第一章 チュートリアル的な

第1話 え、俺死んだの?あ、違う?

「藍原愛斗、あなたに頼みがあります」


 気が付くと、辺り一面真っ白な世界で俺、藍原愛斗は目の前にいる女の人と二人きりだった。

 俺が呆然としている中、目の前の女性は一人で話し始めていた。


「私はあなたの住んでいた地球とは別の世界、グローニアの女神十二柱の一柱、愛の女神、フローリア。あなたにはグローニアへと渡り、私の頼みを果たして欲しいと思っています」


 鈴のなるような声と言うのはこんな声の事なのかな、と呆然とした頭で思いながら、愛斗は目の前の女神と名乗った相手を見つめていた。

 大きく開かれた目、きめ細やかな白い肌、スラリと通った鼻筋、太すぎず細すぎずな身体に出るところは出ているのにくびれた腰つき、透き通るように綺麗な金髪。

 これまでの人生で、いや、これから先の人生全てを含めたとしても誰よりもキレイだと断言出来る美人を、愛斗は見つめていた。


 その間にもずっと話し続けていたフローリアが、ようやく話も終わったのか改めて愛斗のことを見て口を開いた。


「藍原愛斗、私の頼みを受けて頂けますか?」


 その言葉を聞いて、ようやく愛斗は動き出した。



「フローリアさん、俺と付き合って下さい!」


「うぇっ!? え、ちょ、ちょっと待って下さい!? どうしていきなり!? ここまでの話聞いてました!?」


 急にフローリアに近付いて手を取り、愛斗は告白した。

 フローリアはいきなり告白されると思っていなかったのか、顔を赤くして慌てていた。

 キレイなだけでなく、こんな時は可愛い反応をするんだな、とどこか他人事のように考えながらも愛斗は更に口を開いた。


「一目惚れしました! ひと目であなたの事が好きになりました、どうか、俺と付き合って下さい!」





 ……結論から言って、まあ、当然ながら断られました。

 そりゃ、出会ったばかりの男、それも特に顔が整っているような人間でもないのにすぐにオーケーされるわけが無いですよね……。


 女神フローリアは、話も聞かずに勝手に玉砕して落ち込んでいる俺を静かに見守ってくれていた。

 ……優しいなぁ、やっぱ好きだなぁ。

 落ち込んでいても仕方ないと気持ちを切り替えると、座り込んでいた愛斗は立ち上がった。


「それで、話を聞いてなかったんで、もう一回話してもらってもいいですか?」


 フローリアもようやく話を聞く姿勢になった愛斗にしっかりと向き直ると、再び話し始めた。


「藍原愛斗さん、「あ、呼び捨てにしてくれていいですよ」……愛斗、私は地球とは別の世界、グローニアの女神の一人、愛の女神フローリアです。貴方にはグローニアに渡って勇者となって欲しいのです。先ほども言ったようにこの世界には他にも女神が居て、私も含めると全員で十二柱の女神が居ます。私たちは、お恥ずかしいことにあまり仲が良くなく、考え方が違うせいか良く争いになるのですが、流石に私たちが直接争うと被害が大きく、代理を立てて争うことになったのです。その代理として選ぶ存在は、グローニアのモノから選ぶと私たちが干渉できてしまうので、別世界から選ぶことになり、その中で私は貴方を私の代理として選びました。貴方には、私、フローリアの代理としてグローニアへと渡り、私の勇者として他の女神の勇者たちよりも生き延びて欲しいのです」


 フローリアはそこまで話すと一度愛斗を見た。

 今度はしっかりと話を聞いていた愛斗は少し気になったことを聞くことにした。


「フローリアさんは他の女神さまと戦っているのに俺は戦わなくていいんですか? フローリアさんが言ってることだと、俺は生きてるだけでいいみたいな言い方ですけど……」


「ええ、そうです。確かに、他の勇者を倒すことが一番、争いを収束させるには早いでしょう。けれど、私はそんな風に力で他の女神をひいては世界を制圧、支配するようなやり方をしたくないのです。だから、出来ることなら貴方には他の勇者と争わずに仲良くしてもらいたいのです……。可能なら、愛斗には早めに他の勇者とも遭遇して親交を築いて欲しいですが、他の女神たちがどのように指示を出しているのか分からないので、争いが避けられそうにない相手ならば逃げてもらって構いません。死んでしまえば何も成せないのですから」


「そう言う事なら、分かりました。でも、俺が他の勇者と仲良くなっても女神様たちは変わらないんじゃないですか? もともとは女神様たちのそれぞれの方針が違うから代理を立てることになったんですよね? それなら、俺たちが仲良くなっても無理なんじゃ……?」


「それなら大丈夫です。全員が殺し合うようなら、その中で最も強かった勇者を送り出した女神の考えに従うことになるのですが、本来は最も優秀な、つまり殺し合わなくても何かしらをしていく中で他の勇者たちを諭すことが出来るようなら、そのものが最も優れている、と判断できますから。……ただ、やはり他のものを皆殺しにすることが一番手っ取り早くもあるので、あまり私の意見を他の女神は聞いてくれないのですが……」


 そう言って悲しそうな顔をするフローリアに、愛斗は絶対にこの女神さまの力になろう、と決意した。

 惚れた相手に対して協力したいという気持ちはあったが、フローリアの考えを聞いてその気持ちはより一層強くなったのだった。

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