第8話 たまにはお約束な展開も無いとね!
町を見に行くと決めたはいいものの、愛斗はまだこの町、フーリを詳しくは知っていなかったので、とりあえずは大通りをもう一度歩いてどんな店があるのか詳しく見てみることにした。
大通りには食料を売っている露店や串焼きなどの簡単に調理されたものを並べている露店、武器や防具の店や魔道具の店など色々な店がそこにはあった。
物珍しいものばかりで辺りをうろうろとしながら歩いていると、いつの間にかかなり歩いていたようで、昨日この町に入った門へと着いていた。
「……ん? おお、どうしたアイト。朝っぱらからこんなところに。身体は大丈夫なのか?」
門には、こちらもいつまで飲んでいたのか分からないが愛斗より遅くまで飲んでいたはずのゴンツが門番の仕事をしていた。
「ゴンツさん、おはようございます。動ける程度には大丈夫ですけど、ゴンツさんの方が飲んでませんでしたっけ……?」
「そりゃお前、鍛え方が違うんだよ! まあ、そのうちアイトも飲めるようになるんじゃねえか?」
「正直、あれ以上飲めるようになる気もしないですけどね……」
「まあ、飲めるようになって悪いことは無いから、飲めるようになるといいな」
「それで、今日はどうしたんだ? まだ師弟制度の期間だろ?」
「えっと、師匠になる人が昼頃に来るそうなので、それまで町の散策しようかなと。それで、とりあえず大通りをもう一回見て歩いてたら、ここに来てました」
それからしばらく、ゴンツと雑談をしていると、いつの間にか太陽がかなり空高くまで昇ってきていた。
「そろそろ、ギルドに戻って師匠にあってきますね! 武器のこと教えてくれてありがとうございました!」
「いいってことよ! 師匠いい奴だといいな!」
新しい人に会うという事で少しワクワクしながら、愛斗は朝歩いてきた道をなぞるように戻り始めた。
まだ人が多くいる時間なので、走っていくことは出来なかったが、それなりに急ぎ足で冒険者ギルドへと向かっていた。
そして、急いでいたせいか周りをしっかりと見れていなかったようで、丁度宿屋の前を通りかかろうとしたところで、そこから出て来た小柄な銀髪の女の子にぶつかってしまった。
何とか直前で相手の子に気が付いたので、身体を捻って直撃はしないようにすることは出来たが、急いでいた勢いは殺しきれずに愛斗は昼間の往来でかなり派手にすっ転んでしまった。
「……大丈夫?」
少し気怠そうな感じの声が聞こえて、声のした方に顔を向けると、まさに今ぶつかりそうになった銀髪の女の子が、無表情のまま愛斗の様子を眺めていた。
「ごめん! 俺は大丈夫だったけど、お嬢ちゃんは大丈夫だった? どこか怪我とかしてない?」
「……貴方が勝手に転んだだけだから、別に」
少女の言葉を聞きながら、愛斗は起き上って身体に着いた砂を叩き落とした。
「良かった。それじゃあ、俺はこれから行くところがあるから、バイバイ」
「……」
愛斗は少女が大丈夫そうだと判断すると、再び冒険者ギルドへと向かって歩き出した。
今度は不注意で誰かにぶつかったりしないように、周りにも注意を向けて、急ぎすぎないよう心掛けながら。
そして、その後は誰かにぶつかったりすることも無く安全に冒険者ギルドに着いた愛斗は、マリーのいる受付で待たされていた。
「……えっと、そろそろ約束の時間なんですよね?」
「そうよ、まあ、もう少し待つかもしれないから酒場で何か食べて……って、丁度来たわね。思ったより早かったわね」
そう言ってマリーが指さした先にいたのは、ついさっき愛斗とぶつかった銀髪の少女だった。
その少女はこちらを見てゆっくりと歩いてくると、短く口を開いた。
「……マリー、こいつ?」
「そうよ、この子、アイトがあなたの弟子になる子よ。ちゃんと面倒見てあげるのよ?」
マリーが少女にそう言うと、少女は無表情のまま愛斗へと向き直り一言、
「……よろしく」
そう呟いた。
「よろしくお願いします。……それと、さっきは本当にすみませんでした!」
愛斗も改めて目の前の少女にしっかりと謝るのだった、先程ぶつかったこともそうだが、小さい子扱いをしたことに対して、しっかりと謝らなければ、と思ったからだった。
「それでは、改めて、昨日から冒険者になりました、愛斗です。渡りモノなので、知らないことばかりですがよろしくお願いします!」
酒場のテーブルを一つ借りて、愛斗と銀髪の少女は自己紹介をしていた。
とはいえ、愛斗は何を話したらいいのか分からなかったので、今のところ分かっていることを話した。
すると、渡りモノといったところで少しだけ、表情が動いたような気もしたが、すぐに無表情のままになったので気のせいかと思い直した。
そして愛斗の自己紹介を聞いた少女は、少ししてようやく口を開いた。
「……アリス。Aランク冒険者。よろしく」
「アリスさん、ですね、覚えました! 師匠、これからよろしくお願いします!」
ようやく判明した、銀髪の少女の名前を脳みそにしっかりと刻み込むと愛斗は再度、挨拶をした。
アリスは、師匠と呼ばれて一瞬ポカンとした表情をした。
愛斗は知らないことではあったが、アリスはこれまで弟子を持ったことが無かったので、初めて呼ばれた師匠という呼称に、むず痒いものを感じていたのだ。
しかし、実感が湧いてくると嬉しくなってきて、自分でも気付かずに少し頬を緩めていた。
そしてそのまま愛斗と握手をするのだった。
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