第10話 同じテーブルを囲めばマブダチらしい。(女子限定。)
レティシアとユーリがデザートのイチゴサンデーを二口程口に入れたところで、レティシアの後ろからSランク冒険者のユーフォリアが話しかけていた。
ミルクは貴重ではあるのだが、本日レティシアが買い取りをしてもらったものの中には、牛の乳と山羊の乳もあった。
急ごしらえでも商品にして直ぐに出してしまうギルド内食堂は逞しい。
値段はそれなりにするが、金銭は先程大量に得ているためレティシアもユーリも出し惜しみはしない。
デザートは別腹というのは冒険者の間にも通用する言葉となっており、ステーキセットを食べた二人も例に漏れなかった。
「そうだと言ったらどうなのでしょう?」
レティシアはスプーンを一度置いて問いに答えた。
「とても美味だったのでお礼をと思いまして。デザートは心のオアシスですから。」
先程の乱闘の時とは違い、丁寧な言葉で話すユーフォリア。
☆ ☆ ☆
「ソロでSランクまで昇るのは大変ではありませんでしたか?」
ユーフォリアはレティシア達のテーブルに相席して、同じようにイチゴサンデーを食べながら談笑に耽っていた。
レティシアはSランクまでソロで昇りつめたユーフォリアを素直に尊敬している。
「そうでもないよ。全てを自分で決めるというのは、自由でもあるけど不自由でもあるんだ。」
先程は丁寧な言葉を紡いでいたが、意気投合した今となっては砕けた口調となっていた。
これが素のユーフォリアなのだろう。
一人での冒険では、「お前ならどうする?」のような問いかけすら出来ない。
自問自答は出来るかもしれないが、それは端から見ればただの独り言。
誰もいないところで一人会話をしていれば、それは怪しい人でしかない。
突如、「バァン!」と簡易的に補修したギルドの扉が開け放たれる。
扉は再び壊れてしまい、上側のヒンジが外れ扉はぷらんぷらんと不規則な動きをした後に外れて落下していた。
「大変だっ、救援要請を頼むっ。」
一人の男が傷だらけかつ泥だらけの恰好でギルド内に走り込んできていた。
命からがらといった様子でギルドの受付に向かって一目散に走っていった。
「何かしら?」
レティシアがさくっと苺をフォークに指して尋ねた。
「大方仲間が魔物に襲われて死にそうだとか、罠にはまって抜け出せないとかじゃない?」
さして気に留める事もなくユーフォリアは返した。
冒険者をしていれば強敵にやられたり、敵対する冒険者や盗賊なのど罠にかかって身動き取れなくなる事は稀にある。
「南東の森にっ……」
流石に全ての言葉を聞き取る事は出来ないが、レティシアは南東の森という言葉を聞き逃さなかった。
この街から南東の森に近い門は、自らが構えようとしている工房が最も近い。
南東の森に何かあるのだとすれば、放っておいていいものかと考えていた。
やがて話を聞いた受付は一度ギルドの奥へと姿を消した。
マスターにでも相談に行くのだろう。
10分もしない内に新たな紙を手に戻ってきた受付嬢は、「緊急依頼ですっ」と言い、ギルド内にある依頼ボードへとその紙を貼り付けた。
数人の冒険者達がその新たな依頼票を見ては溜息交じりに離れていく。
その繰り返しでのべ20人以上がその依頼をスルーしていた。
「割に合わない内容だったのでしょうか。」
ユーリはボードの方を向いて話した。
その後さくっと次の苺にフォークを刺して。
「でしょうね。もしくは抑依頼を受けられるレベル(ランク)ではなかったかでしょう。」
苺を飲み込んでレティシアは答える。口の端にクリームがついていたのだが、ユーリもユーフォリアも流していた。
「両方というのもあるかもね。それに年齢縛りとか性別縛りとかもあったりするからね。」
ユーフォリアは流石にSランク、つまりは大先輩のため正面以外からの物事の見方をしていた。
空になったイチゴサンデーの容器を見ながら何かを考える素振りをしている。
「さて……」
レティシアは立ち上がり、人のはけた依頼票の元へと足を運ぶ。
「食後の運動したいと思いません?」
レティシアはユーリに向かって尋ねた。
ユーリはレティシアの元に向かうと、人差し指をレティシアの唇横に持っていき、先程から気になってはいたクリームを掬う。
その様子を見ていたユーフォリアは、先程までレティシアの口元にイチゴサンデーのクリームがくっついていた事を思い出した。
そして「てぇてぇなぁ。」と心の中で感じていた。
掬ったクリームをぺろっと舌を出して自らの口に運ぶユーリだった。
「美味しい。」
少しだけいつものユーリが戻りつつあった。
そしてユーリは新たに張り出された依頼を確認する。
その横ではユーフォリアも依頼票を覗いていた。
「私達じゃ無理ですね。あくまで私達では。」
新たに張り出された依頼票の募集条件は……
個人Aランク以上、またはパーティランクA以上のどちらかの資格を有する者。
それはCランクであるレティシアやユーリでは不可能を表していた。
先程散っていった冒険者達もCランクやDランクが殆どでBランクもいたが、恐らくは割に合わないと判断したのだろう。
南東の森に現れたエルダートレントの討伐と、生存者がいた場合の救出。
エルダートレントは相性の合う技や魔法を持っていればBランクパーティでもどうにか対処できる。
しかし標準討伐推奨ランクはAランクではある。
レティシアの空間収納にはエルダートレントの素材がある。
それはつまり倒せる実力はあるという事。
しかしそれはユータに振られた件のダンジョン内での事なので、非公式であり非公認の事ではあった。
実力があっても資格がない。世知辛いといえなくもないがそれもまた仕方がない。
「上手い事いけば、細かい場所にもよるけど私の個人持ち出来る土地にならないかなと思ったんだけどな。」
地図に件の魔物の存在場所は記載されている。
街からそう離れていない。
街の外壁からエルダートレントの場所までの森を自分のモノに出来ないかとレティシアは考えていた。
「牧場か農園にもってこいかと思ったんだけどな。」
再びレティシアは願望を漏らした。
【依頼内容】
南東の森に出現したエルダートレントの討伐。
ただし、過去からの依頼で討伐に向かった冒険者パーティ4つが帰らぬ人となっているためランク制限を設ける。
個人Aランク以上、またはパーティランクA以上のどちらかの資格を有する者。
討伐報酬:金貨1000枚 生存者の救出一人につき金貨10枚、遺品の持ち帰り:遺族と要相談
「生存者というか帰還者がさっきの男一人じゃぁ、この内容も仕方ないかもね。」
ユーフォリアは興味なさそうに呟いた。
「私達じゃ資格的に無理だけど……」
「そうですね。私達じゃ無理ですが……」
レティシアとユーリがニヤソとユーフォリアの方を向いて怪しい微笑を発した。
「ん?」
きょとんとした表情のユーフォリアは、「どゆこと?」と視線で訴えている。
「ユーフィーが受諾して、私達がヤってしまえば良くないですか?」
ユーフィーは後ろで見てるだけで良いので、と付け加えた。
その時のレティシアの顔は、表情はとめも貴族令嬢のものではなく、悪だくみを考えた時の悪ガキのような表情だった。
そしていつの間にか、ユーフォリアの相性がユーフィーに決まっていた。
―――――――――――――――――――――――――
後書きです。
なんだかんだでシアは行くんだろ?と
次回明らかに。
ニヤソは誤字ではありません。2000年代のヲタであれば一度は使った事があるのではないかと。
次回、少し可哀想な出来事あり。
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