第14話 異世界ブラック労働

「起きてー! 今日はキビキビ働くよー」


 そう言ってドーコが寝ている俺を揺り起こす。初めの時のようにフライパンとヘラで起こさず、触れてくれるのは距離が縮まったからだろうか?


「はいよ。今起きるってば」


 そう言って立ち上がるが昨日の様なフラフラとした感じはなくMPも回復しているらしい。エマは2、3日かかるといっていたしもしかしたらまだ全開ではないのかも知れないな。


「MPは大丈夫そう?」


「あー残念な事に鍛冶仕事が出来るくらいには回復したっぽいぞ」


「何が残念なんだよ! じゃあほら早く朝ご飯を食べて作業するよ!」


「「いただきます」」


 いつになったら優雅な朝を迎えることが出来るんだろうか。そんなことを考えながら朝ご飯を食べる。マジックアイテム作りに協力はしたがまだまだ俺は恩を返しきれてないと思っているし、今日は張り切って頑張らないとな。




★   ★   ★




 鍛冶場についたので早速確認を取る。

「配信つけるぞー」


「うーん」


 今日の配信タイトルは何にしようかな?『鍛冶師の本気』でいっか。よし配信タイトルも決めたしさっさと作業に取り掛かろう。そういえば印を刻んでもいいってなったけどどんな風に刻むかわかってなかったな。何かしら文化があったらまずいしドーコに聞いてみよう。


「なぁドーコ。印を刻んでいいって言われたけどルールとかあるのか?」


「機能性さえ落とさなければ特には決まりはないよほらそこの剣だって刃の部分には付けてないけど、持ち手の下にあるでしょ」


 ふむふむ確かに綺麗な印が刻んである。でもこれだと誰かが模造品を作ることだって可能なんじゃないだろうか?


「これって毎回手で刻んでるのか?」


「そんなわけないよ! そんなことしたら誰でも贋作が作れちゃうじゃない」


「流石に対応策はあるって事か。じゃあどうやって印を刻んでるんだ?」


「それは免許皆伝の時にヒューマンに頼んで魔法印を作って貰ってそれで贋作を作れない様に……」


「ほーう、じゃあドーコ師匠。その魔法印とやらを私にも頂けるんでしょうね?」


「……ごめん」


「まぁ怒ってない。ヒューマンの国に行った時の楽しみが増えたくらいだ」


「なんか最近意地悪になってない!?」


「まぁまぁ。俺の作品は印なしだが、それでも売り上げは間に合うのか? できる限り早く作るが」


「そうしてもらうと助かるよ。ごめんね」


 贋作問題が解決したし一安心ってところか。それにしてもより早く作る必要があるな。ここは一つ【ドワーフの神】に祈ることにするか。


 ドーコが苦手としている金属や素材を俺が使ってカバーする。特にドーコは魔物の素材を使った物が苦手な様だ。だったら買わなきゃいいのにと思ったが、きっとこれもマジックアイテムで使えるかもと思ったからなんだろう。炉の温度を調節している間に魔物の皮を処理したりの並列作業で汗が止まらない。


 時折り水を飲んでいるが飲んだ端から出て行ってる気がする。それでもこの世界の貨幣価値がわからない以上念を入れて全力を出すしかない。


 ドーコの方をチラ見したがドーコもドーコで一生懸命にハンマーを振り下ろしている。




★   ★   ★




「「いただきます」」


 やっと昼休憩だ。互いに熱が入って普段より遅い時間になってしまった。


「それにしても凄いねドワルフ。この調子だとここにある、素材を全部使っちゃうんじゃない?」


「だって印が刻めないんだからそんなに売れないだろ?」


「そのー言いづらいんだけど、ドワーフの村ドヴァルグは練習品しか普通売らないって言ったことがあるよね?」


「そういえばそんなこと言ってたな。で?」


ドワーフの村ドヴァルグを見てどうだった? 貧しそうだった?」


「少ししか見れなかったが物乞いも居なかったしそんな風には見えなかったな。もしかして……」


「確かに印が付いてる物の方が価値が高いのは本当だけど、印がなくてもドワーフが作った物は結構売れるんだよ」


「ってことはあれか? 俺は無駄に汗水流してたってわけか!?」


「いやいやそういうわけじゃないよ! お金はいくらあったって困らないしね! だっだからそんなに怒らないでよぉ」


 別に怒っているわけではない。よくよく考えれば推測できる事だったのに、気付かなかった自分に苛立っているのだ。


「じゃあ午後からは趣味で作っていってもいいか? 装飾の凝ったものを俺も作って見たいんだよ。俺が作ったのは懐中時計だけだったからな。今度はフルアーマーで作って見たいんだ」


