第15話 百合の花

 フラベル家に招かれる形となったラッテは、これみよがしに今日のレティシア達の活躍を話していた。


 夕食の場での談笑中では恋する乙女のように美化120%で語っていた。

 父は娘の活躍をデレデレしながら聞いている。

 やはりうちの子は凄い、最強に可愛いで「さいかわ」とか言いながら聞いていた。


 親バカも過ぎると害悪になってしまうのだが、フラベル家においてはその限りにない。

 持ちつ持たれつ良いバランスがとれていた。

 悪い言い方をすれば利用しあっているともとれるのだけれど、今の所それが悪い方には働いていない。

 レティシアが幼少の時期に決められたあの婚約の件を除けば……


 食事も終わり、食器類も片付け食後のティータイムを楽しんでいる時の出来事。


 「ねぇパパン。私が倒したエルダートレントが出現した当たりまでの森を私にいただけないでしょうか?」

 父であるレオナルドには、事前に地図で確認をして貰っているため、大まかな土地の範囲は把握している。

 

 そして父には事業計画書とまではいかないまでも、何をやりたいかも伝えてあった。

 そのためには安全性を考慮し、街の外壁のようにそれなりの壁を作らなければならない。


 「暫くは工房の方を重視するのであろう?色々手を出して手に負えるのかい?」

 妙に優しい口調で返事をするレオナルドは、語尾が小さな子供に対するものになっていた。

 

 「シアがパパンと呼ぶ時は大抵おねだりだからね。そして父上は娘達に甘いから反対はしないだろうけど。」

 ワイングラスをテーブルに置き、ライティースがしみじみと語った。

 

 「可愛い娘の頼みを断る親などおるまい。貴族である前に人の親だからな。法に触れなければパパンは何でも言う事聞いちゃう。」

 レオナルドは清々しいまでに言い切った。そして威厳は激減していた。


 「師匠の事だから工房はすぐ完成すると思いますので、師匠次第ではありますが外壁の制作も追加依頼しようかと思っておりますわ。」


 「シアのお嬢様言葉に違和感……」

 魔女の窯の中身のような赤紫色のワインを飲みながらユーリは呟いていた。


 フラベル家の敷地は庭や専用の外壁を含めればかなりの広さがある。

 それに近いくらいの広さがレティシアの求める土地にはあった。


 農園と酪農。最初は農園しか出来ないけれど、後の事を考えての早目の土地確保に踏み切った事になる。

 そのために外壁と整地を先だって行いたいというわけだった。


 「親としては子供のやりたい事は応援したいと思ってる。人手等他に必要なものが出てきた時にはまた相談に来ればいい。」

 二人の母親はそれらのやり取りを黙って聞いていた。

 他の姉妹はラッテを可愛がっている。ツインテールが可愛いようだった。

 おだんごにしたり


☆ ☆ ☆


 風呂の準備が出来ましたと、ねこみみメイドのメイが伝えに入室する。

 部屋の中にはレティシア、ユーリ、ラッテ、イリスの4人が在室していた。

 イリスの要望でもう少し細かく妹の活躍をユーリ視点、ラッテ視点で聞いていた。

 メイが入室してきたのはそれらが区切り良く終わり、次は何を聞こうかなとイリスが考え始めたところであった。

 尚、他の兄妹はそれぞれの部屋で各々自由に過ごしている。


 長兄ライティースだけは父と一緒にワインの続きを楽しんでいる。


 「一緒に入りたいです。というよりお背中お流しします。寧ろ前も洗わせていただきたいです。」

 金髪ツインテール・ラッテが右手を高らかに挙げて宣言していた。

 


 「あらあら欲望に忠実なお嬢ちゃんね。ユーリちゃんもうかうかしてられないわねぇ。」

 右頬に手を当てながら微笑ましくユーリを見つめるイリス。

 イリスはユーリの心情を掴んでいるかのような節がある。

 

 「私はみんなを応援するわ。その最終形態が何であれ楽しそうじゃない?」

 ユーリはイリスが結婚もせずに実家にいる理由の一つを垣間見た気がした。

 この人はきっと妹を溺愛しているのだ。だからこそ身近で妹を見ていたいのだ。

 ユーリは更にその先も想像してしまった。

 自らもその一員に加わろうとしているのではないかと。

 

