第31話 ユータ達のその後③

 「その二人がが新メンバー候補?」


 「片方はフードを被っていて性別すらわからないんだけど。信用出来るの?」

 ユータがユーグに問いかけ、アリシアがユーグに不安を投げかけた。


 「あぁ、は信用はともかく信頼は出来る。」

 ユーグは返答した。

 面接の際に、彼女の能力は当然聞かされている。

 回復とバフ・デバフが使えるとの事。

 自身も片手剣を使っての戦闘も可能との事だった。


 もう一人は耳の後ろまで伸ばした国王と同じ黒い髪の少女。

 本人曰く天職は星屑の射手だと言う。

 命中精度はそこらの熟練の射手よりも高いとユーグは面接時に聞いている。

 200メートル離れた的に当てるというので試したが、10本放って10本とも命中させている。


 ユータは勇者の能力を使って鑑定を試みる。


 アイラ・ミラ・ライラ、女、20歳、天職:魔法剣士、157cm 43kg、B:77、W:57、H80 処女……

 勇者の鑑定も聖女の鑑定同様、通常の鑑定より細かく視る事が出来る。

 正規の教会で天啓を告げる司祭達の立場は正直ない。



 ノルン・アヴィラージュ、女、15歳、天職:星屑の射手、154cm 39kg、B76、W:57、H78 処女……

 勇者の詳細鑑定でも使える魔法やスキルの詳細まではわからない。

 名前だけは視えるのだが、ここでは二人共多過ぎるため割愛している。


 しかしスリーサイズや性交の回数なんてプライベートの侵害も良い所だ。

 

 「勇者君、貴方今視たでしょ。」



 「あぁ、断りも入れずに視たのは謝る。申し訳ない。だが、新メンバーになるかもしれないのだから能力を知りたいのは理解して欲しい。」

 謙虚に謝罪しているが、やってることは盗撮がバレて言い訳をしている者と変わらない。


 「先に断りを入れれば素直に良いよと言ったんだけどね。」

 減点1だよ……とアイラは心の中で呟いた。



 「それで試験とパーティの連携のために、中ランクのクエストを受注しようと思うのだけれど、どうだろう?」

 ユータが続いて提案をする。

 能力が高くても連携が取れなければ、痛い目を見るのはパーティ全体だ。

 ユータが珍しくもまともな事を言っていた。


 これまではレティシアの拳一つあれば殆どカタが付いていたので、斥候云々を除き連携はイマイチの勇者パーティ。

 

 「ユーグの偵察次第にもなるが基本的な行動は決めておこう。」

 「まずは前衛の盾となる職がいない以上、ノルンが矢で牽制、もちろん敵に当ててもいいがヘイトを稼ぎ過ぎない程度で頼む。」

 「そして俺が前で攻撃を受けたり流したりとヘイトを集める。その間にアリシアが魔法を構築、アイラは怪我を負った者に順次回復、またバフを掛けてくれ。」

 「ユーグは矢の的にならないよう牽制に参加。遊撃とも言うが、掻き回して欲しい。」


 「魔法が効かない相手の場合、アリシアが空いてしまうけど、アイテムなどで牽制や回復に当たって欲しい。」


 基本的にはアリシアの魔法ありきの作戦のため、マジックポーションの類は大目に用意してある。

 勇者にも空間収納はあるので普段はそこに保管してある。


 レティシア達と組んでいる時にはほとんど使ってはいなかった。

 正確にはアリシアとプレイの時に使う大人のグッズばかりが入っており、誤って戦闘中に出さないよう普段は使う事がなかった。

 


 ユータが受注してきたのは、ベルンスト領内にあるファボット鉱山に現れたサイクロプスを討伐して欲しいという依頼だった。

 サイクロプスは一つ目の巨人であり、背丈は3メートルとも4メートルとも言われている。


 Cランク冒険者が人数を集めきっちり役目をこなせば一人も欠ける事なく討伐出来る程度の強さである。

 魔物をランク付けするならCランクと言ったところか。


 


