第4話 冒険者ギルドと言えば……
ギィィィ……
古くなっているのか、不快な音を立てながら冒険者ギルドの扉は開いた。
中には酒場も併設してあるようで、中にいた冒険者らしき人々が新しく入って来た愛斗へと視線を向けて来た。
愛斗は、ここになってようやく小説的テンプレとして、先輩冒険者たちに絡まれるのか、と少しドキドキし始めてしまったが、実際には特に何も起きることは無く、新顔に興味を持ってはいそうな顔をしつつもまだ愛斗へと声を掛けてくるものはいなかった。
少しがっかりしながらも、ゴンツに連れられながら愛斗は受付らしき場所へと歩いて行った。
「よう、マリー。久しぶりだな」
「あら、ゴンツがここに来るなんて珍しいわね? って、その子初めて見る子ね?」
気さくな感じで受付に居た女性にゴンツが話しかけると、マリーと呼ばれたお姉さんはゴンツと顔見知りなのかこちらもまた気さくな様子で言葉を返してきた。
「おう、こいつはアイトって言ってな、今日この町に来た渡りモノらしいんだわ」
「あら、あらあら! まさか渡りモノの人間を見るなんて、珍しい! それじゃあ、その子を冒険者登録しに来たのかしら?」
「はい! よろしくお願いします!」
マリーがこちらを向きながら話しかけてきたので、愛斗もようやく口を開くことが出来た。
アイトの元気な声を聞いてマリーはにっこりと微笑むと、カウンターの下の部分から何か取り出してきた。
「それじゃあ、とりあえずこの紙に必要事項を記入してもらえるかしら……っと、その前に、君、文字は書ける?」
愛斗に紙とペンを渡してから愛斗が文字を書けないかもしれないという可能性に思い至ったのか、不安そうな顔で愛斗に尋ねて来た。
愛斗もしっかりと読み書きについてのことを忘れていて、マリーにつられて不安な気持ちになったものの、渡された紙を見てみるとそこに書いてあるのは、カタカナのような文字だった。
「えっと……この文字って読み方は……で合ってます?」
「あら、読めるのね。それなら良かったわ、それで、合ってるわよ」
文字の形自体はカタカナではあったが、もしかしたら読み方は違っているかもしれないと心配になった愛斗だが、その心配は杞憂に終わった。
とはいえ、カタカナだけで全て書かれているので、少し読みにくいと感じてはいたが。
ひとまず、文字の心配はなさそうだという事で、愛斗は渡された紙を分かる部分はとりあえず埋めていった。
「はい、出来ました!」
そして、渡された紙の空欄をとりあえず全部埋めてから、紙とペンをマリーに手渡した。
「……うん、大丈夫そうね。それじゃあ、軽い試験をやりましょうか」
紙を確認していたマリーに、次は試験と言われて愛斗は緊張してしまった。
何をするのか分からないが、試験という言葉自体があまり好きではなかったからだ。
「フフ、そんなに緊張しなくてもいいわよ。どんな結果でも登録出来ないとかそう言うことは無いから。それに、渡りモノは何故か他よりも優れていることが多かったりするから、きっと君も大丈夫よ」
特に励まそうとしたわけではないのだろうが、マリーの言葉に少し気が楽になった愛斗は、マリーとゴンツの後ろについて行くのだった。
二人について行った先には、大きな広場となっている場所があり、そこには三人の他にもたくさんの武器を構えた人たちがいた。
「はい、皆! 今からこの子の冒険者登録試験するから、一旦ギルドに戻りなさい! あ、ギルド長こんなところで何してるんですか! ちゃんと仕事してください!」
しかし、マリーが一つ声を掛けると、その場にいた人たちはすぐに愛斗たちが来た道を歩いて行ってしまった。
ついでに、ギルド長と呼ばれて肩を揺らしていたガタイの良い中年のおじさんも一緒に帰っていった。
「さて、それじゃあ今から試験をやるんだが、まずは身体能力を見るぞ。何か使える武器はあるか?」
早速愛斗の前で身体を鳴らすように動かしているゴンツに言われるが、平和な世界から来た愛斗に何か武器の心得などある訳なく、首を横に振るだけだった。
すると、ゴンツは広場の端の方から二本の木刀を持ってくると、片方を愛斗に渡した。
「とりあえず、これを使って俺に攻撃して来い。体力が限界になったら終わりな」
ゴンツはそう言うと愛斗と向き合った状態で、右手には持ってきたもう一本の木刀を握り、いつでも来いと言わんばかりの体勢をとった。
それを見て愛斗も渡された木刀を構えると、ゴンツめがけて走り出すのだった。
「……よし、それじゃあ組手はこれぐらいでいいか。動けるようになったらこっち来いよ」
しばらく経った後、地面に這いつくばっている愛斗にゴンツは声を掛けると少し離れたところで見ていたマリーと、いつの間にかいたもう一人の男性の元へと歩いて行った。
愛斗は全力で動き続けた後で酸素の足りなくなっている頭で呆然としながらも自分の無力さに打ちひしがれていた。
結局、それなりに長い時間動き続けていたが、一度たりとも愛斗の振るう木刀はゴンツに当たることは無く、何度も何度も空振り、そしてゴンツの持つ木刀に止められ続けたのだ。
……ただの初心者が、本職の兵士に対抗出来るわけも無いので、当然の結果と言えば当然なのだが。
少しして、何とか動ける程度まで身体が回復した愛斗は、ふらつく足を抑えながらもゴンツたちのいる方へとゆっくり歩いて行くのだった。
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