 レティシアを中心にしたレティシアと愉快な仲魔たちに。

 ラッテがこれほどまでにお姉さまとレティシアを慕っているように、これからもそういった娘が増えそうな予感がしている。

 そうなった場合、きっとこの姉もその輪に入ろうとしているのではないかと。


 しかしそれは全てユーリの妄想に過ぎないのだが、果たして妄想で済むかどうか。

 

 


☆ ☆ ☆


 「ちょ……そ、そこは違いましてよっ。」


 「だから違和感……それとうらやましい。」


 「はぁぁ、シアお姉さまぁ。」


 「うふふ、修羅場になっても萌えるけど、きゃっきゃうふふを見るのも萌えるわぁ。」


 4人が同居する浴場では別の欲望が欲情の渦と化していた。


 「次はぁ、ユーリお姉さまもぉ。」


 「うふふうふ。青春だねぇ、アオハルだねぇ、白い百合だねぇ、テッポウユリだねぇ、甘美甘美。」


 これ以上は女の子の花園となるので湯気と姉の奇妙な笑い声や言葉で誤魔化されていく。


 「ユータ様の御実家には黒い百合でも贈ってさしあげましょうかねぇ。」

 邪悪な笑みを浮かべながらイリスは呟いた。


 「こわっ、イリスお姉さま怖いよ。」

 姉の言葉に恐怖を感じるレティシア。拳で魔物を屠るレティシアにして恐怖を感じさせるイリスの発言。

 黒い百合の花言葉は①呪い、②復讐である。

 イリスはどちらの意味で言ったのだろうか。


 「まぁ実は父の書類に添付して既に贈ってるのだけどね。」



 「シアお姉さまの蜜もユーリお姉さまの蜜も完備ですよぅ。」


 「そうなの?それでは私も……」


 更なる湯気たちの活躍に乞うご期待。



☆ ☆ ☆


 「シアって受けだったかしら?」


 「何の話?」

 イリスの問いかけにレティシアが答える。

 イリスは食卓や風呂場での出来事から今日の総評を述べていた。


 イリスの観点から、レティシアはまだ目覚めていない。真実の愛に。

 流されているというのが現状だった。それでも心底から嫌がっているわけではなく、端からみればそれは受けと見られる。


 「シアが人気者だというのは実感したわ。同性からの人気がね。」


 その日、同じベッドで4人が寝た。

 姉の特権が発動しレティシアの両隣にはイリスとユーリ、一番外側で不平を言うかと思ったけれどラッテは満足していた。

 ユーリに抱き付くラッテ、レティシアに抱き付くイリスとユーリ。


 就寝して数時間後の光景だった。



☆ ☆ ☆



 数日後、師匠からの波動を感じたレティシアはユーリとラッテと共に工房建設地へと赴いた。


 「あ、やっぱり仕事早い。でもこれ、多分二日後にはほぼ出来上がってたのでしょうね。」


 数日前までは草木が生い茂っていた土地に今では立派な建物が建っている。


 「おう。バカ弟子。完成したぞ。」

 後にも先にもレティシアをバカ弟子と呼ぶ人物は一人しかいない。

 


 「安心しろ、勝手に分解したり変形したり巨大兵器になったりはしない。」


 「いや、そんな心配は……」

 ゼロとは言い切れなかった。

 伝説の土木作業員である師匠・西方無敵が普通の建物を設計図通り建てているとは思えなかった。

 注文主ですら知らないギミックがあっても不思議ではない。


 「流石に勝手な追加機能は付け加えない。ワシをなんだと思ってる。」


 全体を見渡したレティシアは感動からか、「ほぇぇ」とか「へぇぇ」とかしか声が上がらない。 



 ちなみに、レティシアを呼ぶために放った師匠の波動。

 ユーリは前回の事があるので、腰を抜かす程度で済んだが、ラッテは耐えられなかった。

 可愛い水溜まりを形成した事は、レティシアとユーリとねこみみメイドのメイだけの秘密である。


 風呂でのにと、レティシアが脱がせて洗って拭いて穿かせていた。

 ユーリの時と同じである。その様子を見ていたユーリとメイの嫉妬があったとかなかったとか。


―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 さて、スローライフの始まりです。


 百合の花言葉はバラとかと同じで色で全く違います。

 調べてみると色々面白いですよ。


 百合百合しい出来事に混ざる黒い百合の話なんて……


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