第49話 ライラ、永遠の18歳。(そんなわけない。)
奥の部屋までは分かれ道は存在しない。
串刺しオブジェと化した山猫団首領を通り過ぎると、奥の部屋へと向かう。
「一応というのは失礼かも知れないけど、命の反応は二つあるね。」
「うっ」
アルマが気分を悪くする。
それは先行した人形が見たものを共感する事が出来るためである。
「た、確かに地獄ですわ。」
アルマの人形により他の敵もなく、罠もなく件の部屋まで行ける事が理解出来る。
「心を強く持って行きましょうか。強心臓!精神強化!」
レティシアが心を強く持てるようにバフを掛ける。
その結果吐きそうだったアルマの容態は落ち着いた。
冒険者達は一つ前の部屋に寝かせてきている。
目が覚めたらその時はその時だと考えていた。
レティシア達が奥の牢兼墓となっている部屋に辿り着くと一人の女らしき大人一人と、赤子を抱いている姿が一同の目に入った。
なにやら子守唄のようなものでも歌っているのだろうか。
女は精液と土に塗れており、お世辞にも綺麗とは言い難い。
手足は折られているのか、そして変に修復されていたのか、所々おかしく曲がったり膨らんだりしていた。
「あ……」
「間に合わなかった……」
赤子も一緒に精液や土に塗れていたため、呼吸もままならない状態だった。
「すまない。あいつを殺すのに遊んでいたせいで……」
ユーフォリアが誰に聞かせるわけでもなく頭を下げた。
例え種が盗賊団のものであっても、母体や生まれてきた子には罪はない。
今失われた命も、すんなりとこの部屋に来ていれば、来て直ぐに回復を掛けていれば失われずに済んだであろう。
ある意味ではレティシア達が命を奪ったとみられても仕方がない。
しかし、抑々の話、レティシア達が来ていなければ、一つ前の部屋にいた女性達も同じように常時犯され子を産み続ける事になっていたのだ。
それを阻止出来ただけでも、本来であれば賞賛されるものではある。
ただ、矜持の問題であった。
出来たはずなのにしなかったという後ろめたい気持ち。
「回復」×2
レティシアとユーフォリアのそれは同時だった。
目の前の女性と赤子の外傷は消え去った。
変に曲がったり膨らんでいた腕や足なども、恐らくは元のように綺麗に生えていた。
そして完全とはいかないまでも、精神も癒されたのだろうか。
女の焦点が合ったように感じる。
「あ……」
そして自らの赤子が息絶えている事に気付く。
「すまない。もう少し早く着いていれば。」
女は首を微かに横に振った。
事情は察しているのだろうか。
「その子を弔う手伝いをさせて欲しい。」
「わ、わたし、ひ、ひとり……出て、いくわ、けには……」
掠れた声で女は呟く。後ろに眠る仲間達の事を指しているのだろう。
彼女らを置いて出て行くわけにはいかないと。
「奥にいる仲間の事を言ってるのなら、全員の亡骸をそのまま持ち帰る事出来るよ。」
レティシアが答えた。
空間収納で土毎持ち帰る事が可能だと。
「それなら、ここから出るのには異論はない?」
女は辛うじて首を縦に振る。
「わ、たし。ライ……ラ。ここ……にくる前は18……だった。」
ライラは少し前に山猫団の男の会話を聞いている。
今はあれから約5年が経過している。
「私はレティシア。一応これでも聖女だよ。ぴちぴちの18歳。」
「シア……ぴちぴちって……」
レティシアなりの気遣いだろう。暗いままよりは少しでも前向きに明るくという。
順に自己紹介をしていく。
終わるころには少しはライラも落ち着きを出していた。
ぎこちないまでも会話を成立させられる程度には。
「回復はしてるから歩く事は出来るだろうけれど、どう?」
子を抱きかかえライラは立ち上がる。
身体は回復していても、歩く事が出来るかどうか。
通常では中々難しい事だが、レティシアの回復はちょっとおかしい。
今回はそこにユーフォリアの回復も入っている。
