第32話 オリハルコンの指輪作り
まだ日が登らない中こっそりと起きる。今日はピチピチで寝苦しいから早く起きた訳じゃない。昨日の計画通りオリハルコンと結晶を使ってドーコへの結婚指輪とネックレスを作るためだ。
朝ごはんも音を立てない様パンだけこっそり取って食べる。まるで泥棒みたいでなんとなく悪い事をしている気分になる。まぁ貴重オリハルコンをこっそり違うことに使うので悪い事と言えば悪い事をする訳だが。
そのまま鍛冶場へ向かい灯りをつけ、まず結晶の方を整えることにする初めての事なので実験に近くにあった普通の結晶をダイヤモンドカットしてみる。
「あーやっぱり【ドワーフの神】は万能だなぁ」
想像通り光に当てると綺麗に反射する結晶が出来た。では今度は本番だ。加工すると意識して持つと先程の物との違いがはっきりとわかった。この結晶は大きくは無い代わりに何かのエネルギーや魔素と言ったものが凝縮された物だとわかる。そういえば魔素って悪い物だったりしないよな?
さっきよりも力を込め、それでいて繊細に削っていく。幸いなことにここにある道具でも頑張れば削れるので良かった。道具から作るとなると、流石に結婚式までに間に合わないだろうからな。
一生懸命ドーコへの想いを込めながら削っていく。この世界に来て早速追放された俺を優しく出迎えてくれたドーコ。鍛冶師として教えてくれたドーコ。いやそばにいてくれたか? そして何よりいつも笑顔で明るいドーコの姿は俺の精神をいつだって支えてくれた。まぁだからこそ呪いが発動した時は血相を変えたんだが。
この世界に来てドーコに会えてなかったらきっと俺は何も出来なかっただろうし、ヒューマンの国でのたれ死んでいただろう。そして結婚も生涯できなかっただろうな。まぁまだそれはできてないが。
★ ★ ★
そんな感謝の念を込めて削り終えると突如結晶が光始めた。
「まぶしっ」
光が止むとそこには魔素が消えより一層綺麗に透き通った結晶になった。何が原因なんだ? もしかしてこの感謝の気持ちが祈りになって結晶にあった魔素を変換して何かに変化したのか?
まぁこの色を見れば悪いものではない事はすぐわかる。それにしても一生懸命想いを込めて削ったので、時間が思ったよりかかってしまった。
もう他の場所から生活音が聞こえ始める。不味い。急いでオリハルコンでリングとネックレスを作らなくては。
オリハルコンに触れる。やはり昨日触れた時と同じで大量の情報が流れ込んでくる。普通のドワーフはこの感覚なしでやってるとしたらそっちの方が凄いのでは? なんて事を思いながら少しだけオリハルコンを溶かす。
結婚指輪なんて前の世界でもニュースの婚約発表で少し見ただけだからなーしかも大体が宝石に目が向いてリングの形状なんて碌に覚えてないぞ。どうしたものか。そういえば指のサイズを……あーなんて便利な【ドワーフの神】でしょうか。触った時の感覚で指のサイズをしっかり覚えてる。じゃあ形状もドワーフ好みのものを想像してっと。具体的な設計図が思い浮かばなくても最適なものができるのが良いところだなーー。
それにしてもオリハルコンは時間がかかるな。これ普通のドワーフじゃ無理じゃないか?後でドウェインに、いやきっと嘘をつくだろうからドーコに聞こう。
★ ★ ★
ふう。何とかリングが出来たな。後はダイヤモンドカットした水晶と組み合わせてっと。はめた瞬間先程の水晶が完成した時以上の光が辺りに広がった。
「なんだなんだ!?」
「爆発でもしたか!?」
周りのドワーフの達が何事かと鍛冶場へとやってきてしまった。俺は咄嗟にその指輪を隠すと光も止んだ。
「いやーオリハルコンをどうしようかなーと火の調整を失敗してなー」
我ながら苦しい言い訳だった。炉の光の強さでは到底なかったからだ。だがそれ以外は何も思いつかなかった。