 一番後ろを行くアイラは前を行く3人を見て思った。

 「馬鹿な勇者達……」


 連携を見るためであればもう1ランク下の依頼を受けるべきである。

 アイラは思わず悪態をついてしまうのも納得である。


 たなびく風によって一瞬フードがずれる。

 フードの先から微かに現れた橙色の髪が、太陽の光を吸収し一層輝きを増していた。


 ファボット鉱山の5合目まで勇者の転移で移動した。

 

 「それじゃぁ、ユーグは先行して出現ポイントまで偵察を頼む。もしかすると鉱山で働いている人に出くわすかもしれない、そこも注意して。民間人がやられそうだったら信号弾を出してくれ。」

 ユータはユーグに指示を出した。

 忍者たるユーグが偵察をするのは当然の事。

 そして鉱山なのだから採掘しているのは当然。


 しかしサイクロプス発見情報が出てからは、討伐されるまでは5合目以降は禁止とされている。


 それを無視して作業をする者がいないとは限らない。

 ユータはそれを懸念していた。


 暫くするとユーグが戻って来る。


 「ユータ、この先300メートルの所に奴はいた。周囲に人の気配はない。」

 「それと、奴と交戦した時に使えるよう、いくつか地面に仕掛けを施しておいた。」


 「ありがとう、目印もいつもの花丸だな?」

 ユーグは頷いた。


 「その仕掛けってどんな?」

 アイラは疑問に思い仕掛けについて尋ねた。

 即席のパーティなのだ、知らない事を知らないままにすれば痛い目をみる。


 「踏んだら小爆発を起こすマジックアイテムさ。」

 それで足にダメージを与えられれば動きを止める事が出来る。

 場合によっては膝をつく事になる。


 「ふ~ん。地雷みたいなものか。」

 アイラは納得した。



 ユーグの説明通り、サイクロプスは先程の地点から約300メートルの地点に存在していた。

 何か変な動きをしているな、それがユータ達の率直な感想だった。

 いや、それは人間側から見た視点での話だ。


 サイクロプスは両腕を頭の後ろに置き、直立姿勢から膝を折り、しゃがみきる寸前でまた直立姿勢に戻る。

 それを繰り返していた。


 「サイクロプスがスクワット?ナニコレ超ウケるんだけど。」

 アイラが小声で呟いているが、誰の耳にも入ってはいなかった。




 「それじゃぁ、作戦通り行こう。アイラ、バフを頼む。」


 「じゃぁ、後は頑張って。怪我をしたら癒してあげるから。」 

 そう言ってアイラは前衛で盾となりヘイトを稼ぐユータに、回避・速度(行動と反応)上昇・防御上昇を掛けた。

 仮にも勇者なのだから、負ける事はないだろう、アイラはそう考えていた。


 「それじゃぁノルンにも疲弊減少、精神力向上、後は……ラブ注入。」

 アイラのバフは適確だった。

 弓矢を使用するノルンの命中精度は凄まじいと聞いたアイラ。

 200メートル先の的をも射れると。

 

 そこで楽に弓を引けるようにと腕力向上や視力向上をすればもっと迅速に適確に出来るのではと考えてしまいがちだが。

 精度を要求される射手にとって普段と違う事があれば、それはささいなズレを生じ実は余計に外し易くなる。

 所謂普段通りに事が運べなくなる。

 

 それならば、何度射ても疲れないようにする疲弊減少や精神力を使うため精神力向上は、何度も射るためには適切なのだ。

 もっともラブ注入はアイラの冗談ではある。


 「色々ありがとうございます。様々なことが出来るのですね。確かだと伺いましたが……」


 「ノルン、奴に一本当ててこちらに注意を引き寄せてくれ。そうしたら後は俺がヘイトを稼ぐ。」


 

