第37話 忘れていた物作り

「ふぁーー……」


 久しぶりにゆっくりとした朝だ。このピチピチの服も少し伸びたのかしっかり眠れた。あっそういえば1つ忘れてた!ネックレスのチェーンを作ってない!


「おーいドワルフ! 朝ご飯出来たよー」


 一階から俺を呼ぶドーコの声が聞こえて来る。取り敢えず今は朝ご飯を食べて、すぐさま鍛冶場でチェーンを作るしかないか


「わかったー今降りる」


 一階に降りてみんなで食事を取る。いつもと若干味付けが違う気がする。


「もしかして今日はドーコが朝ご飯を作ったのか?」


「あっバレちゃった? ドワルフ向けにちょっとだけ味付けを薄くしたんだけどどう?」


「かなり俺好みで美味しいよ! ありがとう!」


「ちぃーとばかし味が薄いがこれが好みとは変わっておるの。まぁ不味くはないが」


 ドウェインが茶々をいれる。


「ちゃんとドワーフ向きのも作れるよ! でもやっぱりドワルフが美味しいって言ってくれるのが1番だと思って……」


「ドーコ……」


 ここがご両親の前じゃなかったら抱きしめる所だったがグッと堪えて感謝をもう一度述べる。


「本当にありがとうな! これからの食事がより楽しみになったぞ」


「えへへへー」


「じゃあごちそうさま。ちょっと俺はまだもう一仕事しときたいから行って来る」


「もう一仕事って普段なら休みたがってるドワルフが!?」


「俺が怠け者みたいに言うんじゃない! それに全部無茶なスケジュールで作業入れて来るドーコが悪いだろ!」


 ヒューヒューとならない口笛をふかすドーコ。


「じゃあとりあえず行ってくるから」


「はーい行ってらっしゃーい」


 駆け足気味に鍛冶場へと行き早速チェーン作りを始める。流石にもうオリハルコンは仕舞われているし、ドワーフ鋼で作っていく。もう周りには他のドワーフが既にいて作業を始めていた。バレるなと願いながらチェーンを作っていたがどうにもそう上手くはいかない。


 昨日の大活躍もあり皆が俺の技術を盗みうと視線を向けている。


「なぁ今日は配信しないのか? 他の鍛冶場の奴も気になってるんだぜ?」


「うーんそうだな」

 

 なんといっても誤魔化そうか。


「今はちょっと私用の物を作っていてな。それが終わったら配信をつけようと思ってたんだ」


「そういう物こそ見たいんじゃねぇか! 早くつけてくれよ!」


 ドワーフは配信に興味がないとは何だったのか。その時、鍛冶場のドアが開きドバンがやって来た。


「おードバン! 腕の調子はどうだ?」


「ドワルフにおかげで早く治りそうだ。あー俺も早く治して鍛冶仕事がしてぇよ」


 そういえばドバンのサブジョブは鍛冶師だったな。趣味が鍛冶だったりするんだろうか?


「その前に門番をしっかり務められるようにしなきゃならないがな」


 そう言ってドバンの背中を叩く。


「だからそれをやめろって!」


 ガハハと笑い合う。ドバンがいたお陰で俺はドワーフ全員を嫌いでなくいられた。ドワーフの村で1番信用できるのは間違いなくドバンだろう。


「そうそう何もすることが無いから配信を見ようとのにドワルフが配信してねぇから直接見に来たんだ」


 くっ折角話を変えるチャンスだと思ったのに仕方ない。それにそもそもチェーンを作ったぐらいでバレるもんじゃなく無いか? 何を俺はそんなに恐れていたんだろう。


「わかったよ。じゃあ配信始めるから。えーっと配信タイトルは『趣味の工芸品作り』で良いだろ」


〔お! ようやっと始まったか〕


〔待ってました次期長!〕


〔もっと早くから始めてくれよー〕


 嬉しいことに待機勢がいた。視聴者数のカウンターも既に10人を超えていた。始まった瞬間10人も視聴者がいる事に感動する。


〔ドワルフ:今日は商人が来るまでの間に簡単な工芸品を作るだけだからあんまり期待するなよ〕


 そう言って作りかけていたチェーン作りを再開する。


〔それにしても今作ってるのはチェーンか? チェーンベストって感じの大きさでも無いし〕


〔もしかしてネックレスか?〕


 ギクッこんなすぐ気付くものか? いや流石はドワーフといったところか。


〔それにしてもどうしてネックレスなんて作ってるんだ。ドワルフ?〕


〔ドワルフ:ほらヒューマンの国に行くからな。その時にでも売れそうじゃないか〕


〔そんなもんかねー〕


〔俺たちでネックレスといえば結婚する時ぐらいだしなー〕


〔ドワルフ:どういうことだ?〕


〔ほらドワーフは女も鍛冶仕事するのが珍しくねぇからな。その時に指輪だと色々と不便だろ? だからネックレスにして渡すんだよ〕


 俺だけのアイデアだと思ったのに!! ドワーフの間では常識だったとは……


〔どうした? 手が止まっちまったぞ?〕


〔ドワルフ:あぁーもう知らん知らん! とにかくこのチェーンもただのチェーンじゃなく意味のある装飾を細かく入れていくぞ〕


〔意味ってどんな意味だよ?〕


 しまった完全に墓穴を掘ってしまった。


〔ドワルフ:あぁーもうとにかく大事な意味を込めて作るんだ! これ以上は聞くんじゃない! 見て学んでくれ!!!〕


〔なんだか妙に荒れてるなぁ〕


〔あれか? エール切れか?〕


〔エールが切れてそうなってるならしっかり治療したほうがいいぞ。まだ若いんだからな〕


 なんだか変な心配をされているが、黙々と装飾を施していく。




★   ★   ★




 やっと出来た。ひょっとして指輪より時間がかかったんじゃないか? それにしてもやっぱり朝早く起きてこっそりやるべきだったな。


 あまり朝早く起きなかったこともありもう10時になっていた。ここから何をしようかな。もう今すぐやりたい事なんてないんだが。そんなことを考えているとちょうど


〔ドーコ:シュドさんが来たよー〕


 おぉグッドタイミングだ。みんながゾロゾロと鍛冶場を出て村の門へと向かう。その隙に念のためネックレスに指輪をつけた時違和感なんかがないか確かめてみる。流石【ドワーフの神】といった出来栄えだ。鏡に映ったその姿はバッチリ決まっていた。これならドーコも認めてくれるだろう。


 それにしてもみんなの前で出すってことはオリハルコンを堂々とパクりましたよっていう様なもんだが大丈夫だろうか? 全然そのことを考えてなかった。


〔ドバン:オリハルコンで指輪を作ったのか。オリハルコンは細かいのに向かないのによく作ったな〕


 !? ビックリした。そうだまだ配信切ってねぇ!この際ドバンに聞いてみるか。


〔ドワルフ:なぁ勝手にオリハルコン使ったのってやっぱり不味いかな?〕


〔ドバン:まぁ良くはないだろうが次期長なんだろ? 多少は無理が効くだろ。それに追放されたらまた門まで送ってやるからよ〕


〔ドワルフ:それだけは勘弁願いたい〕


 出遅れたが配信を切り、俺もシュドの元へと向かうどんな馬車が用意されてるんだろうか?

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