第35話 男同士の話
みんなで家路に着き玄関を開ける。今日は奥さんもドーコと一緒に俺の試練を見ていたから晩御飯がまだ出来ていなかった。
「先に水浴びを済ませておきな」
奥さんがそう言うので先に水浴びをする事になった。さっきまで緊張感で火照った体に冷たい水が気持ちいい。それにしてもオリハルコン同士でぶつけても砕ける程の物だったのに、どうしてドーコの大斧は無事だったんだろうか? そんなことを考えながら1人で体を洗っていると、
「ワシも一緒に水浴びしてもいいかの?」
ドウェインがドアを開けて入ってきた。断る理由もないが、ドワーフは一緒に水浴びをする文化があるのだろうか?
「それは構わないが、ドワーフは一緒に水浴びするものなのか?」
「ん? 家族とは一緒に水浴びしたりするもんじゃろう」
至極真っ当な答えだ。裸の付き合いをしてもいいと、ようやく家族として認められたということなのだろう。
「それにしてもオリハルコンの槍を折ってしまったが大丈夫なのか?」
「大丈夫なもんか!!」
「やっぱり貴重なものだもんな。すまない」
「冗談じゃよ。ただワシの自信作が壊れたのは傷ついたの。お主がオリハルコンの盾を作っている時点で壊せないことまでは想像がついたんじゃが、まさかこっちが壊されるとはの……」
物悲しくそうドウェインは呟く。
「まぁそのおかげでワシの強情さやプライドも綺麗に折れたんじゃから結果として良かったんじゃろうな。きっと俺でもしなければワシはなんだかんだと言って認められんかったじゃろう」
「なんだ冗談か。正直そう言ってもらえると助かる。それにしてもあの折れた槍はどうするんだ?」
「お主のオリハルコンへ向き合う姿勢から学ぶこともあったしの。更にワシもオリハルコンの事がわかった事じゃし、もう一度折れたオリハルコンの槍を使って今度はせめてお主に折られない槍を作ってやるわい!」
「そりゃ俺も負けてられないな。どこかでオリハルコンを見つけたら今度は俺が武器を作って見るよ。そしたらそれで勝負だ」
「威勢のいいことじゃ。それまでワシも元気に鍛冶をしなければの」
ドワーフの顔を見ても年齢なんてさっぱりわからないが長と言われるくらいなんだからそれなりに年齢はいっているのだろう。
「まぁ大丈夫だろう。なんせあんなに意地が悪いんだからな。悪い奴ってのは大体長生きするもんだ」
「お主も娘が出来ればわかるわい! 一人娘がどこの誰とも知らずしかもエルフの混血……いやそれはもう言わんが、どこの馬の骨とも知らない奴結婚しようとすればの!!!」
「そうかっかするなって。ほら水を浴びて」
そう言って思いっきり水をかけてやる。
「かけられんでも自分で出来るわい! じゃが親というのはそういう者なのじゃ。例えそれが家を追い出してしまった娘であってもの……」
「それもそうか。でも今回の試練で俺は無事認められたってことで良いんだよな? こうやって水浴びも一緒にしてるし」
「まぁそうじゃの。ワシよりも上手い鍛冶師を流石に追い出すことも出来まい」
そう言って笑うドウェイン。俺も一緒に笑う。この村に初めてきて追放と言われた時には考えられない光景だ。男だけでなんとも華のない光景だがな。でも男同士の友情ってのも良いものだ。
「それでヒューマンの国に行くのは知っているが何をするために行くんじゃ? お主達が望むならここでいくらでも生活すれば良いものを」
「あーそういえば詳しく説明してなかったな。マジックアイテムを作る時にエマが、あー……あるエルフが手助けしてくれたんだよ。そこで約束してしまってな」
「その約束とはなんじゃ?」
「エルフの里まで来て欲しいってそこで何かやってもらいたい事があるらしい」
「エッエルフの里に行くじゃと!?!? まぁこの際因縁は置いていてもエルフの里に向かうまでにどれほどの危険があるか知らんのか!?」
「もちろん危険だってことは聞いてる! だからその為にヒューマンの国で店を構えるつもりだ。それで大金を稼いで冒険者を雇う。それに装備だって整える。な? これで準備万端だろ?」
「それだけじゃないんじゃ、エルフの里は気候がドワーフには厳しくての」
「どういう事だ?」
「そもそもエルフの里の情報が出んから噂程度の話じゃがヒューマンなら問題ないんじゃがドワーフは寒さに非常に弱くての」
「エルフの里は気候がドワーフ向きじゃないってことか」
「むむむぅ。それにしてもまさかエルフの里に向かうとはのー。いくらお主がオリハルコンの盾を持っていてもジョブが配信者のみじゃしなー。心配じゃ」
「ほらでも重戦士になったドーコの攻撃を防いだんだぜ! それに攻撃力だって
「お主ももう家族の一員じゃ。いざとなったらそんな約束破って一緒に帰ってこい」
「嬉しい提案だが大丈夫だ。そんな最悪な状況にならないように冒険者を雇うんだからな」
「それにしてもエルフの里となるとAランククラスではないとついてこないじゃろうな」
「ってことはあのスタンピードを対応できるレベルってことか? 案外2人でもいけるんじゃないか?」
「馬鹿もん! 長旅の大変さというものを舐めてはいかんぞ。しっかり裏切らない信用のおける冒険者を連れて行くことじゃ」
「わかった。くれぐれも注意する」
「後の話はドーコも交えて夕食でするとしよう。ヒューマンの国でどんな風に店を構えるか気になるしの」
長かった水浴びを終え、またあのピチピチの寝巻きを着る。
「それにしてもずっと言いたかったんじゃがそれサイズがあっておらんぞ」
「ここには!!! これしか!!! ないんだろ!!!」
こんな大声を出したのはいつぶりだろうか。自分がこんな大声を上げれることにびっくりした。
「悪かった悪かった。今度帰ってきた時にはお主用の服を一式用意しておくからいつでも帰ってくるんじゃぞ」
「そうしてもらえると助かる。この服だとどうしても寝づらくて仕方ないんだよ」
ドアが急に開けられる奥さんが言う。
「あんたたちいつまで水浴びしてるんだい! すっかり料理が出来ちまってるよ!」
「すまんすまん」「すいません」
2人で謝りリビングへと向かう。
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