第31話 誰よりも勇者らしい男、イサム(勇)

 フォールの町、その外壁の上では一人の、愛斗と同じぐらいの年齢の青年がまだ暗い中で町の外を睨みつけていた。


「イサム! 一度冒険者ギルドの方に来てくれ!」


 声の掛けられた方を向くと、イサムと呼ばれた青年に近付いてきていた、鎧に身体を覆われた男がいた。


「何かあったのか? ……とりあえず、今向かうよ」


 詳しい話は直接聞きに行けばいいと考えて、イサムは外壁から降り、冒険者ギルドへと少し急ぎ目に歩き始めた。


「あ、イサム! もうすぐゴブリン来るんだよね!? 大丈夫?」


「大丈夫だ、この町の人は皆強いから、すぐに平和になるよ。それに、俺もいるから大丈夫だ! ほら、早く家に帰ってお前も妹を守ってやらなきゃだろ?」


「あら、イサム君。これから大変でしょう? 時間見つけてこれ食べな」


「肉屋のおばちゃん、ありがと! おばちゃんとこの肉美味しいから、嬉しいよ!」


「おう、イサム! 大変だろうけど、一緒にゴブリンどもを蹴散らしてやろうぜ!」


「おう、俺たちなら余裕だ、頑張ろうぜ!」


 道中、道行く人達に声を掛けられ、その度に一言は話していくので、急いでいたはずが冒険者ギルドに到着したのは呼ばれてからしばらくした後の事だった。

 冒険者ギルドに到着したイサムは扉を開けると、まっすぐに受付へと歩いた。

 すると受付に居た初老に差し掛かろうかという年齢のはずなのに、現役の冒険者と比べてもガタイの良いおじさん、この冒険者ギルドのマスターもこちらに気が付いたようで声を掛けて来た。


「やっと来たか! 偵察の奴らによると、今日の昼頃にはゴブリンどもが押し寄せてくるそうだ。だから、その少し前に軽く演説して欲しい」


「演説、ですか? それなら俺よりマスターがやった方がいいんじゃないですか?」


「確かに、そうかも知れねえが、俺じゃあ萎縮する奴もいるかもしれねえだろ? 特に冒険者じゃない兵士たちが。それよりは、情報が入ってパニックになりそうだった時に声を上げて皆を落ち着け、勇気づけてくれたお前がやった方が、皆もやる気が出るんじゃないかってことになってな」


 マスター直々にそう言われては、わざわざ断るのもおかしいとイサムは承諾した。

 そして、大役を任せたのだから、時間までは休憩をしていろ、と仮眠室に押し込まれてしまった。

 実際のところ、演説を任せるというのは直前でもよかったのにまだ夜も明けていない時間に呼び出したのは、ゴブリンのスタンピードが起こりそうだ、という情報が入ってからずっと警戒していたイサムを休ませるためだったのだが、普通に休めと言っても聞かないのでこのような方法で休ませるのだった。




 そして夜が明けて、ようやくフォールの町へと到着した愛斗と練は、やけに物々しい町の様子を不思議に思っていた。

 ようやく門が見えてきたところで、やっと歩くスピードを緩めると、門の方から二人組の兵士が走って来た。


「君達! こんな時に何をしていたんだ!」


 第一声がそんなものだったので、何があったのか不思議に思ったが、ひとまずは聞かれたことに返事をすることにした。


「俺たち、フーリの町からフォールの町に来たんですけど、途中の村で村人が一人もいない村を見つけて、何かあったのかと急いで来たんです」


「何!? こんなときに町を移動したって!? 良く無事だったな、それで、村に人が居ないのは、スタンピードが起きそうだという事で村人をフォール、フーリの町に避難させているんだ。というか、フーリの町で聞いていないのか!?」


「二日前にフーリの町を出た時は何も言ってなかったですけど」


「おっと、そうだ、こんなところで話し込んでる暇はないな。冒険者なら、とりあえずそのまま冒険者ギルドに向かってもらえるか? 二人とはいえ、戦力が増えるに越したことは無いからな」


 という事で、到着したばかりではあったが、愛斗と練の二人はすぐに冒険者ギルドへと向かうのだった。

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