第4話 はじめての同棲生活?

 「良く来てくれたね! 町での出来事は見ていたよ。それにしても町をふらつく配信なんて良くしようと思ったね!」


 可愛らしい女の子の声を久しぶりに聞いた気がする。この世界に来てから聞いた女性の声だと奥さんぐらいだからな。


 そういえば配信をつけっぱなしにしてしまっていた。消しておこう。


「もしかしてそういう配信は禁止されてたり……」


 俺は迷惑系配信者にはなりたくない。


「まぁ許可は取った方がいいだろうけど、殆どの配信者は冒険配信だからね。珍しかったしドワーフの村ってタイトルに入ってて気になって見てたんだよ!」


 確かに許可は重要だ。今度から気をつけよう。


 この女の子は髭も生えてないしドワーフ族でもないんだろう。またドワーフで実はドッキリで生きては返さぬーって展開だったら最悪だった。そこで1つ質問をしてみる。


「それにしてもどうして君みたいな女の子がこんな道外れに住んでるんだ?」


「……る……な」


「ん?」


 何か小さい声で言っているので屈んで話を聞こうとした時


「子供扱いするなーーー!!!」


 大声と共に少女から繰り出されるとは思えないボディブローが俺の腹を抉った。


 どうやら地雷を踏んだらしい。


「ごめんごめん! 子供扱いしてる訳じゃなくて髭も生えてないし何でこんなところにヒューマンがって」


「人のコンプレックスをヅカヅカと!! 何髭が生えてなくて小さいからって!!!」


「え!? 髭が生えてない事を気にしてるってことはもしかしてドワーフ!? いやちょっと待てその握りしめた拳をどこに向ける気……」


 俺が言い終わる前に二発目のボディブローが完全にみぞおちに入り俺の意識は途絶えた。




★   ★   ★




 目が覚めると朝になっていた。目の前には昨日俺に二発もボディブローを放ったとは思えない可愛らしい少女の顔があった。鉄の匂いの中からほんのり花の香りがする。そして頭の乗っている部分がほんのり暖かい。これがもしかして膝枕ってやつか!?


「ふぁーあ。 ようやく起きたんだね。おはようドワルフ」


 目を擦りながら少女が俺の名を口にする。


「どうして俺の名前を?」


「配信でいっぱい言ってたじゃん!」


 あーそうだ俺は昨日ドワーフの村で配信しっぱなしだったんだな。俺だけ名前を知られてるのもなんだし、ここはこの子の名前も聞いておこう。


「で、君は何て名前なの?」


「よくぞ聞いてくれたね! 私こそドワーフ族の最先端をいくドーコ様だー!」


 えっへんと小さな胸を張り堂々と宣言する。


 どうこ? 童子? 確かにロリだが、本当に髭のないドワーフなんているんだな。


「で、そのドーコ様がどうしてこんな所に?」


「それなんだけど、ドワーフの製鉄技術にエルフの魔術を合わせようとエルフの里に行ったりしていたら追い出されちゃった!」


 ……


 そんなことすれば追放されかねないって予測できただろうに何でそこまで……


「職人魂だよ!」


 心を読まれた。


「それでたまたま配信一覧を見てたら、ドワーフの村へ行く配信があったからこっそり覗いていたら、ドワーフの村でエリクサーを作るバカがいるじゃ無いか! それでこの人ならって思ったんだよねー!」


 俺にビシッと指差しながらそう言った。


 バカ扱いとは酷い。これでも人を救おうと必死だったのに。


「この人ならって何が?」


「私と一緒にマジックアイテムを作る相手だよ!」


「はーー!?」


 マジックアイテムがそもそも何かわからないし、そんなこと俺に出来るのか!?


