第5話 家族会議とシアの希望と最〇の影
「戦争だーーーー!!」×たくさん
レティシアの話を聞いたフラベル家の面々は右手を突き上げ皆同じ言葉を叫んだ。
双子どころかいくつ子なんだよという程に声を重ねて。
レティシアが周囲を見渡すと、使用人までもが拳を小さく握って力が入っているのがわかる。
フラベル家は総じて脳筋であった。
ただし、頭の切れる脳筋ももちろん存在するのだが、今は家族であるレティシアとその親友ユーリの境遇を聞き、感情が高ぶっていた。
ドンッと父であるレオナルドが拳をテーブルに叩きつけると、その箇所を起点にテーブルに稲妻のような亀裂が入っていき……
パッカーンとテーブルが真っ二つに裂けた。
「ちょ、ぱぱん物に当たったらいけませんよ。」
もう遅いですけどと、イリスが続けて言った。
15分後、使用人が新しいテーブルと茶を配置し仕切り直しを図った。
そして娘達の注意により冷静に話の続き聞くよう促す。
「彼が3年前から不義を行っていたというけれど、相手の嬢はどこのアリシアさんだい?」
長兄・ライティースが優しく問いかける。
その微笑の裏には明らかな怒りもあるのだが、上手く隠していた。
アリシア・ポートマン。正確にはアリシア・ジェニュイン・ポートマン。
魔法都市の中にある一つの街を収めているジェニュイン男爵家の三女。
学園時代はともかく、冒険者としてパーティを組んでいた頃にはお嬢様らしさはあまり見せてはいなかった。
レティシアは思い返してみると、アリシアはことあるごとにユータの傍で酒場の女店員みたいに媚びを売っていたなと思い出した。
その姿や態度は御令嬢とはかけ離れているなと、今ならはっきりと言えた。
ジェニュイン家といえば、代々魔法研究所等魔法に関する組織に準ずる機関に所属する家系である。
理屈は完全に解明されてはいないが、同系統同士の天職を掛け合わせると親の天職の因子を継ぎ易い傾向にある。
長女と次女は既に嫁に出ており、長兄が継いでいた。
そのためジェニュインの家系はかなり遡れば別であるが、戦士系の血は殆ど入っていない。
しかし唯一無二と呼ばれる天職にはその限りにない。
突然変異と、その瞬間に同じ天職が存在しない事だけが現状わかっている。
天職系譜について研究している機関も存在している。
現状判明している事も、そういった期間の研究があればこそであった。
そんなジェニュイン家の三女・アリシアが自由にしていられるのも、三女という立場がそうさせていた。
後継は決まっており、姉達もまた嫁いでいる事から、かなり自由に育てられていた。
魔法に関する天職が得られれば、良い職なり嫁ぎ先なりは家が用意してくれるのだから尚一層である。
その結果、得られた天職が大魔導士となれば、戦争でも対魔物戦でも有用なものになる。
そこに、勇者のパーティメンバーとして同行するとなれば、家としても力を入れたり後押しをしたりとするのは仕方がないかもしれない。
元来ユータとレティシアの婚約は王家も認めているものだった。
公の婚約である。婚約を認めたのが当人達が幼少時期であっても、王家もフラベル家の利用価値は理解しているため、対魔族に対する有効手段だと期待もしていた。
フラベル家は対魔族においてなくてはならない存在。国としての常識である。
ただし、こうした婚約ではあるが、当人同士の納得による白紙は認めるともなっていた。
しかし名目上そのようになってはいるけれど、過去にそれを行使した者はいない。
当然王家も二人が婚約を破棄する事が起きるなんて想像もしていない。
「ジェニュイン家か。魔法系特化の家系か。」
レオナルドが呟く。
「学園時代、対抗戦であやつの放った魔法を殴り返した事があったな。」
レオナルドは続けて言った。
あやつとは現ジェニュイン家当主トニービンを指す。
「シアはどうしたい?先程は戦争だなんて言ったけれどそれは最終手段だ。とりあえず書状を送るか。王家とフォルセティ公爵の所にも送ろうか。」
「反応次第では……独立するのも吝かではない。」
