦闘中にそれが簡単に出来るほど愛斗は器用では無かった。


「……うん、君は魔法はしばらく使わない方がいいね。……あまりにも不安定すぎる、使おうとしている時間の方が危険なぐらい。……どうしても、っていう時に全力で使うぐらいなら大丈夫だと思うけど」




 訓練の際にアリスに告げられた言葉を思い出しながら、木の陰で愛斗は、スズメバチを構えた。


 今こそ、魔法を使うべきときだろう、目の前には魔物が、それも愛斗が一人では到底倒せないだろう相手、逃げようにも既にかなり接近していて、もう逃げられない。

 そう判断して、魔法を使うために集中し始めた。

 オーガは硬質な筋肉で覆われているため、物理的にも防御力が高いが、それ以上に、その身に内包する、多くの魔力の影響で魔法に対する抵抗力もかなり強いのだ。

 なので、魔法を直接ぶつけるのではなく、身体を思い切り強化して、一刀のもとに倒しきることにした。

 最悪、倒しきれなかったとしてもかなりの威力となるはずで、当たればオーガとはいえ重傷を負うだろう。

 そうなれば、そのまま逃げてくれると判断し、とはいえ倒しきれるようにタイミングを計り始めた。


 目で見ようにもそもそも気の陰に隠れているのだから何も見えない。

 ならばといっそのこと目を閉じて足音と呼吸音を聞いた。


 足音が近づいてくる、距離的にもう十メートルも無いだろうか。

 まだ、まだだ。

 ギリギリまで引き付けてからでないと、オーガにも気取られる。


 少女がついに、愛斗の隠れている木の傍までやって来た。

 目を瞑ったままの愛斗を見て、一瞬足が止まったものの、背後から迫ってきているオーガから逃げるように再び走り始めた。


 あと二歩。

 スズメバチを構えなおす。

 ようやく目を開いた。


 あと一歩。

 息を止める。


 そしてついにオーガも残りの一歩を踏み出してきた、と同時に愛斗も木の陰から姿を出すと、身体を捻る様にしながらスズメバチを思い切り振りかぶった。

 同時に、自分の出来る最高強度で身体を強化する。

 急激に身体が軽くなり、力が漲ってくるが、瞬間的に大量の魔力を放出したせいか虚脱感に襲われ始めるが、歯を食いしばってスズメバチを振りぬいた。


 ザンッ


 横薙ぎに一閃した、愛斗の渾身の一撃は、走ってきた勢いで止まれなかったオーガを腹部で上下に真っ二つに裂き、オーガだけに留まらず先ほどまで隠れていた木の中ほどまで切り裂いていた。


 その光景を、いつの間にか後ろを向いていて見ていた少女は、ようやく一安心出来たのか腰が抜けたかのように座り込んでしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ありがとう、ございます……。助かった……」


 荒い息を吐きながら、感謝の言葉を伝える少女だったが、愛斗は剣を振り切った恰好から微動だにせず、未だにオーガを見つめていた。

 全く反応が無く、不思議に思った少女、そしてスラミーが怪訝そうに愛斗の様子を伺おうとしたその時だった。


 愛斗はいきなり傾いたかと思うと、そのまま倒れてしまった。


「え!? ちょっと、大丈夫!?」


 少女はなんとか身体に鞭を打って愛斗の傍まで近寄ると、愛斗は苦痛に喘いでいるのか顔を歪めて、そして近付いてようやく気付いたことだが、愛斗の身体の至る所から出血していた。


 このままにしておくのは流石に危ないと少女は判断し、スラミーも手伝いながら愛斗の応急処置をし始めるのだった。

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