第28話 勇者が集まるとそれはもはや災害

 翌日から、愛斗と練はこれまでに世話になった人々へ、別れの挨拶をしにそれぞれ動いていた。

 当然、相手にも仕事があり、生活があるものだからタイミングが合わないこともあったが、それでもあらかたは済ませ、旅の準備も終わり、後は出発するだけになっていた。



 出発当日、愛斗がこの町フーリに入ってきたときと同じ門で二人は待ち合わせしていた。

 運よくその日に門番の仕事をしていたゴンツと話しながら練を待ち、時間を潰していると、ようやく荷物を持った練の姿が見えた。


「そろそろ出発かぁ、元気でやれよ!」


「こちらこそありがとうございます、また戻ってきます!」


 最後にゴンツと声を交わすと、練と合流して二人はまだ見ぬ地へと歩き始めるのだった。




 同日、愛斗たちとは離れた場所で三人の男たちがそれぞれを睨み合っていた。

 三人の男は全員この世界では珍しい黒目黒髪で、渡りモノだろう風貌をしていた。


「……やめだ。これはどうあっても決着つかねえよ。俺が一人を襲えば別の奴に俺はやられるだろうし、その逆もしかり、だ、誰も動けねえ」


「……悔しいが、その通りだな。今日という日は運が悪かった、俺にとっても、お前らにとっても」


「まさか、こんなことになるなんて思ってもみなかったしな」


 一人が声を出したところで、他の二人も追従するように口を開くと、それまでそれぞれが構えていた武器を下ろし、辺りを覆っていた殺伐とした空気は少し弛緩したものに変わった。


「それで、今回はどうしようもねえから見逃すけど、これからお前たちはどうするんだ?」


「俺は、俺の武を更に極めるため旅をする」


「俺も似たような感じかな。魔法だけじゃこの先厳しそうだし」


「それなら、俺に一つ提案があるんだけど、聞いて行かねえか?」


 他の二人が興味を惹かれたのか、話を聞く体制になったのを確認すると、男は一人で話し始めた。


「俺はこれから国を乗っ取ろうと思うんだけどよ、一緒に来ねえか? そこなら、いくらでも強い奴が集まるだろうし、情報を集めたりすることを考えても悪くはねえと思うんだが」


「……確かに、俺たちなら出来るだろう。けれど、何故そんなことをしたいんだ? 貴様は王になって、何を為す?」


「そんなものはない! 俺は王になりたい! 誰もがひれ伏し、誰からも敬われたい! それだけだ!」


 承認欲求の塊のような発言を、どこも恥じることの無いような空気で宣言するので他の二人は少し呆れていた。

 とはいえ、特におかしなことを言っているわけではなく、そしてこれからのことを考えた時にある程度の立場、そして情報を集められるというのは確かに魅力的なことだった。

 二人とも同じ思考に至ったのか、少し考える時間はあったものの、ついに三人は手を組むことになった。


「俺たちは王には興味はない、しかし、利害は一致している。だからこそ、他の勇者を消すまでは、俺たちは仲間だ。その過程で起こることは互いに協力しよう」


「右に同じく、だ。俺たち三人なら出来ないことなんて無いだろうしな。俺は俺の為、手を組もう」


 二人ともに了承された結果、男は笑顔で互いの手を掴むと、声を上げた。


「それじゃあ、これより俺たち、力、武、魔法の勇者は手を組む。目的を果たし、そして俺たちだけになるまでは、互いに裏切らず、協力することを誓おう」


 こうして、愛斗や他の勇者たちの知らないところで勇者たちにとっては強大な敵となるだろう同盟が結成されたのだった。

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