第48話 山猫団が消える日④「首魁すら名前を名乗らせて貰えない」
「ねぇ、聖女の私も吃驚な回復なんだけれど?」
レティシアは隣で戦闘を見守っているユーリに問いかける。
「私も同じ意見です。少し雰囲気が違うだけで、身体の欠損を治す当たりは変わらないように感じますね。」
ユーリが言う通り、ユーフォリアの攻撃はえげつない。
痛みを10分の1にするという魔法をかけて、身体の動きを止めて身体を少しずつ削り取っていく。
全裸にしてというおまけつき。
もちろん女性陣の尊厳を奪ったモノは何度も砕いて切り刻んでいる。
「その程度のモノで私達に何をするつもりだったのかね。」
ユーフォリアの言葉も行動も悪魔が乗り移っていたかのようだった。
何度も身体を切り刻まれ、既に戦意どころか生きる気力すら失っている相手だった。
ユーフォリアは切り刻んで落ちたスライス肉を目の前で焼く。
そして回復させ失った部位が元に戻る。
元に戻ると再び肉を削ぎ落とす、焼く、回復させるをかれこれ30分は続けている。
自殺防止の魔法……精神魔法を施した上で。
「世界を震撼させた盗賊も、所詮はクソみたいな連中の集まりだったね。」
それはユーフォリアを始め、レティシアと愉快な仲魔達の方が化け物染みた集団だったからというのが理由ではある。
勇者にして万能過ぎると言われたレティシアは本人自体もさることながら、加護や創作物等にも万能過ぎる効果があった。
その影響で周囲のレベルアップが尋常ではなかったのだけれど。
ユータ達は自分達が活躍出来ない事に納得がいかずに、レティシアを追い出してしまった。
しかし世界には強者と呼ばれる者はまだまだいる。
レティシアが知らないだけで、他の人間が知らないだけで。
「そろそろ時間の無駄だから終わらせてあげる。アンデットにも来世にも期待はしないで頂戴。」
ユーフォリアから放たれた青白い炎は相手の盗賊団副団長を飲み込んでいく。
結局名乗りすら上げられずに5人の内3人がこの世界から消えた。
「ユーフィ―ちょっと怖かったね。」
戻ってきたユーフォリアにレティシアは声を掛ける。
「まぁ、悪漢には色々思うところがあるからね。」
「女の敵には容赦なしって事かな?」
レティシアはユーフォリアが時間をかけていたぶっている間に何もしていないわけではない。
ぼろぼろの女性陣を回復させていた。
あのダルマにされていた女性も、四肢が落とされたのが嘘のように元に戻っている。
ただし、未だに全員意識は戻っていない。
万能ではないと本人が言っているのはこういうところである。
万能であれば、意識だって戻っているはずだし、心に追った傷も気にならないようになっているはずである。
緩和させたりは出来てもなかった事には出来ない。
口惜しいと思いはしても、それを悲観しても仕方がない。
「じゃぁ私は……」
レティシアは一つ気合を入れると自身の周りに目には見えない何かを張り巡らせる。
聖光気……聖女としての聖なる力を障壁のように身に纏うものである。
ただしそれを相手に伝える事はしない。
その壁は仲間達に向かっても展開していた。
「なんでも切る斬るマンの人。団員はもう貴方一人しかいないけど、全てを失う準備は良いかしら?」
男は重い腰を上げてゆっくりと近付く。
込み上げるオーラは禍々しくとても人間の出すものではない。
何の憎悪や悪意があればこれだけのものが人間出せるのか。
それはレティシア達が知るはずもない。
「一番断ち切りたいのは、運命だ。俺達だって最初から盗賊になったわけではない。」
それは元は孤児であったり、貴族からの理不尽な扱いであったり。
とにかくろくな人生を過ごしてきてはいないというもの。
「腐らずに真っ当に生きようとしていた仲間程真っ先に死んだよ。主に貴族のエサにされてな。」
だからこそ、狙うのは貴族か裕福な商会だったりしたのだが、それは狙われる側のせいではない。
「その話、長いのかしら?」
「いいや。もう終わりにするさ。お前も貴族の一族なのだろう。遠慮なく切断して……なっ」
「今、なにかしたのかしら?」
「そ、そんなばかな!?」
切断者の男の能力は言ってみれば次元刀のようなもの。
この次元刀で斬ったものが切断するのだけれど、先程から男が切断しようとしても弾かれていた。
「全てが万能ではないけれど、私の障壁は万能のようね。この程度の壁すら切れないのに切断者とか名前負けも良い所……」
「くっこのっ。」
