第21話 昨日はお楽しみでしたね

 チュンチュン


 これが噂の朝チュンというやつか。だが今はもう朝じゃない。昨日の精力フルコースのせいか。朝までぶっ通しでそのまま事切れるかのように眠ったのだった。


 夢だったんじゃないかと思ったが、となりで寝ているドーコを見て昨日のことが夢ではない事を悟る。それにしても昨日は狩りでも夜でも疲れたから今日は本格的に休みたいな。商人のシュドに売った値段がいくらかはわからないが相当稼いだだろうし休んでも罰は当たらないだろう。


 朝ご飯でも作ろうと思ったがそれすら億劫だな。こういう時カップ麺が有れば楽だなーとない物ねだりをする。ドーコを起こそうかと思ったがぐっすり可愛い顔をして眠っているし俺も二度寝でもしよう。




★   ★   ★




「起きてー! もう3時だよ! 仕事しなきゃ!」


「うーん二度寝はやっぱり目覚めが悪いな。おはようドーコ」


「おはようドワルフ。じゃなくて早く仕事しないと! ヒューマンの国に行くのは遅れちゃうよ!」


「そんなこと言ったって俺は昨日狩りやらなんやらでもうヘトヘトで今日は休む予定だぞ。それにお金なら昨日いっぱい稼いだんじゃないのか?」


「あれは殆ど昨日の料理に使ったんだよ!!」


 よく考えればドーコの作品はかなりの価値で売れるのに、一才貯蓄とかがなさそうだった。もしかして宝石に全部お金を使ったりしてたんじゃないだろうか。よしドーコに財布はまかせない。


「これからは財布は俺が管理する。ドーコに任せてたらいくらあっても足りない気がする」


「えー! それは昨日が特別だっただけで」


「宝石にも相当入れ込んでただろ?」


「ギクッ! わっわかったよぉ」


「そういえばこの世界の結婚ってどうなってるんだ? 俺もまだ自分で稼いだ金が少ないから今すぐってわけにはいかないが」


「けっ結婚!? 本当に私で良いの? ロリコンって言われるよ?」


「それはあくまでドワーフの価値観だろ。いやドーコはヒューマンでもロリか?」


「そこに疑問を持つなー! でも結婚は種族によって祝い方が違うね。エルフは知らないけど、ヒューマンは教会であげるそうだよ。ドワーフはあんまり普段と変わらないんだけど一族みんなで宴会をするって感じだね」


「ふーん、でも追放された俺たちにはドワーフ式の結婚は難しそうだがどうする?」


「私は別にヒューマン式でも良いよ。ドワルフと一緒になれるなら」


「……小っ恥ずかしい話はもう終わりにして今日は休もうぜー」


「結局その話に戻ってくるの? 確かに私も昨日あれがあんなに激しいなんて知らなかったから疲れてるけど。うーんでも早くヒューマンの国に行きたいしなー」


「激しくさせたのはあの料理のせいだろ! うーんじゃあ俺は余り動かなくても良い宝石魔術だけやっておくよ。MPは完全回復したしな。」


「ずっるーい!私も何かあんまり動かなくて良いこと覚えればよかった。仕方ないしマジックアイテムの器用の剣でも作ってみようかな」


「その前にご飯食べなきゃな。普通の」


「もうわかってるって! 絶対私よりドワルフの方が腹黒だよ……」


 朝食を作るためにベッドから起き上がる。




★   ★   ★




 鍛冶場に着いたし、配信をつける。タイトルは『宝石魔術作り』でいっか。


〔エマ:遅いじゃない。ずっと待ってたのよ。もう少しで諦めるところだったわ〕


〔ドワルフ:まぁこっちにも色々あってな〕


〔エマ:前にも少し言ったけど、あなたが作ってるの宝石魔術じゃないわよ〕


〔ドワルフ:ん? そんなこと言ってたか? それに宝石に魔術を封じ込めるのが宝石魔術だろ〕


〔エマ:もう一度おさらいするけど、ちゃんというなら魔術を込めるのが宝石魔術よ〕


〔ドワルフ:何が違うんだよ。一緒じゃないか〕


〔エマ:あなた無意識でやってたのね。あなたがやってるのは封じ込めることなのよ。普通の宝石魔術はMPが戦闘中すぐ切れないように、先に込めておいて発動する時に少しのMPで効果を発するようにするものなのよ。だからMPがないと意味がないのよ〕


