第29話 サブジョブ設定

「長! 流石にオリハルコンを課題にするのは無理があるぜ」


「そうだそうだ長! 大人気ないぞ!」


 ガヤガヤと周りのドワーフ達がドウェインに対して苦情を言う。そこまでに難しいものなのだろうか?


「どうして最終試験がオリハルコンなんだ?」


「それは全鉱物、全素材に適正がある者しか扱えぬと言われているのがオリハルコンだからじゃ。お主が金剛でさえ扱えるのもわかった。ここにある全ての素材を試させてもいいのじゃがそれでは時間が惜しい」


 嘘つけ。商人が来るまで暇なくせに。


「よってこのオリハルコンでドワルフの全ての力を発揮して見てくれんかの?」


 ニヤッと笑いもう勝った気でいるドウェイン。どこまでも腹黒いやつめ。


「全ての力を発揮していいんだな?」


「出来る物ならじゃがな」


 よしじゃあまずはと立ち上がり鉱石がある倉庫へと向かう。


「どっどこへ行くんじゃ? 諦めて出ていくなら出口はそっちじゃ無いぞ」


 誰が諦めて出ていくか! 俺は倉庫の中からエメラルドが無いか探す。マジックアイテムを作らないドワーフでも1つくらい……あったこれを盾にはめ込んで、どんな効果を発生させようか? 攻守一体の竜巻が出る盾か? いやそれより全方位を守るように風のオーラを纏うような感じにしよう。方向性が決まり宝石に魔術を封じ込める。今日はこれ以上MPを使う予定もないのでMP切れ寸前まで使おう。




★   ★   ★




 初めてここまで魔術を込めたから想像以上に時間が掛かったな。よしじゃあ次はオリハルコンと向き合う時だ。


「ドワルフよ。安心せい。そんな長時間言い訳なぞ考えんでもワシは怒ったりせん。ただドーコとの結婚を諦めろ」


 いちいち嫌味な爺さんだな! こんなジジイだって知ってたら守らなかったかも知れないぞ! もしかして冒険者が来なかったのはAランクがいなかったからじゃなくてドウェインの人徳がないからじゃないか?


 とにかくオリハルコンに触れてみる。すると余りの情報量に脳がパンクしそうになった。これは確かに一筋縄では行かなそうだな。さてどうしたものか。火の管理が高温かつ微妙な温度差で一気に一流品じゃなくなってしまう。それに叩く力加減もめいいっぱい叩かなきゃダメだな。流石に今日の体力で作るには少々荷が重い。それにもう大分日が暮れかかっている。


「なぁ明日でもいいかドウェイン?」


「逃げるつもりじゃないじゃろうな?」


「当たり前だ! 何がなんでも認めさせてやる!」


「そういえばこれは何の試練なんだ長? 普通だったら金剛剣が最上級の資格試練だろ?」


「――ドーコとこ結婚じゃ」


「「「えええぇーーー!!!」」」


「そりゃめでてぇ事じゃないか!」


「そうだそうだ。髭が生えてないからドワーフの貰い手は見つからないだろうって長も言ってたじゃねぇか!」


「それにヒューマンにやるのも嫌だって! ドワルフはピッタリじゃねぇか! どうしてオリハルコンなんて難しいもので作らせるんだよ」


「五月蝿い! 例えワシの代で長の家系が途絶え様ともワシも認めた相手にしかドーコはやらんのじゃ!!!」


 なんとも頑固な爺さんだ。


「それにしてもあの髭無しドーコが結婚だなんてな!」


「俺もびっくりだ! 俺はてっきりドーコはエルフと駆け落ちでもするかと思ったぜ」


「それにしたって相手が【ドワーフの神】持ちだなんて凄いな」


「それもそうだな。 長! ドワルフは【ドワーフの神】持ちなんだぜ! 認めればいいじゃねぇか」


「そんなもん誰も配信者のジョブを持ってないんじゃから確認できんじゃろ! 嘘でもなんでも言えるわい!」


「あっそういえばドワーフの村にも冒険者ギルドがあるんだよな?」


「あるが、それがどうかしたか?」


「そうか、ドバン以外は知らないんだったな。俺はメインジョブ配信者でサブジョブがないんだよ。だからギルドで設定できないかなって」


「なっなっなにぃー!?!? お主鍛冶師でもないのにワシの娘と結婚しようとしておったのか!? おいそこの剣を貸せい!」


「落ち着けってドウェイン。俺の剣で俺を切ろうとするんじゃない」


「ふぅふぅじゃあ今日の所はギルドでさっさとサブジョブを決めてこい!!!」


「はいはい」


「はいは1回じゃ!」


 あーこんなやりとりをドーコともしたなーとか考えながら鍛冶場を後にする。


 そういえばギルドの場所を聞いてなかったし戻ろうかと思った時、ドーコがやってきた。


「どう? パパ変なこと試練を言ったりしてない?」


「オリハルコンで盾を作れってさ」


「えぇ!? オリハルコン!? オリハルコンなんてそもそも滅多に市場に出ないのに良くパパ持ってたね。いやそれじゃなくてオリハルコンなんてドワルフ扱えるの? 流石のドワルフでも難しそうに思うけど……」