「ここにあるのと私がこれから作る分で足りそうだし、大丈夫だよ」


 よし許可も得たし、趣味の世界に没頭するか! その前に配信タイトルを『装飾品作り』に変えてっと。


 今回の装飾は魔術を関係なしに作ろう。俺が使える風魔術だけだとどうにも守りに向いていない気がするしな。オークションなんかに出される様な一品を作ってやろう。


 幸か不幸かさっきの追い込み作業で、さらにレベルが上がった気がする。そういえばドーコとか配信者をジョブ設定してない人はどうやって自分のレベルを確認するんだろうか。今夜にでも聞いてみよう。そんなことを考えながらコツコツとフルアーマー製作を進めていく。


 あっそうだ今誰か見てたりしないのかな。マイページ。


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名前 ドワルフ

レベル  24

視聴者数 1

フォロワー 3


メインジョブ 配信者

サブジョブ なし


スキル なし


ユニークスキル 【エルフの知恵】 【ドワーフの神】 【ヒューマンの良心】


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 うーんレベルは順調に上がっているが、どうにも視聴者とフォロワーが増えないな。ドワーフの村ドヴァルグで視聴者獲得は望めないだろうし、早急にヒューマンの国に行きたいな。俺は配信者としてスローライフをしたいのだからな!


 そんなことを考えながら作業をしているともう日が暮れていた。ドーコの方は流石、長年やっていることだけあって時間管理が出来ていてるようだ。ピッタリ作業が終わっている。俺の方は明日の昼には完成するぐらいだろう。


 ドーコが疲れた様子でやってくる。


「ふーっ! 今日は流石に疲れたねドワルフ」


「あーそうだな。だけどドーコ、何でそんなに疲れるまで作ったんだ? さっきの話からしてもうそんなに作る必要がないと思ったんだが」


「んんーっとほら? お金はいくらあっても足りないしね!」


 何かはぐらかされたな。


「それにしてもすっごい凝ったの作ったねー。ひょっとしてこの装飾全部に魔術的意味があって物凄いマジックアイテムが!」


「いや今回のはそう言うのじゃない」


「なーんだ。つまんないの」


「ドーコはヒューマンの国に行ったことがあったよな?」


「うん。手伝ってくれそうなエルフを探しに何度か行ったことあるよ」


「その時に偉そうな人がこんなフルアーマーを着てなかったか?」


「確かにそう言われればってもしかして……?」


「あぁそのまさかだ。このフルアーマーはそのお偉さん方に売る様に作ったんだよ。実際にそいつらが着てるものを見たことはないがこれなら十分いけるだろ?」


「多分売れないと思うよ」


「どっどうして!? こんなに丹精込めたってのにか?ここの腕の部分とか見てくれよ!」


「いやそう言うことじゃなくて! ここに来る商人じゃ貴重品すぎて、扱えないと思うよ。それこそ商人ギルドマスター直々に見せでもしないと」


「確かに自信作だったがそこまでだったとは。でもこのフルアーマーを持ってヒューマンの国に行くのかー。荷物が増えてしまったな。」


「明日は商人が来るし今日はあるもの全部使って豪華な宴会にしよう! エールも飲み干すよー」


「はいよ。でも俺の方はまだこれは完成してないから酔い潰れない程度にセーブするからな」


「大丈夫大丈夫! ドワルフが酔い潰れることなんて考えられないよ。それより料理するの手伝ってね!」


「あーなんて楽しい宴会ライフだ……」


「なんか今違う意味に聞こえたんだけどー!」


 笑いながら2人で家へと帰っていく。

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