第3話 町に到着してから最初に会うのはおっちゃんでした
「おお、見えて来た、アレか!」
しばらく、日の出ている方向へと歩いてきた愛斗の目に飛び込んできたのは、中にあるあろう町をぐるりと囲んでいる、大きな壁と、その一部、門になっているところから出入りしている人々だった。
「早速、俺も……って、どうやって入ったらいいんだ? ラノベだと、こういう時って身分証明出来るものとか必要な気がするんだけど……。まあ、行ってみれば分かるか!」
ほんの少し、どうやって入ったものかと悩んだが、すぐに楽観的に考えるとそのまま門に向かって歩き出した。
「すみませーん、町に入りたいんですけど、どうしたらいいですか?」
門の前までついて、傍に立っていた兵士のような人に声を掛けると、厳つい見た目とは裏腹に、にこやかな顔で答えてくれた。
「おう、坊主! 入り方が分からないって、相当な田舎者か? それとも、渡りモノか?」
「? おじさん、渡りモノって何ですか?」
大きな声で近くで話されるものだから、耳が痛くなったが、兵士のおっちゃんの言葉の中で引っかかるものがあって、聞いてみると、どこか納得した様子でおっちゃんは応えてくれた。
「お? 渡りモノを知らねえってことは、お前さんがそうか! 渡りモノってのは、この世界とは違うところから、世界を渡って来た奴らしいが、難しい事は知らん! 気付いたらこっちの世界にいたとか、神に飛ばされた、とかいろいろあるらしいが、そう言うやつら全員ひっくるめて渡りモノって呼ばれてるんだよ。それで、お前さんも渡りモノってことはこの辺のこととか何も分からんわな! おい! ゴンツ!」
おっちゃんが大きな声で叫ぶと、どこにいたのか、おっちゃんを若くしたような見た目の、これまた兵士の恰好をした厳つい男が現れた。
「そんな大声出さなくても聞こえてるわ、バカ親父! てか、さっきから話が全部聞こえてんだよ!」
「おお、そうか! すまんな! それで、この坊主渡りモノらしいから、ちょっくら町の案内とかしてやってくれや! 俺が行くより、お前の方が歳も近そうだし、丁度いいだろ!」
親子二人して大声で話し合うので愛斗は耳がキーンとなるのを感じながら二人が話し合うのを傍で聞いていた。
「よし、それじゃあ親父は置いといて行くか」
親子での話が終わったのか、ゴンツと呼ばれた青年が愛斗に近付いてきた。
「お願いします! ……あ、ちょっと待ってください!」
愛斗はゴンツに挨拶をして、町の中へと入って行こうとしたが、何かを思い出したかのように立ち止まると一度門へと戻っていった。
そして、門のところで仕事に戻ろうとしていたおっちゃんの元へと来て、声を掛けた。
「おじさん、優しくしてくれてありがとうございます!」
まさか愛斗が戻ってくるとは思っていなかったのか、おっちゃんは驚いた顔をしていたが、すぐに破顔すると、愛斗の言葉に応えてくれた。
「いいって事よ! それと、俺はおじさんじゃねえ、ガンツって立派な名前があるんだ。これからはそう呼べよ?」
「! はい、ガンツさん!」
「よし、それじゃあ行ってこい! 今度会ったら飯ぐらい奢ってやるから、それまで死ぬなよ!」
「ありがとうございます! それじゃあ、行ってきます!」
おっちゃん、改めガンツと軽く言葉を交わして、愛斗は待ってくれていたゴンツの元へと戻って来た。
愛斗が来たのを確認すると、ゴンツはもたれかかっていた壁から離れて歩き始めた。
「よし、それじゃあこの町、フーリを案内するから、しっかりついて来いよ」
「はい! ゴンツさん、お願いします!」
愛斗の元気な返事にゴンツは機嫌よさそうに愛斗をフーリの案内に連れて行くのだった。
「まず、今俺たちがいるここがこの町一番の大通りで、大体のモノはこの辺りを探せば見つかるはずだ。この道をまっすぐ行ったところに、この後行く予定だが冒険者ギルドがある。冒険者ギルドの傍には、教会とか、宿屋が集まってる。それで、その奥に見える一番大きい屋敷が、この町の領主様の屋敷だ。フーリの領主様は良い人だが、それでも屋敷に侵入したりするとどうなっても文句は言えないから、出来るだけ近付くなよ?」
町のことを教えてもらいながら大通りを歩いていた愛斗は、見たことも無いような人、モノに圧倒されつつ、興味を惹かれつつも冒険者ギルドへと歩いていた。
「渡りモノは、まだ信用が無いから、冒険者になるしか仕事が無いんだ。だからまずは冒険者登録をするんだが、その時にどんなことが出来るのか確認するために、軽い試験がある。まあ、渡りモノは何故か他よりも優れていることが多いから気にすることは無いと思うが、頑張れよ」
更に説明を受けていると、いつの間にか目の前には大きな建物が建っていた。
「よし、ここが冒険者ギルドだ。心の準備は良いか?」
「え!? もう!? ……よし、出来ました!」
大きな建物は冒険者ギルドだったようで、愛斗は驚いてしまった。
しかし、すぐに気持ちを切り替えて不安な気持ちから、未知の世界へと飛び込んでいくことにワクワクする気持ちになって、声を張り上げると、扉へと手をかけ力いっぱい押すのだった。
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