第10話 ドワーフの美意識

 今日は朝早く起きたこともあり、日も暮れていない。MPが切れかけただけだし鍛冶仕事でもしようかな?


「なぁドーコ。今って何時だ?今日はもう休もうと思ったんだが、鍛冶の練習してもいいか?」


 ドーコはポケットを探り、簡素な作りの懐中時計を取り出す。


「3時14分だね。別に練習するのは良いけど、全部の素材を使えるのに何をするつもりなの?」


「一つ気になった事があるんだよ。ほらここにある装備って全部細工がないだろ?だから細工の練習をしようかなーっと」


「細工ー? ヒューマンがよくやってるけど、そんなの付けたって装備の強さに関係ないじゃない! それにほらこの大斧みたいに鋭い刃の映り込みが最も美しい細工みたいなものだよ!」


 うーん。どうやらドワーフは機能美にしか興味が無さそうだ。だけどこれから先ヒューマンの国に行ってお金を稼ぐにはそう言った細工が出来る様になった方が装飾品を作る時にも便利なはずだ。


 そういえばドーコの家の家具も作りが簡素だったが、それは鍛冶場に力を入れているだけと思っていたのだが、そもそも細工に興味がなかったのか。となってくるとどうやって細工の良さをドーコに伝えようか。


「そうだなー細工ができる様になると、冒険者だけじゃなく、貴族が物を買ってくれる様になるぞ。そうすれば沢山のお金が俺たちの手に入る。お金が沢山あればそれだけ大量の素材が買えるし、大きな鍛冶場だって作れるぞ!」


「うーん……お金持ちになるのはいいけど、イマイチ魅力を感じないよ……」


「百聞は一見にしかずだ。ドーコさっきの懐中時計借りてもいいか?」


「うん、まぁ良いけど……」


 あまり気乗りしていない様だが、完成品を見せれば納得してくれるだろう。


 あっ1つ問題が思い浮かんだ。ドワーフは細工をしないということは俺の【ドワーフの神】は対応しているのだろうか?


 まぁ大見え切ってしまったしやるしかない。


 幸い小さなノミも一応置いてあったみたいで道具は揃っていた。蓋を取り外し一生懸命【ドワーフの神】に祈りを込めて掘り進めていく。


 ドワーフのイメージである鍛冶のハンマーと剣の紋章を刻んでいく。そして最後にドーコの物という事で花も刻む。どうやら【ドワーフの神】というだけあって鍛冶仕事なら万能らしい。一作目ながらほぼ完璧と言って良いものができた。


 ふと顔を上げるとドーコが興味津々と言った感じに覗き込んでいた。集中していて全く気が付かなかった。


「凄いねー! ヒューマンの細工を見たことはあったけどここまで細かいのは初めて見たよ! デザインも良いし、でもこの花はどうして入れたの?」


「ドーコの事を考えながら作ったからな。ドワーフの技術と可愛らしさっていうイメージだ」


「それって……」


 ドーコが顔を赤らめる。ついつい気が緩んで可愛いと言ってしまった。あんまり言って気持ち悪いと思われては最悪だ。だが、毎回怒るわけでもなく顔を紅潮させるだけだしひょっとして脈ありなのか? だがもう一歩を踏み出す勇気が俺にはない!!! 意気地なしとでも何でも言うがいい。今の心地よい関係を崩す事はしたくないのだ。


「それでどうだ。ちょっとは細工に興味は湧いたか? 今は材料がないがそこの溝とかに黒入れすればもっと映えるものになるぞ?」


「うっうん。確かに興味出てきたかも! 私にもコツとか教えてよ!」


「そうだなー。それは【ドワーフの神】があったから出来たけど、ドーコにそれが出来るかというと分からんな」


「えーー!? そんな無責任なぁ。 【ドワーフの神】っていうならその教えを伝えるのもスキルに含まれてるんじゃないの?」


 ふむ、確かに一理ある。神とまで名前についているんだ。導く力があってもおかしくはない。


「とりあえずドーコ作業を始めてみてくれないか? 教えられそうなら教えてみるよ。それにしても何に細工を入れようかな」


「この大斧が良い! 初めて出来たマジックアイテムなんだもん! それにあんな風にかっこいい細工がついたら更に価値が上がりそう!」


 お気に入りのマジックアイテムにするなんて、すっかり細工の虜だな。それにしてもこれではどちらが師匠かもう分からないな。


「よーし。ドワルフに負けないくらいすっごい細工するんだからね!」




★   ★   ★




「ふーっ出来たーーー!!!」


 ドーコの作った細工は機能美を損なわない様気を使いつつも全体的に斬撃のイメージを取り入れた物になった。


「念のため使い心地が悪くなってないか試してみるね」


「そうだな。まぁ俺もしっかり見てたしおかしなことにはなってないと思うが」


 そう言ってさっき試し切りした場所へと向かう。


「それじゃあ早速っと、オリャ!」


 ザザザシュッ


 物凄い音と共に木が薙ぎ倒されていく。どう見ても昼とは威力が段違いだ。


「え!? どうして? ドワルフもしかして私が細工している間に魔術を込めたりしたの?」


「そんなことできるわけないだろ。方時も目を離さなかったし、何より俺のMPはもう尽きかけなんだぞ」


「じゃじゃあこれはどういうこと?」


「生憎俺はマジックアイテムは専門外だ。明日エマにでも聞いてみよう。もしかしたら何か知ってるかもしれない。あいつ暇そうだったし、きっとまた見にくるだろう」


「うーん、今からでも解明したいのにー! 仕方ないかぁ。私1人で今は考えておくよ」


 とりあえず俺たちは切った木を運んで明日に備える。細工作業に思ったより時間が掛かりまた日暮れになってしまった。


 明日はまた宝石魔術の作業だ。そういえばエマにMPについて聞き忘れていた、寝て起きたら回復するものだったら良いが。念のため今日は早く寝よう。


「なぁドーコ。今日は宴会を無しにして早く寝ないか?」


「えーーー!? 今日はマジックアイテムが出来た記念すべき日なんだよ!? それを祝わないなんてあり得ないよ!!!」


「俺はこの世界に来てからずっと宴会続きなんだぞ。1日くらい休肝日があったって」


「ドワーフに休肝日はないよ!」


「明日MP不足で宝石魔術出来なくても知らないからな!」


「うっ……でもそんなに急ぐ必要も無いしゆっくり作っていこうよ。エマさんも急がなくて良いって言ってたし」


 そうは言ってもあまり人を待たせるのは気が引けるのだが、まぁドーコの長年の夢が叶ったんだ。仕方ない俺が折れるか。


「わかったわかった。じゃあ今日も飲もう! どうなっても知らないからな!!!」


 あぁ今日の夜も長そうだ。

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