第三章 新しい町、フォール

第29話 平和な旅路(今のところは……)

「ふぅ」


 目の前で倒れているゴブリンの群れを見ながら、少し乱れた息を整えるために愛斗は息を吐いた。

 背後に同じく少し息の荒くなっている一人の少女が立っているのを確認すると、手に持っていた自分の剣、スズメバチを鞘にしまった。


「なんだか、ゴブリン大量発生してるのか、ってぐらいゴブリンにばかり遭遇するね」


 背後に立っていた少女、練が愛斗に話しかけてくると、愛斗もその言葉に同意するかのように頷くと練の方を振り向いた。

 そちらは愛斗の見えていた光景、ゴブリンたちが倒れていることは変わりなかったが、愛斗の対応していた側ではゴブリン以外には特に何も無いのに対して、それぞれのゴブリンに対して一本、個体によっては何本も剣が突き刺さっていた。


「うわぁ、回収がまた面倒だな……」


「戦いならこうするのが一番早いから……」


 苦笑しながら言う練に、まだ疲れることがあるのか、と思いながらも後片付けをするために動き始めた。

 基本的には身体強化をして自らの武器と身体で戦う愛斗とは違い、練は鍛冶師としての力を発揮したのか、無数の自作の剣や矢を、魔法で操って殲滅する戦い方を主としていた。

 これは、鍛冶師として素材さえあればいくらでも武器を作れることもそうだが、練の魔法がかなり役に立っていた。

 練は、魔法で今いる空間とは別の、異空間とでも呼ぶべき空間を作り、そこにこれまで作った武器を収納して魔法で射出するのだ。

 もちろん、空間の維持にも魔力を使うので練ほどの魔力量が無いと出来ないことであるし、常に一定量の魔力を消費することになってしまっているが、殲滅力という点ではよほど愛斗よりも成果を上げていた。


 そこら中に刺さっている剣を抜いて練に渡し、ゴブリンを解体していらない部分は一か所に集めて、スライムのスラミーに餌として与えた。

 その場に残っていたゴブリンが全て消えたことを確認すると、荷物を持って移動し始めた。


「あとどれぐらいで目的の町に到着するの?」


 早朝から街道を歩いてきて、もう既に日は中天に上っている時間になっていたが、未だに二人は歩き続けていた。

 移動だけの時間に飽きてきているのか、練からそう聞かれて、愛斗は自分の調べて来た周辺の町についての情報を頭の中で整理すると、口を開いた。


「とりあえず、一番近い町までなら、このまま歩いて行ったら日が沈むころに到着できるかどうか、ってぐらいのはず。目的の町には、あと三日ぐらい、かな」


「うへぇ……。やっぱり遠いなぁ」


 率直にうんざりと言った様子を表す練に、愛斗も目的地までの遠さにうんざりしながらも苦笑していた。

 とはいえ、仕方ないと言ってしまえばそれまでの話で、どちらにしろ向かうしかないのだ。

 ちょくちょく行商人や冒険者から話を聞いていた感じ、今向かっている町に渡りモノがいるらしいという事が判明したのだ。

 それが勇者であるかはまだ分かってはいないものの、とりあえずは話を聞きに行くべきと判断して、最初の目的地はその渡りモノのいるという町にしていた。


「でも、必要なのは分かってるけど、こんな毎回毎回探しに行こうとしてたら大変だよね……。いっそどこかに拠点を置いて、ここにいるよ! って主張してたら向こうから来てくれないかな」


「それもいいかもしれないけど……警戒されてた場合とかはむしろ絶対来てくれなくなりそうだよね」


「ああ、そっか……。んー、どうしたら一番楽になるんだろうなぁ」


 足取りは緩めることなく、周囲も警戒はしながらも二人は色々と話し続けた。

 単調な道のりで、話でもしていないと暇すぎてしまったのだ。


 これからのことから、くだらないことまで話していると、二人の目にようやく、フーリの町ほどは大きくない、いや、素直に言ってしまうならば小さい、村と言ってもいい大きさの集落が目に入った。

 何とか日が沈み始める前に到着できたことに安心して、村に入ると、宿を探してその日は眠りにつくのだった。



 同日、同時刻、フーリの町、そして愛斗たちが向かっている町、フォールでは、ほぼ同時に慌ただしくなっていたが、既にフーリの町を発ち、まだフォールの町には到着していない愛斗たちには知る由も無かった。

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