第36話 白
戦場の誰もが現状に危ないものを感じ始めていた。
不思議とそれまでよりも強くなっているゴブリンたち、それに対して疲労が溜まり始めている自分たち、これで危機感を覚えないほうがむしろ危なかったであろう。
そんな、彼らの危機感を塗り替えたのは、突如として背後から現れた、とんでもなく大きな、力強い魔力の波動だった。
通常、魔力というものは感じられない。
これは、人間には魔力を感じ取る感覚のようなものがあらかじめ備わっていないからであるのだが、時に第六感とでも言うような、魔力を感じ取る感覚を持ったものもあらわれることがある。
しかし、今回のそれに関しては、普段から魔力を感じ取るのが苦手なものにもはっきりと感じ取れていた。
動く魔力が、強すぎたのだ。
まるで、途方も無く大きな波が暴れているような、そんな感覚を引き起こしてしまうほどに、その場に溢れた魔力は力強くうごめいていて、だからこそその場にいた全員は咄嗟に走り出していた。
「
その声が聞こえた後には、誰も声を上げるものはいなかった。
目の前の光景に圧倒されるもの、自分が巻き込まれることは無かったことに安堵するもの、そして凍り付いて動けなくなるものしかその場にはいなかった。
その魔法は、言葉通り、目に入る全ての物を凍り付かせ、音も出ない死の世界へと誘っていた。
更に、町からはすこし離れたところから凍り付いているのにも関わらず、町の壁の傍に座り込んでいる冒険者たちの元まで冷気が漂っていた。
その光景を見て、その場にいた者たちは、身体も冷えてはいたが心底から肝が冷える思いをしていた。
もし、逃げ遅れていたら、と考えると、自分も今あの無数に立っている氷像の一つになっていたかもしれない、と。
そして、その光景を作り出した一人の男、現在は魔力が枯渇したことによって意識を失い、ギルドマスターに担がれている、愛斗に、畏怖の感情を向けるのだった。
「うぅ……頭痛い」
それからしばらくして目を覚ました愛斗は、魔力枯渇した際に襲われる頭痛に悩まされて目を覚ました。
まだぼんやりした頭のまま、何があったのかを思い出そうとして、意識を失う前、練が倒れていったときのことを思い出した。
「練! 練はどこに!? っぐぅ……!」
急に飛び起きたせいか、頭に激痛が走ったが、それも気にせずに愛斗はベッドから立ち上がって動き始めた。
すると、丁度愛斗の様子を見に来ていたのか、冒険者ギルドの受付嬢が近寄ってきていた。
「アイトさん、まだ無理せずに寝ててください。貴方の身体、今かなりボロボロになってるんですから」
「ボロボロって、魔力枯渇しただけじゃ……って、そんなことより練はどうなってるんですか!? 無事なんですか!」
「わ、だから暴れたら身体に悪いですよ! それと、レンさんは、今のところ眠っているだけですよ、治療もされてますし、今のところは疲労もあって起きてないだけです」
「そっか……良かった……」
愛斗は、ひとまずの練の無事を聞くと安心したのか、またベッドに座り込んでしまった。
とはいえ、仕方のないことだったろう、愛斗も実はかなり疲労の溜まっていた状態で、未だに魔力が枯渇しているのか全身には倦怠感、虚脱感に襲われていて、自由に動けるほど回復はしていなかったのだ。
「それでは、とりあえずゆっくり休んでいてください。今日の一番の功労者には、しっかり身体を癒すように、とのギルドマスターからの指示ですので」
受付嬢はそれだけ言うと、そのまま歩いて部屋から出ていくのだった。
愛斗もそれを見送ると、また眠気に襲われてきたのか、ベッドにもぐりこんで目を閉じるのだった。
勇者戦争~女神様、結婚してください! かんた @rinkan
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