第25話 いや、うん、愛斗君も男の子なんでね……。
練の歓迎の宴会翌日、愛斗はアリスを起こしに来ていた。
ここに来るのも久しぶりだな、と思いながら、目の前で何度揺すっても目を覚まさないアリスから目を背けていた。
以前と変わりなく全く起きないアリスに呆れつつ、そして今の状況を見てはいけないと思って、アリスの方を向いてしまいそうな顔を何とか抑えつけながら、叫んだ。
「何で服着てないんだよぉ! 前はそんなことなかったじゃんか!?」
そう、アリスは服を着ていなかったのだ。
朝日に照らされた綺麗な肌に、意外と大きい二つの双丘に目を奪われないよう気をつけながら、肩に乗っていたスラミーを投げつけてうずくまってしまうのだった。
愛斗がアリスの所へと来ていたのは、朝、冒険者ギルドへと今日の仕事を探そうと来た時にマリーに頼まれたからだった。
実は、練の師匠となるのはアリスとなっていたらしいのだが、約束の時間になってもアリスが来なくて焦りはじめていたところで、丁度愛斗が姿を見せたので、元弟子だし、愛斗に頼んじゃえ、という事になったらしい。
愛斗も、練のことだし、そして自分の師匠の事なのだからと快諾してアリスの部屋まで来たのだが、まさか全裸で寝ているとは思わずに毛布をめくってしまい、こうなっていた。
心に決めた相手がいるとはいえ、愛斗も思春期真っ盛りの若い男の子なのだ、朝っぱらとはいえ元気になってしまうのは仕方がないが、なんとか抑えようとうずくまって落ち着こうとしていた。
「……んぅ? ……あれ、アイトだ……」
その声が聞こえてきたのは、愛斗も落ち着いてきて、立ち上がれそうになった時だった。
やっと起きた、とそのことに意識が向いてしまって、ベッドから引きずり出そうと振り向いた、振り向いてしまった。
アリスの恰好がどんなものだったか忘れたまま。
「あ……」
「……?」
「忘れてたぁぁぁぁ!!」
そしてまた愛斗はうずくまって亀のようになってしまった。
「早く起きて! 服を着て下さい!」
もはや悲鳴じみた愛斗の叫びが届いたのか、ようやくアリスは動き出したのだった。
……ちなみに、目にしっかりと焼き付いた光景と、着替える音で色々と大変だった愛斗が再び立ち上がれるようになるのにしばらく時間がかかったのは余談としておこう。
「あ、アリスちゃん! アイトくん、起こしてきてくれてありがとうね……って、何でそんな疲れてるの?」
「いや、気にしないでください……ほんとに、放っておいてくれていいので……」
「そう? まあ、いいけど……。それで、アリスちゃん、こっちの子が弟子になる子で、レンちゃん。レンちゃん、こっちは貴女の師匠になるA級冒険者のアリスちゃんよ。しばらくお世話になると思うから、仲良くするのよ」
「よろしくお願いします」
「……ん、よろしく」
何やら変に疲れて壁にもたれかかりながら、練とアリスを眺めていた。
そして二人が愛斗の時と同じようにギルドから出て行ってから、愛斗はマリーの所へと向かった。
「マリーさん、今日も何か依頼受けようかと思うんですけど、何か残ってないですか? 出来れば依頼料は安くていいので、簡単に済ませられる奴を」
実は今、愛斗はそれなりにお金を持っていた。
昨日のオーガの素材が思っていた以上に高額で引き取ってくれたので、しばらくは、具体的には一月程度なら無駄遣いしなければ何とかなる程度のお金は持っているのだ。
今日もとりあえず働こうと思っていたのだが、朝から変に疲れたこともあって、今日は軽くで済ませたい気持ちがあった。
そんな気持ちを汲み取ってくれたのか、マリーが提示してくれた依頼はちょうど良く、それを受けてギルドから出るのだった。
ちなみに、仕事内容は冒険者ギルドからのお使いだった。
「いや、簡単じゃなかったな……。なんか、マリーさんに体よく使われた感じだ……」
日も傾き始めてきた辺りで、愛斗はようやく仕事を終えてギルドへと戻ってきていた。
ただのお使いだと思っていたのだが、思った以上に行く場所が多く、鍛冶屋、薬屋、肉屋など、一日で様々なところへと何度も冒険者ギルドとの往復をしてきて、町の外へは出なかったから精神的にはそこまで疲れてはいないものの身体的にはもうへとへとだった。
「お疲れ様~。いやぁ、助かっちゃったわ。量も多かったし、ギルド内での仕事も多かったから、今日中に行けるか分からなかったのよね。はい、こっちは依頼料よ」
「ありがとうございます……。あれ、ちょっと多くないですか?」
マリーから受け取った硬貨を数えて、聞いていたよりも少し多いことに気が付いた愛斗はそのままマリーに聞いてみた。
すると、
「アイトくん、いつも真面目にやってくれてるし、本当に助かったからちょっとだけ色付けちゃった。遠慮せずに受け取ってくれていいのよ」
と言われたので、金が会って困ることはないか、とありがたく受け取り、併設された酒場で今日の夕飯を目いっぱい食べ、宿へと帰るのだった。
……寝る前にナニをしたのかは、彼の尊厳のため、触れないでおこう。
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