第23話 店員募集しようとしたらいつの間にか増えてました。
日は変わり、レティシアは愉快な従業員達と共にシアのアトリエを運営していた。
怒涛のオープン3日を乗り切り、価格はレティシアが決めた推定適正価格で販売となっているにも関わらず客足は途絶えない。
ポーションの価格と効き目は冒険者達に大人気であり、今までは高価で手が出なかった一般家庭にまで行き渡る。
安価で効果が高ければこぞって買いに来るのも当然ではあった。
薬師ギルドもこれに倣い値段を下げてはいるものの客足はあまり戻っていない。
そろそろ薬師ギルドからの嫌がらせでも始まりそうな時期ではあった。
真の売り上げ筋はピンク色のポーションなのだが効果の程は……
効果の都合上こちらはどこの誰に売ったかの記録は取っている。
犯罪に繋がった場合、作り手売り手にも罰がくる恐れが高いと踏んだからだ。
客には内緒だが、ロットナンバーが記載されており、誰に何番の商品を売ったかというのは把握している。
もっとも、あくまで保険のために記録を残すのであって、個人情報を使って悪さをするものではない事は説明済である。
説明に納得・押印したものにしか販売はしていない。
物が物だけに金額も高めなので、どの道購入者はある程度の富裕層に限られてくる。
どこぞのマダム・オークキングが上客だと言うのは他言は出来ない。
「やっぱり人手が足りないかなぁ。」
レティシアはぽろっと漏らす。
今の所盗難や脅しといった悪い方の事件は起こっていない。
連日客でごった返し、売り上げはかなり多くの成果をあげている。
「ギルドに声をかけてみますか?」
ユーリが進言する。
しかしギルドで店員募集をすると殺到しそうだとも思っていた。
「とりあえず相談は必要かな。午後付き合って。」
「あ、ハイ。」
レティシアの言葉は一緒にギルドに行こうという意味だったのだが、ユーリは真っ赤になって答えた。
勝手に勘違いをしているのだが、その様子を見ていたメイには微笑ましい光景にしか映っていない。
午後の来客も一時落ち着いたのか、メイとラッテの二人で足りるかなと判断できるくらいにはゆとりが出来ていた。
「ギルドに店員募集の相談に行ってくる。店番よろしくね。留守番のお駄賃は冷蔵庫にあるチーズケーキで。」
これを見越したわけではないけれど、休憩時ようのおやつに昨晩チーズケーキを作っていた。
乳製品が手に入り辛いこの街においてケーキは至高の贅沢の一つである。
「お姉さまと一緒にお出掛けもしたいけど、チーズケーキも捨て難い。う~ん……」
「お嬢様、私が甘いものに釣られると?」
「メイ、その涎は早く拭きなさい。」
レティシアとユーリは冒険者ギルドに向かった。
ババンッキィィとギルドの扉は開く。
「あ、カルナさんいいところに。」
「あ、レティシアさんいいところに。」
二人の言葉が重なった。
何度目かの修理で何度も新しくなっている扉。
開けるとお互いに姿が当然見えるのだが、カウンターに近付いた所で同時に声を挙げる事になった。
カルナから話しかける。本来はギルド側は受け手に回るのが礼節なのだが、急を要したのだろう。
「ギルドマスターがレティシアさんが来たら応接室に通してくれと言伝を承ております。差し支えなければ応接室へ伺って貰ってよろしいですか?」
レティシアとユーリはその言葉に頷いた。
応接室に案内をされるレティシアとユーリ。
差し出されたクッキーと紅茶を嗜みながらマスターの到着を待つ。
「美味しいね、これ。」
「そうですね。」
お茶菓子は半分以上なくなっていた。
遠慮とは程遠い、甘いものには目がない女子二人。
この様子だけ見ると、レティシアが貴族の令嬢だなんて誰も思わないだろう。
5分も経過すると漸く部屋の扉が開いた。
「おう、待たせたな。」
ギルドマスター、こんな性格だったか?と思ったレティシアだったが、以前会った時に大声で自分の名前を叫んでいた事を思い出した。
「レディを待たせるなんて失礼ですわね。」
「私も一応レディなのだが。それこそ失礼だな。」
はいはいそうですねと案内を薦めるカルナ。
「さて、来てもらったのは外でもない。お前が救出した彼女らなんだが……」
救出したというところで、先日のエルダートレントの被害者の5人という事は窺える。
「再就職先にお前の役に立ちたいと言って冒険者に戻ろうとはしないのだ。」
全員CランクやDランクのため、ある意味お金は稼げて経験もつめて美味しい時期だというのにとマスターは言う。
「生存者5名の女性冒険者なのだが、有能だと思うぞ。それと……全員美人だ。」
「レティシアよ、最近始めた店で働ける人材が欲しいのだろう?部下に行かせたから多忙なのは知っている。今日来訪したのも店員募集等なんだろう?」
レイコ・ヤソジマは流石ギルドマスターといったところか。
市井の情勢を知る能力にも長けていた。
もっとも、レティシアに何かを感じていたため、特に気を配っていたというのもあるかもしれない。
「深く考えないで良いなら楽で良いけれど、面接しても良い?」
5人の女性が応接室に入室し横一列に整列した。
その立ち姿は全員が洗礼された美しさを保っていた。
レティシアは鑑定を発動する。
顔と名前と胸と足を確認する前に、天職を確認していた。
ボディガードの一人くらいは必要と考えているが、全員が脳筋や戦闘メインでも店は回せない。
裁縫師、整理員、料理人、応援団(チアガール)、人形師
料理人に爆弾が付いてなくて良かったと思うレティシアだった。
爆弾料理とは、とても人が食べられない料理の事。
端的に言えば炭になった料理や普通の食材を使ったのにも関わらずゲテモノ料理にしてしまう事を指す。
砂糖と塩を間違える程度の次元ではないという事だ。
裁縫師は主に布系の創作を任せる事が出来る。
整理員は列整理はもちろん整理整頓も卒なくこなす事が出来る。
料理人は従業員の賄いを作る事が出来るし、将来飲食店を行う際に調理を任せる事が出来る。
ついでに整理員が給仕を行う事が出来る。これはラッテの看板娘とセットで任せられる。
応援団はどうだろう?悩み相談室でも作るとか?
人形師は自らが製作した人形で戦ったり作業させたり出来るが、究極的には人を操る事が出来る。
もちろん自分自身を操って何かをする事も可能だったりもする。
しかしレティシアは知っている。
これら一見戦闘に関係のない天職ではあるが、応用を聞かせれば戦闘職などよりもよほど戦えると。
例えば裁縫、魔物を地面に縫い付ける事が出来る。
例えば整理、魔物を一ヶ所に集める事が出来る。
例えば料理、魔物を文字通り料理する事が出来る。
それらに気付かない人しかいないため当の本人ですら応用する事が出来ない。
発想の転換さえ出来れば、戦闘しか出来ない人より多用な能力者と成り得る。
ただし、料理人はそれに少し気付いていた節がある。
遠征時の口癖が「食べ物が集まってきた。」だそうだ。
そして、全員の胸と足を確認して採用を確たるものに固めた。
「全員採用!」
レティシアはお店の制服をデザインしないとなと内心考え始めていた。
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