男はレティシアに通じないのであれば、その仲間を切断してやろうと力を向ける。
「今、なにかしたのかしら?」
同じ言葉を再び投げつける。
仲間を狙った次元刀はレティシアに向けた時同様に何かに弾かれていた。
「戦闘中に関係のない仲間に向けるなんて……5対5の戦いを持ちかけてきたのはそちらですのに、随分と勝手な事しますわね。」
「ユーフィ―じゃないけど、私……ぷっつんします。私キレます。」
「私、家族や仲間の女の子を傷つけるヤツは赦しません。」
「聖なるフィールド。」
周囲が光を放つと、男が一瞬目を離した瞬間に別の場所に転移させられたのではないかと疑った。
「ど、どこだここは!?」
「ここは私の世界。聖なるフィールドと私は呼んでる。この空間には私と貴方しか存在しない。でも外の人には中の様子が見えるように改変してあるの。」
レティシアの手からはラウネのような触手が伸び、男の身体の自由を奪う。そして地面に縫い付けた。
「ねぇ、女の子を貫くモノ、これが何度も破壊される苦痛を先のユーフィーの攻撃がマシに思える程味わいなさい。」
ここからは自主規制が入り外の者には金色のモザイクが掛かって一部見えないようになっている。
具体的には成人である15歳以上の者以外には普通に見えている。
つまり、モザイクは意味あるの?ラウネ以外には普通に見えてるよ?である。
「え、えげつない。確かに私のやってた事がまだマシな気がしてきたわ。そこだけをピンポイントって……」
ユーフォリアは頬を掻きながら言う。
「シアってあまりこういう姿見せないですし。今回は本当に怒ってるのでしょうね。」
「私達の時は相手が魔物だからまだ違ったのかな。」
ユキがぼそりと呟いた。冒険者になると決めた時から自身の命や女である事はある意味諦めてはいたとはいえ、いざその時がくると怯んでしまうものである。
「そこは否定しませんが、あの時も充分怒ってましたよ。ただ、今回は同じ生き物と呼ぶには反吐が出ますが、同じ人間が相手なのでその怒りもハンパないのでしょうね。」
ユーリは冷静に返答した。
「じゃぁトドメを刺してあげる。実は人を殺めるのはここの盗賊団が初めてだったのですが……」
「悪党が相手だったからでしょうかね。魔物を倒すのと変わりませんでした。」
言葉が丁寧なためある程度は冷静さを取り戻している。
「これは、エルダートレントの幹から削って作った槍です。」
木槍とでも言おうか、大昔の人類が使っていたと資料に残っている槍の形状をしていた。
流石に手に感覚が残るのは嫌なのか、レティシアは聖なる手を魔法で作りだし槍を構えた。
「な、なにをする。」
「や、やめ……やめてく……」
「貴方はやめてと言った女性に対してどうしましたか?遠慮なくそのブツをぶち込んだのでしょう?」
聖なる手は木槍を全裸にひん剥かれた男の肛門に先端を当てた。
「オーク等が捕まえた男性を処刑する遊びをしたと、文献が残ってますので別に私が残虐なわけじゃないですよ、所詮は二番煎じというわけです。」
「ひぃぁっ、やめてっやめてそれだけはっ」
聖なる手はその言葉を無視して一気にトンネルを潜った。
文献に残っているオークの拷問方法には、このまま口まで貫通して人間の丸焼きを作ったと記されている。
しかし聖なる手はそこまで突っ込んではいない。
恐らくは肺のある位置あたりで止めている。
「あがぁぁぁがぁああうああうあぁあががあぁぁあぁ、ぶべはぁあぁぁぁっ。」
直ぐには絶命しない。
「処女喪失……おめでとうございます。」
聖なる手はそれを持ち上げ根本側を地面に突き刺した。
「聖なる手が性なる手になっちゃったじゃない。」
レティシアは一人ごちた。
「やったのはシアだけどね。」
ユーフォリアがツッコミを入れた。
ユーリは苦笑いで返した。
何故かユキとアルマは輝いた目でレティシアを見ている。
ノルンはユーリと同じくやや苦笑い、ラウネはまだ寝ていた。
「さ、奥に急ぎますか。この盗賊団の地獄を見る事になりそうだけれど。」
「うわぁ痛そ~」
ユーフォリアは通り過ぎる際、串刺しを見て呟いた。
件の男はまだ絶命はしていない。
身体を襲う激痛と惨めさに耐えながら、どこで道を間違えたか記憶を辿っていた。
そして答えの出ないまま男の意識は途絶える。
その最期を見届けた者はいない。
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