 ノルンは100メートル離れた位置から弓を構えている。

 ユータはサイクロプスから40メートルくらいの位置にある岩陰に隠れて様子を見ており、アリシアは70メートルくらいの位置で極大魔法を唱え始めている。


 普通に考えれば極大魔法は過剰戦力だ。

 一発で仕留めたい、目立ちたい、実力を示したい、レティシアに邪魔されて今までろくに魔法が使えなかったアリシアがそこは譲らなかった。


 「一発一中、ライジング・アロー」

 ノルンが声を発し、弓を引く。

 綺麗でしなやかな腕が一緒に後方で待機しているアイラの目に映る。


 (食べちゃいたいくらい綺麗な腕……)

 アイラの心中など誰も気付かない。


 「っ」

 アイラの弓から放たれた矢は、邪魔するものは何もなく、一直線にサイクロプスの……

 スクワットをしているサイクロプスのこめかみに突き刺さった。


 サイクロプスは何をされたのかわからないのだろう。

 突然受けた攻撃、そして何故か痺れる身体。


 一つしかない目を攻撃がきた方向へと向けると、自分を攻撃した人間の女の姿を捉えた。


 (人間、ヤルナ。)

 サイクロプスは心の中で称賛していた。

 あの距離で、動いている自分の急所を的確に射貫くその腕を讃えていた。


 しかしただでやられるわけにはいかない。

 自身の脳に言い聞かせ……ようとしたが、思うように思考が働かない。


 それは当然で、彼女……ノルンが放ったライジング・アローにはちょっとした電撃魔法が付与されていた。

 痺れていたのもそれが原因である。


 そして脳の一部に電撃が加えられたために、脳にもダメージがいっているのだ。

 ユータが岩陰から飛び出し、攻撃を加えヘイトを稼ごうとしている。


 しかしサイクロプスはユータの剣技に対しては然程の興味もない。

 傷はつけられているが、矢の衝撃に比べれば蚊程にしか感じていなかった。

 実際はそれなりのダメージを受けているのだけど、矢の精度と電撃に衝撃を受けているため、他は些細な事にしか映らない。


 「ぐ、ぐががが……」

 サイクロプスは無傷の左足太腿に左腕の拳を振り下ろした。

 その自らの自傷行為によりどうにか電撃による痺れから脱する。


 自分を射た射手に敬意を表し、これからお前の所へ行く。

 そしてヤリ合おうと思っていた。


 ヘイトを稼ごうとするユータのちまちました攻撃は目もくれず、ゆっくりと歩を進める。


 「あいつ、あんたを狙ってるよ。」

 アイラはノルンに助言をする。

 じりっと地面を踏みしめるノルン。


 「距離があるから、流石に正面から射ってもあたらないでしょうね。」

 そうは言いつつも弓に矢を添える。


 「じゃぁ不可視化も付けてあげる。」

 アイラが魔法を矢に付与すると矢がぼんやりとして見える。

 もっとも射手であるノルン自身にははっきりと映っている。


 「じゃ、軌道読まれるかも知れないけど、ただ射るよりは当たるんじゃない?」

 アイラはどこか余裕がある喋り方だ。

 

