第25話 レティシアは変態を集める才能ある説
「さ、着いたよ。」
レティシアはさらっと言うが、決して7人で歩いてアトリエに戻ってきたわけではない。
ギルドの隠し部屋からアトリエの住居側へと一瞬で転移しただけである。
「ここがお姉さまのお住まい……くんずほぐれつ入浴したり就寝したり出来る万魔殿……いえ、秘密の花園。」
怖い事をさらりと言うアルテを無視して案内を始める。
住居は事前に応接室で決めた通り。
3階の突き当りの大きな部屋はレティシアの部屋。
その手前の、一応隣の部屋となる左右にはそれぞれユーリとラッテの部屋。
そこから階段の方へ向かったところにある部屋にはメイドのメイ。
メイの向かいの部屋は空き部屋となっている。
階段の反対側にも4部屋あるが、そちらも空き部屋となっていた。
今回新たに従業員となる5人は2階を使う事で決定している。
ちょうどユーリやラッテ、メイ達の部屋の真下となっていた。
レティシアの真下の部屋は開かずの間となっており、普段は使う事がない事になっている。
1階には食堂、大浴場(温泉)、広間や会議室や応接室がある。
地下は……内緒であった。
1階からは通路が繋がっており、工房・店舗へと行き来が可能となっている。
今後従業員が増えれば空き部屋の解放や増築等まで考えてはいるレティシアである。
この部屋割に最初は難色を示した事は容易であるが、5人は一緒の方が良いと判断し全員2階で落ち付いて貰った。
でないと住み込みの話はなしにする……と言いかけただけで納得した5人である。
そこまでしてでも同じ空間、建物に住みたいと考える5人だった。
同じ建物に住んでいればワンチャンあるかも……と。
一旦荷物を部屋に置いてから再び1階の広間に集まり、通路を通って工房へと向かった。
「ただいま。私が留守の間は大丈夫だった?」
工房へ着くと、レジの前にいるラッテに向かってレティシアは話しかける。
視界に入る店内の様子を見れば明らかなのだけど、大丈夫そうには見えるけど、いなかった時間の事はわからない。
「問題ないです。って先輩達じゃないですか。新しい従業員って先輩達だったんですか?」
「あ、ラッテちゃん。これからよろしくね。」
気さくに話しかけたのは整理員のラモーヌ。
「よろしくお願いします。」
丁寧簡素に言ったのは裁縫師のラフィー。
「またよろしくね。あと、料理とお菓子は任せて。」
「よろしくね、ラッテ。」
ユキとカリンが続いた。
「これからまたよろしくお願い致しますね。ラッテさん。」
最後にアルテが繋いで絞めた。元が公爵家令嬢という事でそれなりには丁寧な喋り方となっている。
「先輩の皆様、こちらこそよろしくお願いします。」
ラッテとメイに休憩を与え、レティシアとユーリで店舗を回す。
その間に5人とラッテで暫く懐かしい時間を過ごして貰う。
時間にして数日ではあるけど、一緒に冒険していた旧知の仲の6人が一同に介したのだ。
懐かしむ時間を与えてから働いて貰っても良いだろうと考えていた。
暫くの休憩の後今日はメイを除く全員で店舗内で接客をし、問題もなく一日を終える。
初日という事もあり、今日の夕飯は歓迎会を含めてメイが準備した。
翌日からはメイとユキで大抵の食事は準備する事になる。
住居側を管理する人員も必要だなと感じるレティシアだった。
当面は住居側に2~3人を残し分担する必要がある。
そのため最初の分担はギルドの応接室で話し合っているので問題は少なそうではあるが……
今日は顔合わせという事もあり、全員が工房店舗に顔を出していた。
実は既に一部の客からは、新店員ですかと話しかけられたりと、一定層の人気のようなものは得ていた。
銀髪は少数ながらも存在するが、白い髪が珍しいのか一番人気はユキだった。
恐らく身体も白く病弱に見えるのかも知れない。
男客は自分が守らないとと庇護欲でも沸き立たせてしまうのかも知れなかった。
その中で、しつこい客に「お前を料理してやろうか?」と言った事があったが、その時の客はなんだか喜んで悶絶していたように、その場を見ていた従業員達は感じていた。
「あ、変態がいる。」といった感じである。
やはり、きっちりと交代でシフトを組めるように、あと数人必要かなと考えるレティシアの心境はユーリくらいにしか伝わっていない。
メイはなんだかんだと優秀なので大抵は一人でこなしてしまう。
オールマイティ従業員である。さすが
本来であれば、メイを屋敷側のリーダーにしたいと考えるところだ。
歓迎会は堅苦しい事は抜いて、楽しく食事を済ます。
「ゼリーフィッシュの刺身です。」
「キョ・ニユウ高山産冬瓜の饅頭です。」
「リヴァイアサンの煮付けです。」
「マーダーウナギの天麩羅です。」
「クラーケンと山菜の山葵和えと雲丹です。」