「どうせヒューマンの国に行ったって何にもする事ないんでしょ?」


 ぐっ確かにノープランだった。


「だったらここで一緒にマジックアイテム作ろうよー! 私だったら偏見なくしかも住み込みで、鍛冶を教える事だってできるよ!」


 んー確かに住み込みでしかもドワーフの技術が学べるのは美味しい。


「それともこんな髭も生えてない私なんかじゃダメ?」


 そう言ってドーコ目を潤ませる。ここでその表情は反則だろ。


 正直言ってストライクゾーンの広い俺でも髭を伸ばした女性は苦手だった。そして今、目の前には異世界に来て初めて可愛い女の子に会った。


 鍛冶技術抜きにしてこんな可愛い女の子が目を潤ませて頼んでこられたら断れない。


 それにベッドがちゃんと二つあるのに膝枕で甲斐甲斐しく心配までしてくれる子だ。まぁ原因はドーコなんだが。


 俺の視線に気付いたのかドーコが


「あーそれ? エリクサーを作ったあたりからなんかヘマをして追い出されそうだなーと思って用意して置いたんだよ。これで明日からゆっくり休めるね!」


「そんな元気に言われてもね......どうせだったらその時にコメントで教えてくれれば良かったのに」


「そんなことしたらこっちに来なかったかも知れないじゃない!」


 どうやら少し腹黒いロリかも知れない。要注意だ。


「なんか今良くないこと考えなかった?」


そう言って拳に力が入っていくのが見えたので慌てて首をブンブンと横に振る。


「じゃあ早速朝ご飯食べて鍛冶の練習するよ! ビシバシ行くからね!」


 転生2日目から鍛冶かー。少し憂鬱だな。


「はいはい」


「はいは一回!」


「はーい」


 ドワーフの血のお陰か二日酔いにはなっていなかった。ドーコが手際良く朝ご飯を作ってあっという間に出来上がった。


「いただきます」


「はーい、召し上がれ!」


 朝食はベーコンエッグと硬いパンだった。そういえば昨日の料理といいこの世界は食事面ではかなり進んでいるのかも知れない。一つ気になることと言えば食べる姿をじっくりと見ているドーコの姿だ。何か珍しい事でもあるんだろうか?


「どうどう? そのナイフとフォークの使い心地は?」


「ん? どうって言われても」


 っと言いかけたところで何やら宝石が埋め込まれている事気がついた。


「宝石が入っていて綺麗だな」


「そうじゃなくって、こう切りやすいとか刺しやすいとかないの?」


 んーこの世界では二回目のナイフとフォークだ。一回目は酒の席だったせいで殆ど覚えていない。でもきっと特別な思いを込めて作ったんだろう。


「そう言われれば切りやすい気がする」


 キッとドーコの顔が険しくなりバンバン机を叩いて


「嘘つき! その宝石には魔術がこもってないからそんな効果ないもん!」


 鎌をかけてきやがった。それにしても宝石に魔術を込める事ができるのか。じゃあ試しに切るイメージをこの宝石に入れてっと......


 ザシュッ


 机ごと切ってしまった。謝ろうと口を開くその時。ドーコの表情が険しいものから驚きの顔へと変わり


「おぉそれだよそれ!! まさか本当に魔術が使えるの!? すごい、すっごーい! これで私の夢のマジックアイテムができるよ!!!」


 机を切ってしまった事など気にもせずはしゃいでいるドーコ。あまりにもそのはしゃぎっぷりが可愛らしく思わず


「可愛い」


 口に出してしまった。キモいやつって思われてまた追い出されたらどうしよう。だがドーコの反応は違った。


「かっ可愛い? こんな筋肉も盛り上がってなくて、立派な髭も生えてない私が? 冗談だとしたらタチが悪いよ」


 そう言ってモジモジしている。ドワーフの価値観はどこまで行っても髭依存なのか? 


「なんせ俺はエルフとの混血だからな! きっと価値観ってやつが違うんだろう」


「価値観かぁ。うーんでもやっぱり立派な髭が欲しいなぁ」


「俺としてはそのままの可愛いドーコがいいよ」


 ......ちょっと気取った事を言ってしまい気まずくなった。


「そっそうだ机壊して悪かったな。朝ごはんごちそうさまでした。」


「うっうん! さぁ特訓を始めるよー」


 それにしてもあっさりと魔術を込める事が出来たな。もしかして俺はドワーフよりエルフ向きなのか?だとしたら最初はエルフが近くにいる所に転生させて欲しかったな。でもそれだったらドーコとも会えなかっただろうし、まぁ神様に感謝しておこう。




★   ★   ★




 昨日はドーコに目が向いていて気にしてなかったが、家は簡素な造りなのに鍛冶場はその倍くらいの大きさがあった。鍛冶場なのにそこまで暑く感じないのはドワーフの耐性なのか?っとそうだ


「配信つけても大丈夫か?」


「もちろん! 配信者にとって配信は命らしいしね」


 了承も得たし配信を始める。えーっとタイトルは『ドワーフの鍛冶練習』でいっか。するとドーコが早速俺と視聴者に向かって


「ここが私自作の作業場だよ! こっちで設計図を描いて、あっちで金属を溶かすの!」


 突然ドーコが身振り手振りをしながら鍛冶場の中を

ピョンピョンと飛び跳ねながら説明をする。本当にドワーフは動いてないと話せないのか?