 「っ」

 ノルンから離れた矢はゆっくりと歩くサイクロプスへと向かっていく。 

 ユータが邪魔するのではないかと思われたが杞憂に終わる。

 本当は足等下半身に射たかっただろうけどユータがいるため上半身へと矢は向かって言った。



 「ぐがっ」

 サイクロプスは突然のチクリとした痛みに驚きを隠せない。


 矢が心臓の当たりに刺さっているのだ。

 深くは刺さってっていないため重要な機関への損傷はないと判断したようだ。


 構わず歩いた所でユーグが設置した二重丸を踏んだ。


 ドゴォーンとサイクロプスの足元で小さな爆発が起こった。

 土煙が晴れると、右足の至る所から血は噴出しているものの、肉が抉れる程の傷は負ってはいなかった。


 その後も何度もユータがヘイトを集めるために切りかかるもサイクロプスは全く相手にせず、ノルンへ向かって歩いていく。


 「一つ目にモテモテだね。まさしく一目惚れというやつかな。」


 「誰が巧い事言えと?」

 アイラもノルンも焦ってはいないが、二人の距離は少しずつ近付いている。


 何度目かの仕掛けの小爆弾を踏み抜くも歩みを止める事はないサイクロプス。


 「あ、そろそろ大魔導士の魔法が発動するよ。」


 「爆裂魔法、いっくよ~。」

 「エクスプロージョンっ!」


 晴れた空が唐突に暗雲に変わり、雲の隙間から円形の炎の塊がサイクロプスに向かって落下する。


 見上げたサイクロプスは逃げても間に合わない事を悟ったのか微動だにしなかった。


 「残念ながらあれじゃ死なないよ。重症は負わせられると思うけど。」 

 落下の音とここまで伝わって来る熱でアイラのその言葉はノルンには届いてはいない。

 しかしノルンはアイラの元から何かが放たれるのを見逃さなかった。

 

 爆裂魔法がサイクロプスを直撃し、サイクロプスのいたあたりは円形に地面が抉れている。

 周囲にはマグマのようなものがいくつも散乱し、熱は未だに周囲を立ち込めていた。


 その中で円形に窪んだ中心に大きな人影が見える。

 白い煙が晴れると、その姿は

 最期まで立ち尽くしていたサイクロプス。


 ただのBランクの魔物にしては見事だとアイラは思った。

 奴は立派な戦士だったと。 



 「「見事……」」

 アイラとノルンの言葉が重なった。


 その言葉は何に対してなのか。

 ノルンの一撃に対してのものか、アイラのバフに対してか、それとも最期まで臆する事なく立ち向かい死して尚二足で立ち尽くすサイクロプスに対してか。


 「魔物ながら立派な最期だった。」

 「そこに人間も魔物もない。」


 立派と言ったのはノルン、平等を唱えたのはアイラ。

 やはり見事と言ったのはサイクロプスに対してであった。

 

 「ねぇ、トドメを指したのは貴女でしょう?」

 ノルンが隣にいるアイラに尋ねた。


 「貴女にはバレてるようね。アリシアだっけ。彼女の魔法は見た目だけに見えたからね。極大魔法を打つだけなら出来るけどそれだけ。」

 「球速は早いけどキレがないから、簡単に持って行かれるみたいな感じかな。」


 「その例え、よくわからない。」

 

 「あぁ極大とはいったけど、実際は爆裂魔法だっけ……」


 「貴女こそ、本気出してないじゃない。そのの力を使えばあの程度なら初撃で倒してたでしょ。」

 アイラはアイラでノルンの底の深さを見抜いていた。



 「セーブして実力以下の力で行動するのって結構疲れるもんだねぇ。」

 アイラは一人ごちていた。



 「もっとデカい化け物が来たぁぁぁぁぁ。」

 鉱山で働く炭鉱員が絶叫と共に、ソレから逃げてユータ達の元へ駆けてくる。


 ユータ達が目にしたのは、先程倒したサイクロプスよりも何周りも大きく、10メートル近くはある巨人だった。


 「さ、流石に爆裂を2発3発は無理……」


 「そうか……集中力も半端ないしな。」

 ユータは撤退を決めた。新たに現れたのはSランク級の魔物、ギガンテスと呼ばれるサイクロプスの上位種。

 正直発展途上の勇者パーティでは勝てないだろう。


 抑、サイクロプスですら楽に屠れないのにギガンテスは無理だろう。

 レティシアがいなければCランク下位程度の実力しかない。

 来るべき魔族との戦いが本当にあるとして、あと3年はみっちり鍛えなければ霧散するだろう。


 「アイラ、ノルン。流石にアレは今は相手に出来ない。アリシアは流石に直近で2発も爆裂は放てない。」

 「俺はアリシアを連れて退する。お前達は民間人を連れて撤退してくれ。」


 撤退する事は別に構わないと思うアイラとノルン。


 しかしその方法が問題だった。

 ユータはアリシアとユーグを連れて先に転移でどこかへ消えてしまったのだ。



 「クズね。」

 「クズめっ。」


――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 アイラもノルンも何か色々隠してるのがバレてそうです。

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