「古龍のシャトーブリアンです。」
「ロ・リィタ川産若鮎の南蛮漬けです。」
「古代米・ヒトメボレの白米とレインボーシェルの赤味噌汁です。」
「ゴールデンスライムのシャーベットです。」
メイとラッテが運んでくるメニューのほとんどは、レティシアがダンジョンで狩った様々な魔物素材だった。
コース料理のように運ばれてくる様々なメニューはどれも新規従業員となる5人は口をあんぐりさせて驚愕し、どれも「美味しすぎる!」と絶賛して食していた。
「あまりの美味しさに漏らしてしまいそうですわ。」とどこかの貴族令嬢が言葉を漏らしていた。
食後、新人5人プラスラッテの6人は一緒に入浴を済ませていた。
その場で何があったのか……
火照った身体の6人が出てきた事を考えれば多くを語る必要はあるまい。
レティシアの事を語り過ぎて、のぼせ掛けたというのが真実である。
部屋に戻ったアルテは一際冴えていた。
人形の試作をしたいとレティシアに相談したところ、翌日に支障がない程度にねと適当に素材になりそうな糸や布、綿などを頂戴していた。
「むふふふふ、今の私なら等身大が作れそうですわ。」
隣の部屋のカリンは時折聞こえるアルテの声に煩いと思いながらも、自身の応援団のバフを掛けていた。
アルテは寝ずに製作に励んだ。
素材には既にレティシアの加護が掛かっている、自身には本人の知らぬ間にカリンのバフが掛かっている、そしてアルテ自身の妙なスイッチが入っている。
とんでもないものが出来るのは必然の事だったのかも知れない。
太陽が昇り始める少し前、アルテは3階に行きねこみみメイドのメイの部屋の扉をノックする。
「なんですかぁ。」
間延びしたメイがねこみみしっぽつきのパジャマで出てくる。
「これを製作したのでお店に、出来ればレジの前に飾りたいのですが……」
空間収納から取り出したのは先程製作した人形である。
アルテは人形師ではあるが、実家の力を駆使し高名な魔導士に教えを請い、空間収納を取得している。
製作した人形達や素材を収納するためである。
本当は自身が持っている素材で製作は可能であった。
アルテ本人がレティシアお姉さまから下賜された素材で作る事に意義を見出しただけである。
お姉さまからの贈り物で製作したという既成事実が欲しかったのである。
初めての共同作業(大分無理があるが。)というわけであった。
「アルテイシアさん、貴女天才ですかっ!」
その言い訳染みた説明を含んでの天才か!である。
「貴女も強力なライバルになりそうですね。」とメイは漏らしていた。
その後二人は1階の通路を通り店舗に移動する。
もう少し前とか、角度がイマイチと言いながら小一時間掛けてそれを設置する。
二人が部屋に戻り布団に入った時には太陽の頭がこんにちはし始めていた。
朝食前に一度店内の様子を確認しようとレティシアは店舗の扉を開ける。
「ぬあ、ぬぁんじゃこりゃぁぁぁぁぁ。」
これまで一度も発した事のない絶叫が店舗を包んでいた。
心なしか、レティシアの長い髪が逆立ったきらいがある。
誰も見てはいないが、鬼女レティシアの誕生の瞬間。
そこにはとても精巧に出来た等身大レティシア人形がレジの横に掲示されていた。
ポップなどではない、等身大人形である。
動き出しても不思議ではない。
レティシアと並んでしまえば、普段から良く一緒にいるユーリ達以外ではどちらが本物か見分けがつかないレベルである。
そして、初日だというのにメイとアルテは寝坊をしていた。
メイはあの時間に起こされ妙な興奮から、アルテは深夜に頑張り過ぎてこれまた緊張の糸が切れたからである。
朝食は食材を適当に冷蔵庫や保管庫にしまってあるため、料理人のユキが作っていた。
「口に合えば良いのですが。」とユキは言っていたが、メイにも劣らない出来であったとレティシアは思っている。
そこでユーリが少し悔しそうな顔をしていたのだが、それは居場所がどんどん減っていく事への懸念からか。
午前10時、開店する。営業時間は10時から19時に変更した。
殆どの店舗が同じような時間帯での営業なので、シアのアトリエもそれに倣う事にしたのだ。
【私はこの人形を徹夜で製作し今朝寝坊しました。】というプラカードを首からかけ、午前中いっぱい等身大レティシア人形の左右に正座をさせられていた。
ちなみに寝坊をした二人の朝食は蒸かしたサツマイモのみであった。
午前中にアルテの実家関係の者が偶然視察に来ていたのは内緒の話。
――――――――――――――――――――――
後書きです。
蒸かしたサツマイモのみの二人が午前中いっぱい正座させられたらどうなるでしょうね。
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