第15話 元いた世界とこの世界

 せっせと料理を2人で作っていく。明日の朝ご飯と昼ご飯の分以外の食材を使うんだから、結構な重労働だ。そう感じるのも無理はないのかもしれない。なんせ俺は【ドワーフの神】持ちだが料理系のスキルを持っているわけではないのだ。


 元の世界で一人暮らしの時だってカップ麺やコンビニ弁当ばかりでろくに包丁を握っていなかった。それに比べてドーコは鍛冶仕事だけでなく家事仕事もテキパキとこなしていく。うーん、ドーコは髭や鍛治技術に惚れると言っていたが俺からすればその料理する姿に惚れそうだ。


「なにぼーっとしてるのドワルフ? もしかして無理が祟った?」


「いやそう言うわけじゃない。ただ調理するの早いなーって見惚れてただけだよ」


「もー! 本当なら鍛冶仕事でそうなる予定だったのにぃ!」


 笑いながら調理を進める。


「「いただきまーす」」


 机の上いっぱいに料理が乗っている。主に肉がメインだがそれでもバリエーションに富んでいる。それにあの伝説のマンガ肉がある! 一目散にそれを手に取り頬張る。美味い! 今まで食べてきたものも美味しかったが、その中でも憧れ補正でより一層美味しく感じる。


「どっどうしたの? なんか凄い泣きそうな顔してるけど、魔法印のことだったら本当にごめんってば」


「いやそうじゃない。一度こう言ったでかい肉を口いっぱいに頬張るのが夢だったんだよ」


「そんな夢だったらいくらでも叶えられるよ。なんていうかドワルフは本当に変わってるね。私のことだって何事もなくすぐに受け入れてくれたし」


「そりゃ俺のいた世界だと髭を伸ばした女性の方が珍しいからな。急いでたからあんまり突っ込まなかったがきっとドワーフの村ドヴァルグでも長居してたらそのこと突っ込んで怒られてたと思うぞ。」


「そういえば私ドワルフの元いた世界について何にも知らないや。良かったら教えてよ!」


「それはいいんだが、その前に1つ気になったことを聞いてもいいか?」


「ん? なになに?」


「ジョブに配信者を入れてない奴はどうやって自分の情報を見るんだ? 俺なんかは不安で毎日見ちゃってるんだが」


「あーそれは簡単だよ。配信者の人に頼めばいいんだよ。そうだドワルフ、私のマイページ教えてよ!」


「いやだからその方法が分からないんだって」


「そっか。聞いた話だとフォロワー一覧からマイページを見たい人を選んで見るんだってさ」


 うーん取り敢えず言われた通りに念じてみるか。フォロワー一覧を表示っと。おぉ確かにドバン、ドーコ、エマが表示されている。それでドーコを選んでマイページ表示っと。


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名前 ドーコ

レベル  16


HP:120/120 MP:0/0


筋 力:148

防御力:58

魔 力:0

精神力:4

敏 捷:15


メインジョブ 鍛冶師

サブジョブ 戦士


スキル なし


ユニークスキル なし


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 本当に見えた。配信者じゃないから当然、視聴者数とフォロワー数の表記はないな。サブジョブに戦士があるためかステータスが載ってるな。戦士なだけあって防御力が高いな。魔力が0っていうのはわかるが精神力って一体なんだ? でも特筆すべきはこの筋力だ。1つだけ桁が違う。もしかして鍛冶師はこんなに筋力が必要なのか?


