第8話 伝説のマジックアイテム製作 その1

 カンカンッ


 今度は俺が起こすためにフライパンとヘラを叩き合わせる。1日目の可愛い仕返しだ。だがドーコはなかなか目を覚さない。仕方ないので揺すって起こす。


「おいドーコ。朝だぞードーコの好きなマジックアイテム作りだぞー」


「んームニャムニャ、まだ5時だよ」


 そう言って急に起き上がったために俺とドーコの顔が急接近する。互いの顔が赤面し急いで顔を離す。


「やっやっぱり私に変な事をするつもりなんだな!というかもうされた!?」


 そう言って衣服がはだけていないか確認している。


「俺は了承も得ずに寝込みを襲う様な真似はしない! もしそんな度胸があったら俺はもっとモテていた筈だ!」


 元いた世界でイケメンだったわけではないのだ。そんな事をする自信は微塵もなかったし、それでせっかく出来た人生初の女友達との関係を台無しにするつもりは更々無い。


「度胸があればモテるってのは分からないんだけど、もしエルフの耳が生えてなかったらドワーフ族だとモテモテだと思うよ。それくらいドワルフの髭は魅力的なんだよ!」


 そんな風に力説されても髭良し悪しなんて分からない。それに俺としてはもっと内面的なものを評価してもらいたい。


「それに鍛冶仕事だって完璧だし……私だって髭が生えてないけど大人の女性なんだよ……」


 それって俺に気があるってことか? いや口に出して聞くのはやめておこう。勘違いだったら恥ずかし過ぎる。決してヘタレでは無い! ここは話を変えることにしよう。


「そっそうだ。今日は俺が朝ごはんを作ったんだぜ。て言ってもオムレツとサラダだけどな」


「こっちの箱に入ってるのは何なの?」


「あーそれは昨日昼ご飯食べずに作業しただろ? だから作業場でも簡単食べれる様にハムサンドを作っておいたんだ」


「ほードワルフって気がきくね。もしかして鍛冶スキルだけじゃなくて家事スキルも持ってるんじゃ無い?」


「上手いこと言いやがってこいつー! まぁこれはスキルとかじゃなくてただドーコより賢いってだけだな」


「もーっそんな意地悪言って!」


 いつもの調子に戻ってきた。正直言って女性経験の少ない俺はあぁいった展開でどうすればいいのかさっぱりわからない。


「「いただきまーす」」


朝食を食べながら今日の予定について考える。


「マジックアイテムかー。とりあえず俺が今使えそうなものは風属性と単純な魔力の注入っぽいな」


「魔力じゃなくて魔術ね」


「魔力と魔術って違うのか?」


「全然違うよ! 魔力はヒューマンが神に祈る精神力から得られる力で、魔術はエルフがMPを使って呪文を唱える術なんだよ」


 確かにエリクサーを作る時脳内で何かを唱えた様な気がする。それにしてもこの世界は魔力と魔術が別なのか。


「でもそれだったらどうして魔力では駄目なんだ?別にそれでも良さそうじゃないか」


「魔力はヒューマンの神に祈らないと発動しないんだよ。それに物質に定着させることが出来ない。それに比べて魔術は呪文を正しく刻めばいつでも発動するんだけど、それには魔術に適したミスリルが必要なんだよ」


「だったらミスリルに俺が魔術を刻めば良いってことか?簡単そうだな」


「それがそう簡単に行かないんだよ。理由は二つあるんだ。まず一つにミスリルの加工が出来るドワーフは存在しないってこと」


「存在しない? どういうことだ? ミスリルって金属だしドワーフでも加工できそうなもんだが」


「正しくいうとドワーフ1人では加工が出来ないんだよ。ミスリルは魔術金属って言われて普通に叩くだけじゃちっとも曲がらないんだ。それを加工するためには魔術を通しながら叩く必要が有るんだよ」


「ってことはエルフの協力が不可欠ってことか。でもそれだったら俺は【エルフの知恵】も持ってる俺なら出来るんじゃないか?」


「確かにその可能性は高いと思うんだけど、そこでもう一つの問題が出てくるんだよ。ミスリルが取れる鉱山はエルフの里近くにあって、しかも魔族に占領されてるんだ。ここからじゃ遠いし魔族が出るから簡単に手に入らないんだよ」


「そうだったのか……」


 話を聞く限り俺の最強装備を作るにはミスリルで作った防具がピッタリな気がしたんだが、その道のりは果てしなく遠そうだ。


「じゃあどうやってマジックアイテムを作るんだよ。現状不可能に近いじゃないか」


「チッチッチ忘れちゃったの? 昨日の話!」


「あーそういえばこのナイフ宝石が埋め込まれていたな」


「そう! 魔術は宝石の中に留めることもできるんだよ! これの技術を応用すればマジックアイテムを作れるはずなんだよ!」


「うーん。だが昨日出来たのは一回切りだったぞ、ほら今だって普通のナイフだし」


「それはそのナイフには実験用の宝石を入れていたからだよ。じゃあさっさと朝ごはん食べて私のコレクションを見に行こうか!」




★   ★   ★




「ここが私の秘蔵宝石コレクションだよ!」


女性が宝石といえばアクセサリーぐらいなものだが、ドーコにはどうやらそういった欲はなさそうだ。


「どうどう? 何か使えそうな宝石はある?」


 確かに色とりどりの宝石があってよりどりみどりなんだが、俺の扱えそうな宝石はっと……


「んーなんとなくだがこのエメラルドとナイフにも入ってた色のついてない宝石だけみたいだな」


「えーこんなにたくさんの種類があるのにそれだけー? 【エルフの知恵】はどうしたんだよー」


「さっきも言ったが、俺が今使えるのは風属性だけなんだってば。他の宝石を試したっていいんだがそれで壊しちまったら勿体無いだろ!」


「うーん確かにそうだけど……じゃあ一個だけルビーでも試してみてよ」


「まぁやってみるが多分無理だからな」


 そう言って俺は宝石に魔術を込める練習をする。その間にドーコはその器となる大斧を作るそうだ。


 ナイフの様に一回だけ発動するものだったら簡単に作ることはできた。そういえば1つ忘れてた。


「なぁドーコ。配信つけてもいいか?」


「いいよー!」


 許可も取れたことだし、配信を始めるタイトルは『マジックアイテム作成中 エルフ募集中』でいっか。 ダメ元でもタイトルにエルフと入れておけばドーコみたいに誰か来るかもしれない。


 そうして俺は宝石に魔術を込めるコツを掴もうと必死に頑張る。ドーコの夢を叶えてやりたいしな

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