「それにしたって太陽でも落ちてきたみたいな光だったぞ!」
「いやもしかしたら【ドワーフの神】には火の強さをそこまで高める効果があるのかも知れない」
「確かに【ドワーフの神】ならあり得るな」
なんか勝手に納得してくれてるしそれでいっか。
「そういえば配信を広めてくれてありがとうな! お陰でステータスが表示される様になった」
「まぁ村を救ってくれた英雄の頼みだしな。明日エールが届いたら村全員でドワルフの配信をフォローするぜ」
「あぁそうだな! まだ広めきれてないからな。特に子供たちにも勉強のために見せるのはいいだろうなー」
「子供も宴会でエールを飲むのか?」
「まさか流石にそれはしねぇよ。ジュースかミルクだな」
ちょっと安心した。そういえばドーコって何歳なんだろうか?エールを飲んでるって事は少なくとも成人はしているんだろうが……
「それにしても朝早くからオリハルコンと向き合うとは大層なこって」
「その割にはまだ何も進んでない様だが何してたんだ?」
うっここで正直に言ってもいいのだろうか?
「じっ実はな」
「実はなんじゃ? まさか俺1人では出来ないから手伝ってくれと言うわけではあるまいな? 作業は全然進んでいない様じゃが、これではドーコはやれんなぁ」
間の悪いところでドウェインの登場か。
「そんなこと言うわけがないだろ。実はもう使い方が分かったから配信をつけてオリハルコン講座をしていいかって言おうと思っただけだ」
「ほーう。言うではないか。では配信をつけてその講座とやらを開くといい!!」
なんとか誤魔化せたしセーフか。だがネックレスにする様のチェーンを作れなかったな。今日の深夜にでもこっそり抜け出して作るか?
朝も早かったのにそこまで無理をして耐えられるだろうか?
「そういえばオリハルコンって貴重そうだがこれで全部なのか?」
「ふむ。魔王が現れるまでは市場に流れる事もあったそうじゃが今では殆ど流れる事はないのー。じゃからこれも先代から受け継いだ貴重なオリハルコンなんじゃ。だから扱えないなら無駄にする前に諦めるんじゃな」
「うーん魔王が現れるまでねぇ。ってことはオリハルコンが取れる鉱山が魔王に占拠されたって事か?」
「大体はあっておるの。オリハルコンは獣人の王国近くに取れる鉱山があってな。そこで取ったものを獣人が売っていたそうなんじゃが魔王が現れてから、獣人は魔王側についてしまってな」
ほほう、この世界には獣人もいるのか。だが俺のユニークスキルに獣人系の物はなかったな。まぁキャラ設定の時にその要素は入れてなかったからな。
「ってことは今魔王軍にはオリハルコンの装備が溢れてるってわけか?」
「流石にそんな簡単に取れるものでもないしそれは無いじゃろう。オリハルコンを扱える者となると獣人にも1人か2人くらいしかいないじゃろうし。それに1つの部位を作るのに長い月日が掛かるじゃろうしな」
やっぱりレアなんだなオリハルコンって。
「いやちょっと待てオリハルコンを扱える者が1人や2人なのはいいが、1つの部位を作るのに長い月日だ!?」
「おっと口が滑ってしまったの。別にワシは期限を決めてはおらんぞ。お主が勝手に焦ってるだけじゃ」
「いーや明日結婚発表会って言ったじゃないか! さては初めっから明日結婚発表会をさせる気なんてなかったな!!」
ひゅーひゅーっと吹けない口笛を吹くドウェイン。ドーコもしていた仕草だが苛立ちが違うな。
「いいじゃないか、やってやろうじゃないか。俺の【ドワーフの神】の力とくと見よ!!!」
そう言って配信をつける。タイトルは『1日で出来るオリハルコンの盾作り』だ!
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