ライラは一歩目を踏み出す。
5年振りに踏み出した一歩。
歩けた事に感動してか、ここから解放される喜びか、それとも亡き仲間に後押しされてか。
一歩目を踏み出した彼女の目からは一滴の涙が頬を伝って……
「しょ……っぱい。」
レティシアはライラの背中を擦ってあげている。
もう大丈夫だ、苦しまなくて良と無言の手がそう告げていた。
「ユーリ、彼女をお願い。私は彼女らを連れて帰る。」
連れて帰る……それは土の中に眠っているライラの仲間や、不遇に命を授かったものの生きる事を赦されなかった小さきもの達。
ここの土は彼女らには嫌かもしれないけれど、流石のレティシアも中に埋まる遺骨や遺品だけを抜き取る事は出来ない。
周辺の土毎持ち帰るしか出来ない。
「これで良し。他に反応はないから漏れはないかな。」
土毎であればあっさりと、ぼっこりと持ち帰る事が出来る。
そのあたりは便利な空間収納であった。
「ひぃっ」
一つ前の部屋に戻ると、山猫団首魁の串刺しが嫌でも目に入る。
散々苦しめられた相手とはいえ、山猫団の男を目にしたライラは一瞬恐怖に陥る。
「大丈夫だから……」
レティシアが耳元で囁くと、ライラは恐る恐るその男の亡骸を目にする。
ライラは再び重くなった両足に力を入れると、一歩また一歩と進む。
血と臓物の臭いが、周囲を漂わせるが魔物が寄って来る気配はない。
レティシアによってある意味聖域と化しているためとも言えた。
ライラが最後の力を振り絞り、男の前を通過し終えると、レティシアは空間収納に首魁の身体を串刺しのまま収納した。
これは勿論、後に冒険者ギルドに差し出し報酬を貰うためと、これで山猫団の脅威はなくなったと皆に理解してもらうためだった。
「流石にいきなり宿屋の中とかに転移すると面倒な事になりそうだから、町の入り口近くにしましょうかね。」
レティシアに促され、帰路の準備に取り掛かる。
準備と言っても全員を一ヶ所に集めるだけなのだけれど。
「そういえばユーフィー……」
レティシアは立ち止まると振り返りユーフォリアを見つめる。
「隠さないんだね。」
レティシアが問う。それは何をさしているのか。
戦闘での事を指しているのか、回復など多様なスキルの事を指しているのか。
時折見せる闇のようなものなのか。
「これでもSランクだからね。」
ユーフォリアが返す。
その先の問いをしようとして、レティシアは言うのを止めた。
その先を聞いてしまっては後戻りが出来ないような気がしたからだ。
「そっか。其処に至るまでの
だから何気ない言葉に変えた。たった一言の人生と言う言葉の重みを知ってか知らずしてか。
「……まぁね。」
だからユーフォリアもありきたりな言葉で返した。
お互いがターニングポイントである事が分かっていたかのように。
レティシアは気付いていた。
ユーフォリアが副団長を拷問のように切り裂いていたモノと、レティシアの相手だった首魁の男の能力が同じだった事に。
隠さないんだねと問いかけたのは、そのことも含めてなのだけれど、言葉に出さずとも伝わったのか伝わらなかったのかは、現時点ではどちらにもわからない。
レティシア達はここから立ち去ろうと全員を一ヶ所に集める。
元々冒険者達は一ヶ所に寝かせてあったし、然程時間の掛かるものではない。
忘れ物がないかとか、証拠になるものは他にはないかとかを見直す時間である。
レティシア達が帰路への準備をしている最中、ユーフォリアは一人隅の方でその様子を見ていた。
「やはりどの時代も男というのは……いや、人間というのは業が深すぎる。」
「あいつらと一緒だ……」
ユーフォリアは自らの腹部に手を置いて、何かを思い出すように深呼吸をした。
「じゃぁ、町の入り口手前に……転移!」
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