「それでねここがね! ごめん初めて人に紹介できるから興奮しちゃってわかりにくいかも! 配信も初めてだし! 嫌なわけじゃないんだけどなんか恥ずか、あっ!」


 足をハンマーに取られて転んだ……


 俺の方を向いて動きながら説明するもんだから。


「伝わってるからもうちょっと落ち着いてくれよドーコ師匠!」


「んー! そのドーコ師匠っていいね! 皆さん私がへっぽこ弟子ドワルフの師匠のドーコ様でーす! 弟子に教えてまーす! へっへへー! それにしても師匠って響き最高だよ!!」


「そんなに師匠になりたかったらヒューマンでも弟子にすればいいじゃないか。」


「ヒューマンねー。普通のヒューマンだとまずジョブに鍛冶師が選べる人が少ないんだよ、筋力が足りないしね。万が一筋力が足りても大体は戦士になっちゃうし余程の物好きじゃ無いと鍛冶師にはならないんだよ。損してるよねーこの鉄を叩く喜びを知らないなんて」


 やっぱりあのボディブローの強さはドワーフゆえのものだったのか。人じゃなくて鉄を叩くことに喜びを感じてくれて何よりだ。


「っとそういえば私はドワルフのジョブを知ってるけど私のちゃんとした自己紹介まだだったよね? では配信を見ている人も含めてっと、改めまして私はメインジョブ鍛冶師、サブジョブ戦士のドーコです。伝説のマジックアイテムを作るため日々頑張ってまーす!」


 あっ俺とした事がまだ視聴者に向けて自己紹介をした事がなかった。


「はーい。それで俺がこの配信主のメインジョブ配信者、サブジョブなしのドワルフです」


 と言って確認していない事があったのを思い出した。


「なぁドーコ。俺はジョブに鍛冶師が入ってないけどできるもんなのか?」


 ジョブが支配してそうな世界でこれは致命的な問題ではなかろうか?


「まぁ大丈夫じゃない? ドワーフの子供だってジョブが無いうちから練習してるし」


 なんかふわっとした答えだが、やる前からウダウダ言っていても仕方ない。自分の中のドワーフ魂を信じよう。


「じゃあ最初は簡単な鉄で剣を作るところから始めようか」


 そう言って鉄の塊を渡された。何故だかその時、この鉄と心が通じた気がした。体が勝手に動き出す。


「それじゃあ鉄を溶かしてって勝手にしないでってば......!? 何でこの鋼の溶解度知ってるの!? ここら辺でしか取れない特別な鋼なのに!!」


 この腹黒ロリめ、俺を騙して初めから難しい課題を出してきてたのか。だが体が止まらない。熟練された鍛冶師のように素早くそれでいて丁寧な動きで、ドーコが後ろでギャーギャー騒いでる内に完成した。


「はーっはーっはーっ...... なんにも教える事がなく完成させないでよー!!」


 妙な怒られ方をしながら俺は作り上げた剣を手に持って振る。試し切りに置いてあった丸太を切ってみる。シュッと軽く振っただけでも丸太が真っ二つになった。


「あーっそれでテーブル作ろうと思ってたのにぃ。もういいや私にもその剣振らせて! 切って見ないと本当に使えるものかわからないんだからね!」


 強引に俺の手から剣を取りさっきの丸太をもう一度切ってみるドーコ


「なにこれ、私が作った剣より凄い。これがもしかしてマジックアイテム? いやでも宝石が入ってないし......」


 ブツブツと呟いているドーコを見ながら自分に鍛冶師の才能があった事に感動する。それよりこれ以上ドーコを放置していたら師匠としての面子が壊れるかも知れないからフォローしておこう。


「まぁここの設備が行き届いていたからかなー? きっとそうだドーコ師匠」


 ドーコも自分が師匠だと言うことを思い出したのか


「まっまぁそうだよね! そうそう! そうに決まってる! よく出来たな弟子よ!」


 なんだか満足したそうだし他の金属にも手を出してみるか!

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