〔ドワルフ:じゃあ俺のはなんなんだ?〕


〔エマ:さぁね。でもとにかく宝石魔術じゃないことは確かよ。それはMPを持たないドワーフのドーコが証明してるわ〕


〔ドワルフ:そういえば思いの強さで変わったぽいし、【ヒューマンの良心】も関係してるのかもな〕


〔エマ:あなたヒューマンとの混血でもあるの!? しかもまたユニークスキル持ちって……何か別の世界の人と接してる気分だわ〕


〔ドワルフ:いやまぁややこしい話があるんだよ……〕


〔エマ:まぁ深くは詮索しないでおくわ。気を強く持ってね〕


 何やら違う想像をされた気がするがいいだろう。俺の境遇が凄い悲惨なイメージになってるような。


「おーいドーコ、どうやらマジックアイテムに必要なのはエルフの力だけじゃなさそうだぞー」


〔ドーコ:そんな大声出さなくても私も配信見てるってば!〕


〔ドワルフ:あーそういえばそうだったな。コメントしないもんだからすっかり忘れてた。それにしてもマジックアイテムについてどう思う?〕


〔ドーコ:とりあえず1人で作れる物じゃないね〕


〔エマ:同意するわ。エルフの宝石魔術のトリガーをMPじゃなく魔法を使う方法である祈りにするなんてとてもじゃないけど人間技じゃないわ〕


〔ドワルフ:しかも効果を高めるために装飾が効果的っていうのもおかしいな。もしかして大昔の人達はみんなで協力してマジックアイテムを作ったのか〕


〔ドーコ:ありえない話じゃないね。ドワーフとエルフが喧嘩するより前だったら可能性はあるかも〕


〔エマ:それにしたって魔術と魔法の混合なんて聞いたことがないわよ。もし作るとしても相当な術者じゃないと無理よ〕


〔ドワルフ:謎は深まるばかりか……〕


〔エマ:そんなこと1人でやってるあなたが1番謎なんだけどね〕


 といっても俺が作れるのはまだ風属性のみだ。これだと快適スローライフのためには扇風機ぐらいしか作れないな。やっぱり早くエルフの里に向かわねば。


 作り方に慣れたのかドーコの家にあるエメラルド全てに風魔術を封じ込め終わってしまった。MPはまだ切れたという感じはない。


〔ドワルフ:なぁエマ。MPって簡単に増える物なのか?〕


〔エマ:大体成長期に伸びきってそこからは個人差はあるけどあんまり伸びないわね。さっきからエメラルドを触っては違うのを触ってたけどやっぱりまだ込めづらかったりするのかしら?〕


〔ドワルフ:いやそうじゃなくてだな、どんどん効率化が進んでもう全部エメラルドには込め終わったんだよ〕


〔エマ:はぁ!? 前は一個で精一杯だったじゃないの? それがどうなったらそんなすぐ何十個もできるようになるっていうの!?〕


〔ドワルフ:だからMPについて質問したんじゃないか〕


〔エマ:それ以前の問題よ!!! あぁもうあなたを見てると純血エルフとして情けなくなっちゃうわ〕


〔ドワルフ:まぁそんなに落ち込むなよ。それに俺は風属性しか使えないしな。きっと土属性だったらエマには敵わないよ〕


〔エマ:それはそうね。当たり前よ〕


 エルフの里に着いたら教えてもらうんだから多少は機嫌をとっておかないとな。


 いくら作業が早くても3時から始めたし、窓を見るともうすっかり夜だった。中は鍛冶場の火でずっと明るいからな。だがその火も消えドーコが歩きづらそうにしながらこっちにくる。


「ほら一応一本マジックアイテム用の剣できたよ。合わせてみよっか!」


「今日は日も落ちたしまた明日試そうぜ。そうだ今度はあの森ドギゾボの森に行こう」

 

 来たばかりの時では考えられなかったが、以前の平原では少々物足りなかった。


「あんまりドワーフの里に近づくのはねー。それに人のばっかり作って自分が着るアーマー作ってないけど大丈夫?」


「あっ」


 うっかりしていた。そもそも俺の目標は最強装備でぬくぬく安全スローライフだったのに防具を忘れるとは何事だ!


「よし明日はフルアーマーを作るぞ! ドワーフ鋼の在庫はあるか?」


「ドワルフが殆ど売り物用のフルアーマーに使っちゃったじゃない! それに今日もこの剣に使っちゃったしもう少ないよ」


「どうしてシュドから買わなかったんだよー」


「それを買うためにはドワーフの村に行って買ってきて貰ったのを買うからそもそも今回は買えなかったんだよ! それにもうすぐヒューマンの国に行く予定だったじゃん!」


 一部の反論の余地のない正論だ……くっ俺がこんなフルアーマー作らなきゃこんなことには。だがやってしまった事を悔いても仕方ない。


「じゃあここに今ある最も硬度の高い金属で明日作るか。それなら問題ないよな」


「うん。置いていっても勿体無いしね」


 よし明日は取り敢えずだが、自分用のフルアーマーを作るとするか。


「じゃあ今日は配信切ります。来てくれてありがとう」


〔エマ:お疲れ様〕


 そう言って今日も配信を終了する。

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