いち貴族として許される事ではないのだが、力を持つとなれば話は別だ。
政治をもぶち壊すパワーを持っている。
正直聖女の事がなくても、フラベルは国の境を守る要所であるため、国にとっては重要な位置づけである。
王国としては勇者と聖女が一緒になる事で、対魔族に対する有力な戦力を要所に配置出来る。
そのために様々な支援を行ってもいる。
独立に関しては本気では考えていない。
いち領だからこそ成り立っているわけで、国として運営していける程政治は甘くない。
ただ、盾にして交渉する事は出来る。
「大額の慰謝料か断絶かの二択で良いか?」
レオナルドは告げた。
「どちらでも構いません。どのみち家同士、領同士の関係は悪くなるのでしょうし。」
レティシアはもう割り切っていた。家の長ではないし、この後の事を考えたら関係もなくなるだろうと考えていた。
「ぱ……お父様。解決しましたらやりたい事がございますの。」
丁寧な言葉で話すレティシアが妙に不気味だなと感じるメイドのメイであった。
「このユーリと一緒に魔法具屋とか武具屋とかを営んでみたいの。」
ユーリは聞いてないよと顔で訴えていた。
「あら、じゃぁ私の商会を利用したりもするのかしら。」
長姉・イリスが微笑みながら話しかけてくる。
「それにしてもフラベル家最強にして最恐を振るなんて馬鹿だね。子供の頃はあんなにも喜んでいたのに。」
魔族と何代にも渡って小競り合いを続けてるフラベル家が、王家の軍よりも強いのは平民であっても知っている。
「じゃぁ店舗と工房と土地は任せてくれ。場所はシアの希望を聞こう。」
レオナルドはレティシアに希望を確認してくる。
「人があまり多くない場所が良いですね。地図を確認させてください。空地を確認しますので。あぁぱぱん、安心してください。屋敷からは離れた場所にはしませんので。」
ついにはレティシアもぱぱん呼びになっていた。
「あぁ、それならば店舗や工房の建設には西方無敵様に依頼しなくちゃですね。彼の土木の技術は世界一ですからね。」
お店をやりたいと言ったら勝手にとんとん拍子に話が進んでいく。
レティシアはこの調子だとスローライフは夢のまた夢かなと想像していた。
その後地図を確認し、レティシアは都合の良い空地を見繕った。
「い、いかん。確かに屋敷から離れてはいないが、外壁に近いではないか。もし敵が攻めてきたら狙われてしまうではないか。」
ぱぱんことレオナルドの口調は既に父親のものに変わっていた。
レティシアが指した場所は、外壁からほど近く、門の一つも近い。
外からの来訪者がすぐ近くを通る。
「人が買い物する時ってどんな場所だと思います?最初に見た物が物珍しければ、そこでいくつか買って行こうと思うのではないでしょうか。」
「よく吟味してから買い物する性格ならばその限りではないのでしょうけど、人間最初のインパクトは大事だと思いますの。」
それに門が近いという事は、自らが外に採取に行くのも容易だという事でもある。
「いや、それはわかる。しかしだな……その門は魔物が良く出る森の近くじゃないか。人の出入りも警備兵などが良く使う場所じゃないか。」
レオナルドの言う通り、近くには兵舎や訓練場もあった。
もっとも、それらの施設は東西南北全ての門の近くにあるのだが。
「ぱぱん……お願い。」
その笑顔は本当の聖女そのものであった。
そして「よし分かった!」とレオナルドは快く折れた。
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後書きです。
伝説の土木作業員西方無敵。
きっと良い店舗が出来上がるでしょう。
聖女の何でも屋(仮)オープン予定です。
まだ何でお店をやりたいか語ってませんけどね。
書状が届いたら王家はどんな対応とるでしょうね。
勇者とフラベル家、天秤にかけたらどちらに傾くか。
魔族や魔物の恐ろしさが描かれてないと判断出来ませんけど。
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