「そうだなー流石に今日は金剛で3本も剣を作ったからやめておいたんだ」


「金剛で!? それだって十分難しいよ! っていうか3人ぐらいしかできる人いないよ!」


「まぁドーコも初めて会った時金と銅を混ぜたやつ渡してきたけどな」


「それとは比べ物にならないよ!」


「で、とにかく今日はもう鍛冶仕事は休んでギルドに行こうと思ったんだよ。ドーコならどこにあるか場所知ってるか?」


「うん着いてきて!」


 ちゃんと歩けてるしドーコはもう心配ないな。




★   ★   ★




「ちっさいなー」


「ちっさいっていうな! って私のことじゃないか。それはまぁドワーフにとってはそんなに重要じゃないしね」


「でもまた今回みたいな事が起きた事を考えると」


「あんなのイレギュラー中のイレギュラーだよ。あんな天災にいつでも備えてたらキリが無いよ」


 そんなに大変なものだったのか。


「話を聞いたけどそれにしても惜しかったねー」


「何が?」


満月角熊フルムーンホーンベアの盾だよ! あれを持ち帰ってたらギルドで高値で買い取って貰えたのに」


「仕方ないだろ。あそこはあぁしなきゃ俺が死んでた」


「まぁそれもそうだね」


 ギルドのガイドに話しかける。


「ジョブの設定をしたいんだが」


「あーはいはいそれならこの水晶に手を乗せてくれ。そしたら出たジョブを選べばいい」


 うーんこの水晶から魔術を感じるな。もしかして


「これってマジックアイテムだったりするか?」


「おうそりゃそうよ。マジックアイテムでもなきゃジョブを変えるなんて神様でもなきゃ無理だな」


 そんなものなのか。早速手を乗せてみる。


 ……


 何も出ない。鍛冶師はともかく戦士も風魔術師もなにも出ない。


「おい、何も出ないんだが壊れてるんじゃないか?」


「そんなわけないだろ。あれでも何にも出てないな?ドワルフだったら何にでもなれそうなもんだが」


「絶対故障だって! 貸して私も試してみる!」


 ドーコが手を乗せた瞬間、水晶が輝きだし辺りを光が包んだ。


「ドッドワルフ!! 私のジョブ勝手に変わちゃった……」


 どうにも嬉しくなさそうだ。


「どうなったんだ?」


「鍛冶師が無くなっちゃったよぉぉ」


 ドーコから鍛冶師がなくなっただと!? もしかして本当にこの水晶壊れてるんじゃ。そう思いガイドをキッと睨む。


「そっそんな風に睨まないでくれ! 水晶があんな風に光ったことなんて今まで聞いた事が無い!」


「で、ドーコ何のジョブになったんだ?」


「メインジョブが重戦士でサブジョブがなしになっちゃったんだよぉぉ」


「重戦士ってのは戦士のレベルアップ版か何かか?」


「滅多にないジョブだぞ! よかったじゃねぇか」


「良くないよぉぉ。鍛冶が命だったのにこれじゃもう鍛冶ができないよぉぉ」


「朝家事の練習をしたからか?」


 ゴスッ


「言っていい冗談と言ってはいけない冗談があるよ……」


 重戦士になったためか今の1突きがかなり響いた。


「ドーコ。当分は自分の力を調整した方がいいぞ」


 気になったのでドーコのステータスを見る


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名前 ドーコ

レベル  16


HP:300/300 MP:0/0


筋 力:387

防御力:235

魔 力:0

精神力:4

敏 捷:15


メインジョブ 重戦士

サブジョブ なし


スキル 【大斧使い】

ユニークスキル 【ドワーフの神の眷属】


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「おぉドーコいろんな数値が跳ね上がってるぞ!」


「そんな事どうだっていいよ。鍛冶師じゃない私なんて」


「それにユニークスキルが増えてるぞ!」


「どうせ家事の達人とかでしょ。フフ」


「違う違う! 【ドワーフの神の眷属】だ! これがあったらもしかして俺みたいにジョブが無くても鍛冶が出来るかも知れないぞ!!」


「ほっ本当!? 私を喜ばせるための冗談だったら今度はボコボコにするからね! ほらじゃあ鍛冶場に行くよ!」


「ちょっと待て俺のジョブは!?」


「なかったんだからないんでしょ! ほら早く!」


 あー鍛冶師じゃなかったらまた長に怒られるぞ。しかもドーコから鍛冶師を奪ったとかも言われそうだ。


 あーもう勘弁してくれー。

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