第15話 初めて~の~ゴブ♪ 

 アリスと師弟関係になっておよそ一か月、愛斗はようやく冒険者らしく町から出て、初めての依頼をこなしていた。

 まだ一人で行っても何が何だか分からないので、アリスが傍で見守ってくれているが、一か月の訓練の間、一度も町を出ていなかった愛斗は緊張していた。

 訓練の間、つまり愛斗がこの町に入ってから一度も出ていない町の外は、これまで散々アリスから注意されてきたように魔物だったり獣だったりと危険が多いらしく、そして転移した直後は危険が排除されるように女神さまの力が働いていたようで、こうして改めて危険な世界へと飛び込むのはこれが初めてだった。


「……そんなに緊張しなくても大丈夫。……これまで十分訓練してきたんだから、油断さえしなければ死ぬことは無い、私もいるんだし」


 愛斗の緊張が伝わったのか、横にいたアリスが声を掛けて来た。

 アリスの言葉を聞き、緊張が無くなったわけではないが、それでもリラックスすることが出来た。


「……今日の目標は、周囲の警戒と、出来れば実際の戦闘経験を積むこと。……依頼は薬草の採取だから、最悪戦闘はしなくてもいいけど、周囲の警戒はするように」


 アリスに言われた通り、愛斗は周囲の警戒を怠らずに、事前に調べてきた薬草の群生地を探し始めた。

 薬草は、栄養豊富で水分にも富んでいる、木陰に多くあるらしいという事で、出来るだけ木が多く生えていて暗くなっている場所を探しに移動し始めた。



 少しして、探していた通りの条件の整った場所へと来ていた。

 そして、そこには依頼の品である、薬草がたくさん生えていた。


 早速、依頼されていた数の薬草を採取しようと屈んだところで、アリスに襟首を掴んで止められた。

 そしてそのすぐあと、そのまま行けば愛斗の頭があったであろう場所を、一本の矢が通り過ぎて行った。


「……薬草を見つけたあたりから周囲の警戒が疎かになってた。……そういう隙は狙われやすいから、採取の時でも気を緩めちゃダメ」


 まだバクバク言っている心臓を落ち着かせながら、愛斗は改めて周囲を見ると、いつの間にか至る所に汚い緑色の、腰布を一枚巻き付けている小さな子供ぐらいの大きさの何かがいるのに気が付いた。


「……あれがゴブリン。……力は弱いけど、狡猾で、連携してくるから、気を付けて」


 ゴブリンは、人数で勝っているから勝てると思ったのか、徐々に愛斗たちとの距離を詰め始めていた。

 愛斗を包囲していたゴブリンは、全部で9体で、棍棒を持つもの、石を持っているもの、そしてどこで拾ってきたのか弓矢やボロいながらも剣を持つ者もいた。


「……5体は倒してあげるから、残りの4体は頑張って倒してみて」


 アリスはそう言うと、愛斗の傍から姿を消したかと思うと、いつの間にか包囲を抜けた先の所へと現れていた。

 しかも、いつの間に攻撃したのか5体のゴブリンが首から血を流しながら倒れていた。

 残ったゴブリンたちはいきなり仲間が半分も消えたことに浮足立っていたが、すぐに標的を定めたのか一斉に愛斗に向かって走り出してきた。


 愛斗もアリスの動きに驚いていたが、ゴブリンたちが動き出したのに気が付いて、剣を構えた。

 こちらに走ってきているのは、剣を構えたゴブリンと、棍棒を持ったゴブリンで、もう二体はその後ろで石を持っていた。

 同時に二体のゴブリンと飛んでくる石まで対処するのは難しいと判断し、愛斗は自分から剣を持ったゴブリンへと走り出した。

 すると、ゴブリンも剣を振り上げて振り下ろしてきた。


 ひとまずこれを剣で受けて、蹴飛ばしてから石を持って待機しているゴブリンを先に倒しに行こうとプランを立てたところで、ゴブリンの剣が愛斗の持つ剣へとぶつかった。


「うわっ!?」


 そのままゴブリンを蹴飛ばそうとしていた愛斗だったが、棍棒を持っていたゴブリンが愛斗の顔面目掛けて砂を投げつけて来た。

 そちらに意識を割いていなかった愛斗は、反応しきれずに目に砂が思いっきり入ってきて、目を瞑ってしまった。

 ヤバイ、と思った次の瞬間には、頭に何かがぶつかって来た。

 頭に攻撃を喰らうのはまずいと思い、剣を右腕で持つと、左腕で顔を覆うようにした。


 急いで何度か瞬きして目を開くと、目の前には頭上から剣と、下から棍棒が襲い掛かってきていた。

 反射的に、向かってくる剣に自分の剣を合わせつつ、棍棒の衝撃に耐えるために歯を食いしばったところで、脇腹へとゴブリンの振るった棍棒がぶつかった。


「ごほっ!? うおぇぇ……」


 吐きそうになりながらも、剣を目の前のゴブリンに向けて振りぬくと、身体自体は弱いゴブリンは特に抵抗も出来ずに胴体から首が離れていった。

 その勢いのまま、棍棒を持ったゴブリンも屠ろうとした。


「っぐ、う、?」


 しかし、背後から飛んできた二つの石が愛斗の腰と後頭部に直撃して、愛斗は耐えきれずに前に倒れそうになった。


「……っと、大丈夫?」


 しかし、これまたいつの間にか愛斗のすぐ傍に来たのか、アリスが愛斗の身体を支えていた。

 その背後では、最初に死んでいったゴブリンたちと同じように、首から血を噴出させて倒れていくゴブリンたちの姿があった。


「……反省は後で。……今は傷を治すよ」


 そう言う事で、アリスに撫でられながらもアリスから流れ込んでくる温かい何かをゆっくりと嚙み締めるのだった。

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