 スキルはなしか俺と同じだな。ユニークスキルもないが、まぁ持ってる方が珍しいらしいしそんなもんだろ。問題はレベルが俺より下なことだな。これはきっと聞かれると


「ねぇねぇどうだった! 前にレベルを見てもらった時には14だったんだよ、上がってるかな!?」


「おう16に上がってるぞ! 良かったなー!」


「へへへーいざってなったら私がドワルフを守ってあげるんだから! そういえばドワルフのレベルっていくつなの?」


 うーん言いづらいな。


「ほらほら恥ずかしがらなくてもいいからさ!」


「――10」


「今変な間がなかった? 本当のことを言ってよ」


「24だ」


 ……


「にに24!? まだこの世界に来てから一週間も経ってないよね?」


「あーまだ一週間も経ってないのかー。1日は長く感じてもっといる気分だったよ」


「いやいやいや! そこじゃなくてどうしてもうレベルが私よりも上なの!? ひょっとして夜中にあの森ドガボゾの森に行ってたりするんじゃないよね?」


「あんな危険な森にしかも夜1人で向かえるわけないだろ! しかもドワーフの村ドヴァルグが近いし」


「それもそうだよね。でもどうしてそんなにレベルが上がるのが早いんだろう? もしかしてそれも【ドワーフの神】の力?」


「かもなー。いやーユニークスキル様様だよな」


「うぅーズルいズルいズッルーい!」


「まぁまぁ落ち着けって。それより俺の元いた世界について聞きたかったんだろ」


「うーん上手く話を逸らされてるけどそうだね、その話すっごい興味があるんだよ」


「何から話したもんかな。そうだ宴会といえばもっとたくさんの種類の酒があるぞ!」


「そんなのこの世界にもあるよ。ただエールこそが至高だからエールを飲んでるってだけで」


 そうだったのか。初っ端から外してしまったな。


「じゃあ後は料理だ。ここだったらあんまり生物を食べることってできないだろ?」


「近くに川があるからそこで冷やしておけば大丈夫だよ? ほらサラダ作ってくれたじゃない」


「あっ確かに。でっでもその川まで行くのが面倒だとは思わないか? 俺の住んでた世界では冷蔵庫っていうものを冷やすための機械があってだな、そこに入れておけばいつでも新鮮な野菜が保存できるってわけだ」


「別に野菜なんてそんなに食べないし、そこまで興味ないなー」


「じゃあこれはどうだ。俺の世界ではエールに似た飲み物でビールってのがあるんだがそれをキンキンに冷やして飲むと美味いのなんのって! きっとエールも冷やすと美味いんだろうなー」


 さっきの興味なさげな態度はどこに行ったのか、ドーコが身を乗り出して尋ねる。


「ねっねぇそのレイゾーコ? っていうのはどうやって作るの? ドワルフは作れる?」


「待て待て。期待を煽っておいて悪いんだがそもそも冷蔵庫を動かすには電気が必要でって……もしかしたら俺の世界の物とは違うが作れるかもしれない」


 確かにこの世界には電気はないが魔術がある。俺がもし氷魔術を覚えることが出来れば、擬似冷蔵庫を作れるかもしれない。それに家電から発想を得て物を作るのは案外上手くいくかも。


「どうすれば作れるの!? 今からできる?」


「流石に今からは無理だ。憶測だが俺が氷魔術を覚えれたら可能性はあるかもしれない。氷魔術だから多分サファイアに魔術を封じ込めればできるんじゃないかな」


「エール専用マジックアイテムかぁ。今までで1番凄いマジックアイテムになるかも!」


 どれだけエールを愛してるんだ。


「だが1つ問題点がある。俺はまだ氷魔術を使えないからエルフの里に行って教えてもらう必要がある」


「早くエルフの里に行かなきゃ! ほら準備するよ!!」


「気が動転しすぎだろ! まぁ気長に待ってくれ」


「うぅ早くその冷えたエール飲み放題のレイゾーコが欲しいよ」


「他に俺の世界の話かー。大体のものは人じゃなくて機械っていう自動で動く物で作られるんだ。だからこの世界より物で溢れてる」


「へぇーものが溢れるのはいいけど愛がない世界なんだね」


 なんだかそう言われればそんな気もする。


「なぁ今度はこっちの世界について聞かせてくれよ。俺そういえば配信の事しか聞いてなかったや」


 あんなにあった料理がもう半分になっていた。

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